第15話 陰謀と王女と出発と
彼女の名前はクロディーヌ・ブラン、二十二歳。彼女の父の名はガブリエル・ド・アシャール、アシャール国の国王。彼女は国王が正妻でもなく側室でもない只の街の娘と関係を持ちできた子供。王室も認識はしているが放置している。母親は王が関係を持つだけあって奇麗な女性だ。クロディーヌにもそれは遺伝し、その美しさは比類ない。
十歳の時、母親とともにこのフォンテーヌ王国へ越してきた。そして平凡な人生を送る。自分が隣国の王の娘と知ることもなく・・・
彼女は男性に好かれ常に男性の注目を浴び成人してからは結婚を求める男性が後をたたない。しかし、生来の性格からか未だに男性と付き合ったことはない。
そこへ最近かなりしつこい男性が現れた。
彼の名前はリオネル・ド・ローラン、ローラン男爵の次男。
押しが強く美男子で華麗に優雅にクロディーヌにいいよる。普通の女性ならなびかずにはいられないものがある。
しかし、何故か胡散臭さが付きまとう。彼は奇麗すぎるのだ。優雅すぎるし華麗すぎるのだ。
ある時、クロディーヌは彼に手を触れられた。その為、彼の記憶もクロディーヌの記憶に少々入り込んでくる。
彼はカトリーヌ・ド・フォンテーヌの部下、つまりフォンテーヌ王国第二王女、昴たちを召喚した王女の部下だ。
彼の目的はクロディーヌの動向を探ること、第二王女の目的が達成されるまでのスパイ。
第二王女の目的はアシャール王国の奪取。アシャール王国の騎士団を仕切るパスカル・ド・バダンテール侯爵が王国を奪取した後でクロディーヌを神輿としてアシャール王国の王女に祭り上げ、実質的にアシャール王国を支配することにある。
とは言え、リオネルの目的とは裏腹にクロディーヌはリオネルに興味を一切示さないどころか嫌悪し遠ざけておりリオネルの目的達成はまだ遥か遠くに存在すると言える。
――――――――――――――――――――
とんだ所で、ダンジョンの受付のクロディーヌとアシャール王国の王女マノンの殺害未遂とが繋がった。王女の暗殺が失敗に終わった今、この国の第二王女がクロディーヌに直に何かすることはなくなったのだろうが、計画が終わった訳ではないだろう。
だとすればこのクロディーヌを保護する必要がある。
しかし、昴たちにはその力がない。考え得るのは先日知己を得たアシャール王国の第一王女マノン・ド・アシャール。つまり、クロディーヌの姉妹だ。彼女にクロディーヌの保護を依頼するのが一番良いのではないかと昴は考えた。
その為にはクロディーヌに真実を話さなければならないがそれは問題ないだろう。知ったからと言って影響はあまりないはずだ。
問題はその事実を信じてくれるかどうかだ。
普通、貴女は王女ですよと言っても騙されているとしか思わないだろう。
だとすれば、まずマノン王女にその事実を伝えマノン王女が直接クロディーヌを保護するのが最適だ。
まずは、ダンジョンでの訓練を切り上げ、アシャール王国へ向かう。
「昴!昴、どうしたの?」
突然の莉々菜の呼びかけが昴の思考を中断させた。
「いや、何でもない。クロディーヌ、ずっと手を繋いでましたね。ごめんなさい。クロディーヌがあまりにも奇麗だったから、手を離すことが出来ませんでした。それから、リオネルには注意してください。」
「あ、あなたなぜ私の名前を?なぜリオネルを知ってるの?あなた誰?」
「俺は通りすがりの冒険者ですよ、姫。」
「姫?」
「昴?何がどうなったの?」
「帰り道で話す。」
そう言うと足早にダンジョンの受付を離れベズネラの宿へ向かった。
既に外は日が沈みかけているが、宿に到着するまでの時間は明るいだろう。
昼間の暑さは失くなり涼しい空気が優しく頬を拭う。
空には既に近くの惑星がその輝きを見せ始めている。
「ねぇ、昴。何を見たの?」
「ずっと考えていたんだ、どうすべきか。」
昴はクロディーヌに触れたことで見えたものをゆっくりと客観的に全て話した。その後でどうした方が良いのか考えた主観的な意見を話した。
「私もアシャール王国に向かうべきだと思うよ。誰かに触れてスキルを得るのは道中でも出来るしね。」
「だよね。ベズネラでアシャール王国までの乗合馬車がないか聞いてみるか。」
「なかったらどうするの?」
「その時は莉々菜の転移魔法で行くしか無いな。」
「私そんな魔法使えないって言うか一切魔法使えないんだけど。」
「だよねぇー。俺達悲しいねぇー。金無い、足無い、魔法無い。三大苦だね。」
「笑えなーい。」
「莉々菜、そんなジト目で俺を見つめるな。照れるだろ。」
「はっ、照れてる場合?ところで、スキル貰えたの?」
「貰えた。『魅了Lv.2』だな。これアクティブスキルだと思うんだけど。彼女はパッシブで使ってたから常にモテ捲くりだったんだよね。」
「お願いだから私には使わないでね。って言うか、私には効かないと思うけど。」
「何?耐性スキルでも持ってんの?」
「内緒。」
結局、現在の所、昴のレベルは2のままだ。
そして、獲得したスキルは『農業Lv.1』『剣術Lv.3』『詐欺師Lv.2』『魅了Lv.2』だ。全てのスキルが獲得した時のレベルで上がってない。剣術は新たに取得したレベル3に置き換えられた。足されたのではないようだ。
日が沈みかけた頃、二人はベズネラに到着した。西の空は茜色になっている。
門番にギルドカードを見せ街の中へ入る。
街は未だに賑わいを残し辺りを忙しなく行き交う人で溢れている。
コロビア村とは違い地中海沿岸のヨーロッパのような建物が所狭しと立ち並び、ゴミもなく清潔だ。全体的に白い建物が夕日の照り返しで赤みがかっている。
昴と莉々菜は昨日泊まった宿を未だチェックアウトしていない。宿に到着し部屋へ戻ると椅子に座り一息つく。暫くの後、二人は目配せをして一階の食堂へ向かう。テーブルに着くと宿の女将が飲み物の注文を聞きに来る。
昴はエールを注文し、莉々菜は果物のジュースを注文する。
序にアシャール王国までの馬車について尋ねる。
馬車は毎朝日の出くらいの時間に出発するからそれまでに行って料金を支払う必要があるとのことだ。暗闇の危険を少しでも避けるための時間設定だろう。
ディナーを食べ部屋へ戻る。
部屋にはベッドが二つあり当然昴と莉々菜は別に寝る。
「ねぇ、私達元の世界に帰れるのかな。」
莉々菜の声が小さく真っ暗闇の部屋の中に響く。莉々菜はそう言うと偶に啜り泣くことがある。彼女は未だ16歳の子供だから仕方がない。ホームシックなのだろう。
「大丈夫だろ?魔王ニセンコーは元の世界へ帰ってるんだから方法があるはずだ。二センコーに触れれば戻るスキルが手に入るかもな。」
「なるほど、魔王を倒すか仲良くならないと元の世界へは帰れないのね。」
「そうだな。召喚された当日馴れ馴れしく肩でも組んでいってたらもう帰れてたかもな。」
「悔やまれるね。」
「だな。アフターフェスティバルだな。」
「何それ?」
「後の祭りだ。」
「下らない。」
「俺は慰めようと思ってだな・・」
「余計に落ち込むわ!」
そう言いつつも莉々奈は笑顔を取り戻していた。昴は、莉々菜が落ち込んでいる時はいつも下らないことを言って慰めようとする。あまり慰められることはないが・・・
翌未明、二人は朝食を済ませ、まだ暗いベズネラの街を馬車の乗り場へと向かう。
街は未だ暗いというのに既にかなりの人々が活動している。主に、城壁の外へ出る人達と、その人達を相手に商売している人のようだ。
馬車乗り場へ到着すると料金を支払い既に到着している馬車に乗り込む。馬車は四頭立ての馬車で馬車の荷台の中は四列のシートが並んでいる。一列に二人用のシートと一人用のシートが有り、シートの間に通路がある。全員で十二人座れる。少し狭い。
今日は夜までに次の都市に到着する予定だ。
次の都市の名前はイガーナ。ベズネラより小さい街らしい。
馬車は予定通りイガーナへ向けて日の出とともに出発した。
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