第14話 ダンジョンのオークでトンカツを

 二人はダンジョンの第五階層でオークに囲まれていた。


 ダンジョンの中に入ると少し寒々としていた。流石に日が射さない洞窟の中だ。

 一階は鎧を着ていないため用心しながら進む。二階は少し気が緩み、三階は緊張を失くし、四階は少し飽きてきて、五階は気持ちが弛緩し窮地に追い込まれてしまった。


 

 一階はスライム、簡単だった。緊張が少しほぐれた。

 二階はツノウサギ、簡単だった。気が緩んだ。

 三階は巨大なネズミ、簡単だった。緊張が失くなった。

 四階は小さなゴブリン、簡単だった。眠くなってきた。

 だから五階で躓いた。舐め過ぎた。気持ちが弛緩していた。敵が急に強くなりすぎだ。囲まれた。


「ちょっとぉー、これどうすんの?オークって人間の女性を犯すんでしょ?」


「それって小説の中の話だろ?気のせいだよ。」


 しかし、既にオークの股間は膨らんでいた。気の所為ではなかった。


「もう、勃起してるわよ。なぜ初めて見るのが豚人間のなの!勘弁してっ!」


「このままだと犯されるな。へへへっ。」


「何ニヤニヤしてんのよ。嫌よ、初めてが豚なんて。昴、助けなさいよ。あっ、そうだ!オークって男も犯すらしいわよ。」


「そんな話聞いたことがないよ。今作っただろ。」


「でも、男は殺されて食べられちゃうわよぉ〰。」


「ほ、本当か?夕飯になるのか?嫌だよ豚の晩御飯になるのは。」


「だったら、早く殺しなさいよ。殺してトンカツ作ってよ。晩御飯に。」


「そうだな。晩御飯にするかなるかだな。そう言えば魔物からでもスキルもらえるのかな。オーク一匹だけ殺すなよ。」


「努力してみる。」


 二人は背中を付けて三六〇度囲んでいるオークに対処しようとしている。

 八匹のオークが周りを囲んでいる。

 既に二匹は殺した。やっと、殺した。攻撃を受けないようにしている。だから、少し消極的な攻撃になる。

 オークは強い。その強いのが周りを囲んでいる。

 確かに、盗賊のフリをしていたアシャール王国のジョルジュほどではないが数がいる。


「莉々菜、俺の合図で一気に攻勢に出るぞ。一人四匹だ。」


「分かったわ。」


「今だっ!」


 二人は周囲を囲んでいるオークを切る。

 昴は現在『剣術Lv.3』。かなり強くなった。その剣でオークを切り刻む。横から前からオークの斬撃が来る。しかし、二人がかりでも剣を防がれたジョルジュの『躱術Lv.4』がオークの全ての剣を躱す。躱せるから『剣術Lv.3』の攻撃が通じなくても避けていればいつかは倒せる。『躱術Lv.4』でも躱せない攻撃なら如何しようも無いが、オークはそこまで強くはなさそうだ。

 昴が四匹のオークを殺し、莉々菜へ向きを変えると莉々菜は一匹殺しながらも防戦一方になっていた。

 莉々菜に加勢し二人で四匹のオークに向かう。最早敵ではない。オークは一匹を残し惨殺され、残された一匹も手が切り落とされていた。


 昴はオークに触る。


 オークの記憶が流れ込んでくる。

 言葉はない。ただ映像だけが流れ込んでくる。

 オークはここで産まれここで育った。

 ただ人と戦い人を殺し人を食べる悍ましい記憶。

 その食べられた者の記憶も少し流れてくる。


 冒険者は四名でここへやって来た。これはそのうちの女性の記憶。女性は一匹を殺しこのオークと戦う、しかし、簡単に倒された。女性は未だ生きていた。

 しかし、オークは彼女を食べ始めた。内臓を、腕を脚を次々に食べていく悍ましい記憶。オークはそれに幸福を感じていた。

 そして次に来た昴に殺される。


 短い記憶だった。

 あまりにも短い人生だからか、オークはスキルを持っていなかった。


「昴、どうだった?」


「何も持ってなかった、くそっ、触り損じゃねぇーか!!」


「どうしたの?なにか嫌なものでも見た?」


「こいつ、人間食ってやがった。その時のイメージがオーク目線で入り込んできた。吐き気がする。まるで俺が人間を食べたような気分だ。もう魔物は触らない。」


「はーっはっはっは。私を馬鹿にした罰よ。」


「いつ馬鹿にした?莉々菜からは褒められることはあっても馬鹿にされるようなことしてないだろ。」


「私がブスだってスタイル良くないって言ったぁ!」


「そんなこと言ってないし。」


「言った。」


「あれは小さい子がよくやる、気に入った子に対する虐めと同じだよ。」


「え?気に入った娘?分かったわ。ふふふっ。」


 突然陽気になった莉々菜を不思議に思う昴だった。


「ちょろいな。ちょろちょろだな。」


「何か言った?」


「いや、何も言ってない。今日は帰るぞ。もう夕方だろ?」


「そうね、私もさっきので体力使い果たしたわ。HPがもうない。」


「HP?胸じゃなくて?」


「誰の胸がないのよ!!あるわ!Fカーップ!!」


「煩いなぁ。それギャグかよ。で、HPってなんだよ?そんなのあるのか?」


「ステータスに表示されてるでしょ?」


「本当か?俺のステータスにはレベルと使えるスキルしかないぞ。」


「じゃあ、STRやVITとかDEXとかの表示もないの?」


「なんだ、それ?」


「強さとか器用さとかよ。」


「そんなに詳しく表示されるのか?」


「もしかしたら、仕様が違うのかも。昴最初は見れなかったわよね。お爺さんをサイコメトリーした後で見れるようになったんだったら、お爺さんのステータス表示を模倣したのかも。だったら私を触ってみたら。」


「じゃあ、今日の夜でも。」


「よ、夜?ど、どこ触る気よ!!!あっ、駄目、駄目だ。そんな事したらバレちゃう。」


「何か俺に知られたくないことでもあるのか?だったらいいよ。」


「そりゃ、誰にだって一つや二つ知られたくない事くらいあるわよ。」


 未だ昴には知られたくないことがある莉々菜であった。


 入口まで戻って来ると買取カウンターへ向かう。残念なことに買取カウンターの受付は男性だった。

 売るものは魔石。

 全ての魔物には魔石がありそこに魔力を蓄える。魔石は魔物の強さに応じてその大きさや質が変る。

 今日取ってきた魔石は弱い魔物ばかりで小さく色も薄い。強い魔物だと小さくても濃い赤らしい。


 今日の収穫は100,000ビル。


 そして、オークの肉。全部は持ってこれていない。アイテムバッグがあれば持ってこれるらしいが、持ってないので自分たちで食べる分しか持って来ていない。


 税金が三割手取り分70,000ビル。

 昨日の宿代に鑑みれば日本円とあまり齟齬がない。少々安いのは物価が安いからとも言える。

 宿代二人分で3,000ビル。残金67,000ビル。この中から食事代や他の雑費を捻出する。ある程度は余りそうだ。それでも防具や鎧、新しい剣を買うことも出来ないだろう。今持っている剣は盗賊のフリをした貴族の剣を使っている。まだ新しく性能もそこそこで未だ使える。鑑定のスキルを持っていればどれくらいの性能だとか分かるのだが、二人共持ってないので分からない。


「くそっ、70,000ビルか。鎧は買えるかな。」


「テントくらいなら買えるかもしれないわよ。泊りでダンジョンには行けるかもしれないけど、鎧とかポーションとかないと厳しいよね。」


「仕方がない。暫く貯めれば大丈夫だろ。」


「だったら、一日このダンジョンの入口でここに来る人の会話を聞きましょうよ。もし、有益なスキルを持っていそうなら握手してスキルを貰うの。どう?」


「そもそも、この世界の人は握手するのか?」


「これは俺の故郷の挨拶だとか何とか言って握手するの!そうすれば大丈夫よ。きっと。」


「そうだな。じゃあ、まずは受付のお姉さんだ。」


「おい!受付のお姉さんが有益なスキル持ってるわけ無いでしょ。」


「いや、分からないぞ。莉々菜は鑑定のスキル持ってないだろ。本当は高レベルの冒険者で引退して受付してるかも知れないだろ。」


「ただ美人の手を触りたいだけでしょ。」


「練習だよ。」


「何の練習よ。」


 昴は受付に歩いていく。

 そして、受付の女性に向かう。


「お姉さん、握手してもらえませんか。」


「握手?握手って?」


「わ、私の国の挨拶です。右手と右手を繋ぎます。」


「仕方ないですね。どうぞ。」


 彼女は右手を差し出した。



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