異世界転生!魔王になったけど、眠っていいですか?

ナイム

魔王発生編

第1話 生の終わり

 きゃぁぁぁ!


 ある街の交差点で女性の悲鳴が響きわたり。女性以外の人々も何かから逃げるように走り出した。

 その逃げている人々の視線の先には、もの凄い速度で歩道へと乗り上げて走っている大型トラックがあった。


 しかし騒ぎの中、完全に動きを止めている制服を着た高校生の少年が1人。その少年は暴走トラックに気が付いていなかったようで、平然と近くのコンビニから出て来たのだ。

 そして出たと同時にトラックに気が付いた少年は完全に諦めてしまっていた。


(あぁ…これは避けられないな)


 絶望的な状況にも関わらず少年『黒木場くろきば彰吾しょうご』は冷静に状況分析をしたうえで、この距離からの回避は不可能だと考えて無駄に動く事を止めたのだ。


(はぁ、しかし車に引かれるのは痛いんだろうなぁ…痛いのはやだな。でもいつか死ぬと言うのは分かっていたけど、今日になるとは…)


 のんきに彰吾が考えている間にもトラックは周りの物を弾き飛ばしながら近づいて来ていた。

 その時に後ろから制服姿の誰かが必死に走ってきている事に彰吾は気がつた。

 走ってくる誰かを確認して彰吾は少し驚いたように目を見開いた。


桜御さくらみ しずくだったか?何であいつがあんな必死に俺なんかを助けようとしているんだ?)


 必死な表情で助けようと走り寄る女子は、彰吾と同じクラスの桜御 雫だった。

 雫は黒く綺麗な背中まで伸びた髪、その髪とは反対に肌は白くはかなげな印象を周りに与えていた。そんな彼女は学校では現代の白雪姫と呼ばれて、学校中からの注目の的だった。

 そんな雫の事は色恋なんかに興味のない彰吾も知っていた。


(あぁ…どうしようかな。このままだと、あいつどう考えても間にあうな…でも、その場合あいつは助からない。そうなった場合どうなるか…)


 自分を助けようと走ってくる雫を見ながら彰吾は冷静に考えていた。

 そうして考えた結果、どうするのかを決めた彰吾はゆっくりと雫の方へと振り返って、それに気が付いた雫は笑顔を浮かべて手を伸ばす。

 しかし手を伸ばした雫に対して彰吾は全力で鞄と買った物を入れていた袋を投げつけた。


 まさか彰吾がそんな行動に出るとは思っていなかった雫は無防備にその二つに当たった。しかもその二つは狙っていたように鞄が足元に当たり転ばせ、そのすぐ後に買い物袋が肩にぶつかり後ろへと倒れた。

 その結果を見届けた彰吾は満足そうに頷いていた。


(よし、これで2人とも引かれる事と、俺を助けてあいつが死ぬと言うめんどくさい結果の両方を回避できた)


 偶然ではなく彰吾は狙って雫を転ばせたのだ。何故ならこのままでは2人とも引かれる可能性が存在した。

 更にもし彰吾が助けられたとしても、雫は助からず引かれて死んでいた。そうなった場合、人気者を死なせたとして自身がどういう扱いを受けるのか、そこまでを考えた彰吾は自分1人が死ぬのが一番リスクがないと判断したのだ。


(ふぅ…そろそろだな。特に思い残すことも無いが、あの買ったハンバーグ弁当くらいは…食べたかったかな?)


 ゴシャッ‼ガシャンッ! イヤァァ――――――――‼‼


 そしてなんともしまらない事を考えながら、彰吾はその人生に幕を下ろしたのだった…

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