第16話 馬車と護衛と盗賊と
朝日を左側から受けながら南へ向けて馬車は進んでいく。天候は昨日に引き続き快晴、雲ひとつ無い。今日も暑くなりそうだ。
とは言え、今はまだ午前中で涼しく快適な旅を続けている。この馬車は屋根があるが横は壁がなく柱だけで屋根を支えていて心地よい風が入り込んでくる。
修学旅行でハワイに向かっている途中でこの世界に強制的に連れてこられた二人にとって修学旅行の続きのようで、まるでハワイのオリオリトロリーに乗っている気分だ。海は全く見えないが・・・
ここから南は開けているが西も東も山がありそこで視界が遮られている。
地図が無いから分からないが、大陸か島の中央部分を走っているようだ。
周りは草原でその中に道があり遠くには森や林が所々にある。左右の山々はかなり離れていて、杉のような高い木は生えておらず低い木が斑に生えている。
そんな風景の中を馬車は三台で南に向かう。時折出てくる魔物や盗賊の為に全ての馬車には護衛が乗り込んでいる。そして最後尾のこの馬車にも護衛が乗り込んでいる。最後列の男女二人が護衛のようだ。
「ねぇ、昴。護衛と話してきなさいよ。道中暇だから話し相手になってくれるって。お国の挨拶と言って握手してきなさいよ。」
「それは俺も考えていた。女性の方だろ?」
「両方よ!」
護衛の隣、通路の左側の一人席が空いていたので昴はそこに座る。
「こんにちは。俺馬車に乗るの初めてなんですよね。それで教えていただきたいんですけど。」
「いいよ。何を教えてもらいたいんだ。」
「護衛の方ですよね。護衛って冒険者がギルドを通して依頼を受けるって聞いたんですが、冒険者なんですか?」
「あー、そうだよ。冒険者だ。シルバーランクだ。」
そう言って彼は胸にぶら下げられたシルバーのカードを見せる。シルバーとプラチナは見分けにくいが、その為シルバーは艶がなく、プラチナには艶がある。
「俺も冒険者になったばかりです。なりたてのアイアンランクです。」
「そうか。これからだな、頑張れよ。」
「はい。頑張ります。魔物とか盗賊はよく出るんですか?」
「なるほど。護衛のための勉強だな。魔物はよく出るぞ。盗賊は偶にしか出ないけどな。」
「出てくる魔物は夜の方が強いんですか。」
「そうだ、夜の方が断然強いぞ。だから馬車は昼間運行するんだ。」
「色々教えていただいてありがとうございます。」
そう言って昴は手を差し出した。
「何だ?」
「あっ、これは俺の故郷の握手って言う挨拶なんです。右手と右手を握り合うんです。」
「そうか、面白いな。」
そういいながら彼も右手を差し出し握手する。彼の記憶が流れ込んでくる。
――――――――――――――――――――
アランと名乗る彼の本名をアランも含め誰も知らない。彼は孤児院に捨てられていた。孤児院で育ち大人になった。小さい頃から食べるものも無く、早く大人になり冒険者になって成り上がりたかった。
彼は自己流で槍を使った。やりは自己流だったことと練習好きではなかったためにそれ程上達はしなかった。
そして、短絡的で直情的な彼は、すぐに怒りを爆発させ周りと馴染めず辿り着いた先は盗賊団。
冒険者の時に組んでいたパーティーは喧嘩っ早くて追い出され、そこに盗賊のリーダーが仲間に誘いにやって来た。
盗賊団で、彼は冒険者をしながら護衛任務を引き受けるという役をやることになる。
彼が護衛する馬車等を仲間の盗賊が襲撃する。彼はその手引役だ。
毎回やるとギルドに知られるので金持ち客の護衛でない時はやらないことになっている。
前回も馬車を襲撃した。彼の卑猥な感情が溢れ出す。襲撃は女性を犯すことがイコールになっている。
馬車の中で彼は盗賊の襲撃を護衛仲間に告げずに盗賊の襲撃を容易にする。護衛が気付いた時には馬車は既に囲まれている。
馬車は逃げるしか無いが前方には別働隊が待ち受け挟み撃ちにされる。
盗賊団は男を殺し金品を奪うと捕虜にした女性を犯し始めた。
彼も女性を犯した。手に持ったナイフで女性を切り刻みながら・・・・
「痛い! 止めて、ナイフで切らないで、何でもするから、もうやめてぇ」
女性の悲痛な叫びが周囲に響き渡る。叫んでいる女性は彼女一人。痛みと恐怖で涙が止まらない。
「大丈夫だ。お前が痛いと俺が気持ちいいんだから。それに俺は痛くないしな。俺をもっと気持ちよくしろ」
自分勝手な理由で女性を甚振り続ける。
指を切り落とし、目を刺し、末端を切り落としながら犯し続ける。
終わる頃には女性は息絶えていた。
そして今回、一番前の馬車に目的の人物が乗っている。
本物の金持ちは自分の馬車を持っているからその馬車を襲うのだが、いつも金持ちが移動しているわけではなく通常は乗合馬車を襲う。
盗賊のリーダーが部下たちに告げる。
「お前ら、今回は普通の乗合馬車だが特別任務だ。ある人物の誘拐だ。出来なければ殺しても構わないそうだ。やんごとなき方からの依頼であり絶対に失敗は許されない絶対成功させろ」
リーダーは部下に厳命する。
「襲撃場所は一日目の宿泊場所イガーナを出て直ぐの山間の狭路。目的の人物以外は皆殺し。失敗しそうなら目的の人物だけでも殺害。」
リーダーの演説は続く。
「いいかお前ら、この命令は絶対だ!必ず成功させろ。女がいれば好きに犯せ。いい女は俺んとこに連れて来い。アラン手筈通りだろうな?もうひとり味方に引き入れたか?」
「はい、俺の女ともうひとり、三人で護衛の任務に加わえてもらいました。俺と女は最後尾を警護する手はずになってます。後ろから堂々と近づいてきてください。」
「よし、野郎ども。決行は明後日。アランは今から動け。アラン、また前回のように強姦後に殺して切り刻むのか?変態だな。」
「いえ、そんな変態ではないです。お頭と言えど許せないですよ。俺は強姦後に殺して切り刻むなんてそんな事しませんぜ。俺は女を切り刻みながら犯すんですぜ。そんな変態と一緒にしないで下せぇ。」
お頭はどっちも変態だと呆れ顔でアラン一瞥して去っていく。アランは筋金入りのサディストであった。彼に目をつけられた女はすべて切り刻まれながら犯されていくことになる。
――――――――――――――――――――
昴はあまりの凄惨な光景を追体験したことにより吐き気をこらえることが出来なくなった。
「どうした坊主。大丈夫か?」
「いえ、馬車に酔ったようです。吐き気が・・」
そう言うと昴は馬車の後部から身を乗り出し食べたばかりの朝食を吐いた。
女性の方とも握手したかったが手に汚物を付けた後だったので止めた。どうせ、嫌がられて握手してくれないだろうし、握手してくれたとしても一瞬で手を離されるだろう。それではスキルを得ることは出来ない。
昴は二人に礼を言うと莉々菜の隣の席へ戻っていった。
「どうだった?なにかスキル貰えた?」
「貰えた。『槍術Lv.1』だった。絶対に後ろ見るなよ。感づかれるかも知れないからな。あいつ盗賊の一味だ。この馬車は明日襲われる。」
昴は莉々奈の耳に口を近づけ小声で話す。
「え?また盗賊?彼盗賊の一味なの?」
「そうだ、手引役だな。女の方はもしかしたら知らないかも知れないけどな。それ以外にもうひとり盗賊の手下がいる。」
「私達は大丈夫ね。金目の物持ってないし。」
「奴等の目的は金じゃない。金はついでだ。先頭の馬車にいる誰かの誘拐か殺害らしいぞ。」
「ほんと?良かったじゃない。それじゃ他の人は無事ね。」
「いや、皆殺しらしい。しかも美人は犯すらしいぞ。」
「じゃあ、私絶対犯されるじゃない。」
「羨ましいよ、莉々菜は自分に自信があって。」
「当然でしょ。学校の投票じゃ澪に続いて二位だったのよ。じゃあ、私は後ろの護衛に犯されちゃうの?」
「喜ぶんじゃないよ。」
「喜んでないわよ。」
「あいつは女の身体を切り刻みながら犯すらしいぞ。」
「げっ!! まじ?? 」
「後ろ見たらお前のことヨダレ垂らしながら見つめてるかもな。見るなよ。」
人は見るなと言われれば見てしまうもの。莉々菜も御多分に洩れず後ろを見てしまった。後悔すると知ることもなく・・・・
莉々菜は護衛の冒険者と目が合ってしまった。彼はじっと莉々菜を見つめていた。にやけた表情を隠しもせずに。涎こそ垂らしてなかったが莉々菜の目には涎がはっきり見て取れた。
莉々菜は護衛に手をふると勢いよく前を向く。
「ひぃぃっ!」
「どうした?目が合ったか?」
「合った!ニヤケ顔でヨダレ垂らしてたっ!ねぇ、明日私殺されちゃうのかなぁ?切り刻まれながら犯されて殺されちゃうのかなぁ?ヒィィィィッ、想像しただけで、少し漏らした!」
「替えのパンツ持ってるか?」
「よ、余計なお世話っ!」
「フンッ、何だ、持ってないのか? 」
「持ってないとは言ってないわよ。モッテナイケド‥」
「さて、どうやって止めるかな?放っておくか。」
「駄目よ!私切り刻まれて殺されちゃうっ! 」
「次の馬車に替えればいいだろ。」
「名案かも・・って駄目よ。みんなが殺されちゃう。」
「だったら、運行を止めてもらうか、護衛を増やしてもらうとか。方法はあるだろ。そもそも俺達の仕事じゃないし、俺達はヒーローじゃないぞ。正義の為には戦わない。」
「じゃあ何のために戦うの?」
「生きるためだろ、報酬がなければ戦わない。死ぬかも知れないのに。」
「だったら私が報酬あげるから。」
「何をくれるんだ?」
「私?」
「いらない。」
「なんでよ! 何で即答よ! 戦ってよ。人が死ぬのよ?」
「莉々菜、君は正義感が強すぎる。ヒーロー漫画の見すぎかヒーロードラマの見過ぎか知らないけど。俺は他人の為に自分の命を犠牲に出来るほどお人好しにはなれない。」
「でも、それでも・・戦ってよっ・・あなたとなら出来る、私だけでは出来ないから、昴にお願いすることしか出来ないから・・」
莉々菜は泣いていた・・・振りをしていた。
「莉々菜、泣いた振りして俺が言うことを聞くと思ってるんじゃないだろうな。そうやって、育てられたのか?泣いたら親が諦めて君の言う通りに動いたから泣けば問題が解決すると思ってきたんだろ。親の教育が悪かったな。」
「そんな酷い。親のことまで悪く言わないでっ!酷すぎるっ!もういい!」
莉々菜は本当に少し泣き始めた。
「だったら泣くな。俺までお前が泣いたことで行動してしまったら、お前は深層心理では、尚更泣けば問題が解決すると思うだろ?」
「私は子供じゃないよ。」
「子供だろ。泣けば問題が解決すると思っている子供だよ。」
「ほら、もう泣いてない。だから、私と一緒に戦って。」
「ここで戦うって言っても、泣いたことで問題が解決したことになるんじゃないのか?もう仕方がないな。良いよ。分かったよ。戦うよ、戦えば良いんだろ。お前はそうやって彼氏の前で泣き続けて彼氏を操作しろ。俺に関係のないところでさ。でもまず襲撃を回避する方向で行動するぞ。」
「うん。それでいいよ。」
「考えられるのは、①馬車のその日の運行を止め日時を変更する。だけど、その為には盗賊の手引役のアラン達を捕まえる必要がある。捕まえなければ襲撃を信用しないだろうし変更後に襲われる可能性もある。しかし、証拠がないしアラン達は否定するだろう。しかも、乗客は皆日時の変更を嫌うはずだ。宿代も余計にかかることになるからな。」
「じゃあ、①は駄目ね。次は?」
「②護衛を増やす。只ではないのだから理由がなければ運行主は拒否するだろう。」
「そうね、①でも②でもアラン達を盗賊の手下として捕まえる事が出来なければ如何しようも無いわね。誰も信じてくれないかも知れない。」
「なら、現場で押さえるしか無いかもな。」
「そうよ、事件は現場で起きるものよ。」
「そりゃそうだろ、起きた場所が現場なんだから。それって、正義は必ず勝つって言ってるのと一緒だな。勝った者が正義なんだから。」
「兎に角、昴の今日の仕事は一人でも多く触ること。有益なスキルを見つけて。他の盗賊もね。」
「やってみるよ。日本だったら痴漢で捕まるぞ。」
「大丈夫、ここは日本じゃないから。そもそも握手するだけだし。お昼の休憩の時に他の護衛とも話して。」
「誰が盗賊の手先かが分からないから、まず握手だな。アラン以外に女性ともうひとりの三人が盗賊。女性は隣の女性だ。しかし、もうひとりが誰かわからない。」
「私、修学旅行の続きでハワイのトロリーバスに乗っていて、周りにはワイキキのビーチが見えている気がしてたのに、気分は一気に異世界よ。」
「よし。じゃあ、これからハワイの気分で会話するか。おっ、あそこにカメハメハ大王の像があるぞ!」
「ホントだ・・・って、あれ魔物よっ!護衛さん!護衛さん!!魔物よ!!」
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