第17話 午後のサイコメトリーは終わらない
莉々菜が後部に座る護衛に叫ぶ。
男女二人の護衛が馬車を降り魔物に向かって走る。既に槍を抜いている。女性の方は剣だ。
前方の馬車からも護衛が二人づつ、計六人で魔物に当たるようだ。
「良く見たほうが良いよ。護衛の持つスキルの一端が垣間見れるかもよ。」
「言われなくても見てるよ。」
「ちょっと、何その言い方。私、あなたのママじゃないよ!」
「悪かったよ。ちょっと、思い通りにいかない現実に苛ついちゃったんだよ。」
「という事は問題解決に前向きになったってことね。明日、本気で盗賊をなんとかしようと思ってるわけね。」
「かもな・・・」
馬車は停車し護衛達が討伐する。二人は魔物と護衛の戦いを見つめていた。
魔物は茶色い人間よりも小さい、子供くらいの魔物。顔が醜悪で猿と人間のちょうど中間のような魔物だ。臭気がここまで漂ってくる。
「あの魔物ってなんですか?」
莉々菜が後ろの席の男性に尋ねる。
「あれはゴブリンだよ。ブラウンゴブリンだな。」
「え?ゴブリンって種類があるんですか?」
「あるよ。ブラウン、グリーン、斑のあるスポッテッドとかな。まぁ、どれも雑魚だ。大したことはない。」
冒険者は簡単にゴブリンを片付けていく。ゴブリンは全部で三十匹はいるが、どんどん数を減らしていく。
一番前の馬車から出てきた護衛は一人は巨大な鎌を持ちまるで死神のようだ。もうひとりは剣だ。真ん中から出てきた護衛は両方剣で戦っている。
「皆剣ね。あんまり強そうではないし、補助的なスキルを持ってればそれを覚えるほうが有効かもね。槍と鎌があるけど、槍のスキルは貰ったって言ってたよね?」
「ああ。『槍術Lv.1』ね。レベル1だからあんまり使えないかも。」
一番前の馬車から弓が飛んでゴブリンを倒し始めた。見れば女性が弓を射ていた。
「あれ、あの人耳が長くないか?」
「そうだよ、あの人、エルフだよ。」
「彼女は弓術のスキル持ってるよね、弓術のスキルは欲しいな。」
「あれば遠距離から攻撃できるわよね。」
「よし、莉々菜が貰え。」
「出来るならやってるわよ。なぜいつも出来ないことをやれっていうのっ!」
「俺を触って俺の記憶を読ませればリリナが俺のスキルを取得できるんじゃないのか。でもまず触らせろ。」
「い、嫌、嫌よ。私の秘密を知られたくないし・・」
「なぁ、今更そんな事関係ないだろ。秘密って彼氏とのエッチな関係を知られるのが嫌なのか?確かに、現場が映像として見れるかもな。でも、もう今更だろ、あきらめろ。」
「どうしてもっ!兎に角お昼が勝負よ。出来る限り触ってきなさい。」
「じゃあ、あのエルフを念入りに・・痛っ!殴るなよっ。俺はお前の彼氏か!」
「黙れ!澪の代わりにやってるのよ。」
「・・って、生徒会長も俺の彼女じゃないぞ。」
「可哀想に、彼女もいない童貞少年ね。」
「煩い!」
気がつけば戦闘は既に終了、馬車はまた走り出した。
「おっ!ダイヤモンドヘッドが見えてきたぞ!」
「何?まだハワイごっこやってたの?」
「うっ、煩い!」
数時間後、馬車は昼食のため予定の場所で停車した。これは人間の為の昼食だけではなく、馬の食事と休憩も兼ねているため二時間近くの休憩となる。
馬車が停車した場所は開けた草原のど真ん中で周りがよく見え、盗賊や魔物が来襲しても直ぐ分かる。
食事は振る舞われるわけではなく各自持参している。持参していないものはパンが販売されているので購入することも出来る。
昴と莉々菜の二人は宿の主人に昼食用の弁当を頼んでいたのでそれを食べることにした。
「昴、食べたら挨拶回りして来なさいよ。」
「うっ、億劫!」
「仕方ないでしょ、昴にしか出来ないんだから。」
「何か、俺、鵜飼の鵜になったような気がしてきた。気の所為?」
「気のせいよ。あんたは鳥じゃないんだから。」
「いや、別に鳥になったとは言ってない。比喩的に言っただけなんだけど。」
昴はスキルを得るための挨拶回りに動く。
先ずは、盗賊の手下アランの隣の女性護衛。そして真ん中の馬車の護衛。最後に先頭馬車の護衛。その中でも一番最後はエルフと盗賊のお目当ての人物にする予定だ。美味しいものは最後にとっておくタイプの昴だった。
まず後ろの女性のもとに行く。女性は馬車の中でご飯を食べている。都合の良いことにアランは見張りをしている。
「こんにちは、さっきはお見苦しい所をお見せしちゃって。」
「いえいえ。良くあることよ。気にしないで。」
「俺昴っていいます。」
そう言うと昴は手を差し出した。
「これね、さっきアランとやってたあなたの国の挨拶ね。宜しく。」
彼女はそう言うと右手を差し出し、昴と握手する。
結果的に彼女は盗賊の仲間ではなくアランとは冒険者ギルドで声をかけられ今回始めて一緒に依頼を受けたらしい。
利用されているだけのようだ。
そしてスキルは剣術の下位スキルだった為、昴のスキルは増えなかった。昴には鑑定の能力はないが取得したスキルは分かる。ただ、自分のスキルとして増えないだけだ。
次に昴は真ん中の車両の護衛を探す。
一人は見張りに立っている。
もうひとりは馬車の横で弁当を食べていた。
二人共男性だ。昴は弁当を食べている方に近づき話しかける。
「こんにちは、護衛大変ですね。俺昴っていいます。」
そう言って右手を差し出した。
「ん?何だ?」
「あっ、これ俺の国の挨拶です。右手同士で掴むんです。」
「そうか、変った挨拶だな。俺の国では抱きつくんだ。」
「では、それで。」
そう言うと二人は抱き合う。
彼の名前はジャン・ロベール。職業冒険者ゴールドランク。
努力でゴールドまで上り詰めた。ゴールドは上から五番目のランク。持っていたスキルは『剣術Lv.3』『運足Lv.2』運足はステップワークが良くなるものだ。
昴は剣術Lv.3は既に所持しているので『運足Lv.2』だけが増えた。
『運足Lv.2』というのはステップワークが良くなるスキルのようだ。
昴はもう一人の見張りに声を掛けるのを躊躇っていたが握手くらいなら問題ないと馬車の屋根の上で見張りをしている護衛の元へと屋根の上に登る。
「こんにちは。」
「何だ?」
「俺昴といいます。見張りご苦労さまです。」
そう言って手を差し出す。
「聞こえてたが、お前の国の挨拶だろ?そんな暇はない。消えろ。それとも俺の見張りを邪魔しようとしているのか?盗賊が手引を乗客や護衛に潜り込ませて送り込むんだ。お前は違うんだろうな。」
「俺未だ子供ですよ。」
「十分背が高いだろ。戦力になる。まぁいい。」
そう言うと彼は右手を差し出し、差し出されたままの昴の手を掴んだ。
彼の記憶が流れ込む。
――――――――――――――――――――
彼の名前はシモン。冒険者ゴールドランク
彼は貧しい家庭に生まれた。小さい頃から暴れん坊だったが悪から自分の周りの小さい子供を守る少年だった。少々頑なでは合ったが義理堅く情に厚く育ってきた。
そんな少年だからこそ騎士になりたかった。しかし、騎士になるには技量が足りず冒険者家業に就くことになる。
彼は加入したパーティーで斥候としての役割をずっとになって育つ。
そして、パーティーメンバーの魔術師の女性と結婚。一児をもうける。
彼は今回、声をかけてきた男性と共にこの護衛に加わることになる。
決して望んで護衛の依頼を受けたわけではなかった。強制的に依頼を受けさせられた。
声を掛けてきた男が彼の息子を人質にとり依頼を受けさせた。
その男の名前はアラン。最後尾を護衛している盗賊の一味を手引する予定のアランだった。
――――――――――――――――――――
昴は不安げな表情を出来る限り隠しながらシモンを見つめ握手していた手を離した。アランの記憶にあったもうひとりはシモンだった。昴は彼に対する対応を決めかねている。
襲撃の実行前にシモンに息子の件を知っていることを打ち明け共に盗賊の襲撃を退けるべきだが、どうやって打ち明けるのが効果的か。子供の件をどうするか。裏切れば息子は殺されるだろう。だから彼は裏切れない。
如何にして彼に裏切らせるか。それが問題だ。
シモンの息子についてはアランの記憶にはなかった。もう護衛の中に盗賊の手先はいないだろう。息子について知っているものはいない。
彼の持っていたスキルは『剣術Lv.2』だけだった。
彼から得えられるスキルは無かった。
シモンの昴に対する冷たい態度は息子を人質にとっている盗賊に対する苛立ちから来るものであった。もしかしたら、シモンは盗賊の話をすることで護衛の中に盗賊がいることを昴に分かってもらいたかったのかもしれない。
昴は、この休憩中にできるだけ多くの人をサイコメトリーしなければならない。まだまだ午後のサイコメトリーは終わらない。
サイコメトラー 諸行無常 @syogyoumujou
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