第11話 連行とダンジョン

 広場まで来た。

するとやはり王都から来た貴族の馬車、それに乗ってきたであろう大臣、そして護衛の兵士がいる。彼らの前に村人のリーダーと数名の代表者と思しき人々。身分証を用意してくれたお爺さんの息子シルヴァンもいた。


「お前たちは、これから王都まで連れていき裁判を受け刑に服してもらうぞ。」


「納得できません。悪いのは村長です。私腹を肥やし、村人に高利で貸し付け払えなければ娘を差し出させる。差し出さなければ村の税で雇った護衛に娘を無理やり連れて行かせる。この村長の護衛をしていたものが証人になります。」


「黙れ。あの高潔な村長がそんなことをするはずがないだろ。それに村長を王都から派遣したのは第二王女カトリーヌ姫様だ。お前らは王女に歯向うのか。国に対する反乱だ、クーデター罪で逮捕だ。知ってると思うが首謀者、加担した者、皆死刑だ。」


「待ってください、大臣。では我々は高利の借金の返済の為に土地を取られ、家を取られ、挙句娘や息子迄とられ作った作物の売り上げは全て村長に取られ、村民全てが村長の奴隷のように働かざるを得ません。」


「それは仕方がないな。高金利は違法じゃない。例えそれが悪でも、悪法も法だ。変えられない限りお前らが守るべきものだ。つまりお前らが悪い。借金返せなかったのもお前らが招いたことだろうが。借金は返すのが当然だ。娘で支払いを待ってもらえたんだ、それだけでもありがたいだろ?」


「しかし、あまりにも高利です。しかも、その出所は村の税金です。にも拘らず、その返済された金は村長の懐に入ります。」


「お前は村長が懐に入れるのを見たのか?」


「見てません。しかし、税金で修理されるはずの村の周囲の壁や色々なものが一切合切修理もされず放置され荒れ果てています。」


「それはお前らの働きが悪いから税が少ないからだろ。」


「確かに税は収められません。それは全て村長が取っていくからです。貸し付けた金の返済として税として納める金も麦も作物は全て村長が取り立てます。だから税金は納められません。」


「やはりそうではないか。お前らが税を治めないから公共物の修理が出来ないのではないか。悪いのはお前らだ。村長は悪くない。にも拘らず村長夫妻を殺害した罪は大きいぞ。衛兵、こいつらをロープで縛り、王都まで連れて行け。」


 傍観している村人の全員が不満を漏らす。

 大臣は一切気にせず「お前らも牢屋に入りたいのか」と一喝すると公園は静かになり大臣は満足げに馬車に乗り込み王都へと帰って行った。

 残された人々は大臣の言葉に反論することが出来ず、どうする事も出来ない自分たちの無力さに嘆き喚いた。その日、日が暮れるまでその嘆きが収まる事はなかった。


「ねぇ、昴。助けないの?」


「無理だよ。兵士にも勝てないし、そんなことをしてもシルヴァン達はこの村に戻ることは出来ないし国に追われ続ける事になるよ。それに、俺達も追われるし捕まるよ。俺達がたとえ兵士を倒せても、俺達と一緒に召喚されたやつが来れば敵わないよ。」


「そうか。そうだよね。でも、私達って無力だよね。ねぇ、一緒に強くなろうよ。ダンジョンにでも潜ってレベルを上げようよ。そうしないと魔王ニセンコーにも勝てないよ。」


「ん?誰?魔王ニセンコーって?」


「偽の先生でしょ。昴が言ったんでしょ。」


「そうだったね、悪い悪い。別の事考えていたから。」


「何?別の事って?」


「シルヴァンさんたちは直ぐに帰れるかもしれないよ。」


「え?どうして?」


「魔王ニセンコーが王都で暴れ王を打倒すれば、そのドサクサに紛れて帰って来れるかも。政府が倒されれば逃げても処罰する機関が無くなる訳だから堂々とこの村で暮らせるよ。」


「そうか、そうだね。魔王ニセンコーに頑張ってもらわないとね。」


「頑張り過ぎたら俺達も死ぬんだけどね。」


昴はダンジョンについてお爺さんに聞こうと広場の人々の中にお爺さんを探すが見つからない。体力が無いか病気になったかで家にいるのかもしれないと二人はお爺さんの家に向かった。


お爺さんの家の戸は鍵がかかっておらず戸を開けて呼ぶと『お入り』と声がする。

中へ入ると昼間だというのに家の中は暗く閉ざされている。

奥の部屋を除くとお爺さんが寝ていた。


「大丈夫ですか?まだ体力が回復しませんか?」


「まだあまり動けないんじゃ。それより、息子はどうなったんじゃ、広場見て来たんじゃろ?」


「息子さんは連れて行かれましたよ。王都から来た兵士に。一応裁判はあるみたいですが、大臣が村長に罪はないと息子さんたちを犯罪者扱いしてましたからね。難しいかもしれないですね。」


「くそぉーっ、どうなっとるんじゃ。王都の役人はっ!国も王も王族も大臣や官僚も皆腐ってるのかこの国はっ!」


お爺さんは怒りをあらわにし、溢れ出す涙を拭い去る事もせずただ泣いていた。それほど悔しかったのだろう。息子を連れて行かれたことで、何もできない無力さで泣かずにはいられなかったのだろう。


二人は暫く泣き続けるお爺さんを見つめていた。

一頻り泣き落ち着いたところでダンジョンについて聞いてみた。


「ダンジョンはここから南へ道沿いに半日の距離にあるぞ。そこにベズネラと言う街があるんじゃが、そこで聞いてみろ。今から出立するなら到着が夜になるかもしれん。夜になれば盗賊や魔物の出没が多くなり危険じゃ。暗くなる前にベズネラに到着しないと大変じゃぞ。」


二人はお礼を言ってベズネラへ向かった。

お爺さんには息子が帰ってくる可能性については言わなかったし、言えなかった。確実でない事を言い、期待だけを持たせることが躊躇われた。未来がどうなるかなど確実な事は分からない。確実なことなどない。


既に日は頂点を越え日暮れに向かい始めていた。

後五時間ほどで日が沈む。その前に次の村までたどり着かなければ森の中で野宿することになる。お爺さんの話では夜は盗賊や魔物が多く出没しより危険になると聞いた二人は足早にベズネラへと向かう。


「莉々菜、ちょ、ちょっと待って、もう少しゆっくり。疲れた。」


昴は少し道を外れた石の上に座り込み方で息をしている。すごく疲れているようだ。剣道部だった莉々菜とは大違いだ。一方莉々菜は全く疲れていないようだ。剣道部で毎日体を鍛えていた成果だろう。


「そんな事言ってると後でもっと疲れることになるよ。少し休憩してまた急ぐわよ。」


「もう体が持たないよ。」


「だらしないわね。ねぇ、どこかに襲われてる馬車落ちてない?それ助けて乗せてもらいましょうよ。」


「そんな都合よくいかないよ。」


ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・


遠くから音が聞こえ始めた。音は次第に大きくなっていく。ドップラー効果が生じることもない程度の遅い速度で何かが近づいてくる。

二人の目の前を馬車が通過していく。

その後方を明らかに盗賊と思われる集団が追いかけている。

昴は呟いた。


「テ・・テンプレだ!」


「来たわ。来たわよ。私達の乗合馬車がっ!」


「でも後ろの盗賊を倒さないと馬車は運行を停止するぞ?」


「早く倒してきてっ!」


「無理!」


「なんでよ!?」


「じゃあ、彼奴等のレベル教えてくれ。」


「無理!そんなスキル持ってない!」


「だろ?族は4人いたぞ。俺達は二人だぞ。どうやって倒すんだよ。」


ガシャ――ッ!!ザザザザッ!


轟音がした。見れば馬車が倒されていた。


「あー、私の乗合馬車がぁーっ!取り敢えず近くまで行きましょうよ。」


二人は馬車に向かって走り出す。

すると、馬車から金属の甲冑に身を包んだ騎士が一人出てくる。四人対一人だが決死の覚悟で出てきたのだろう。


「騎士が出てきたわ。これで四対三よ。なんとかなるわよ。あの騎士は中にいる姫を守るために決死の覚悟で出てきたのよ。」


「どうして中にいるのが姫って分かるんだ?」


「テンプレだからよ。」


「第二王女だったらどうする?」


「逃げる!」


「逃げるのかよ!・・・って、そりゃ逃げるな。うん、俺も逃げる。」


「でしょ?若しくは盗賊に味方する。」


「なるほど。ほら、剣道部、行け。やっつけろ。」


「加勢しますよ!」


莉々菜が盗賊と戦っている甲冑の騎士に向かって叫ぶ。


かたじけない。加勢感謝するっ!」


二人が四人に囲まれてしまった。


少し遅れて昴が到着し、卑怯にも後ろから袈裟懸けに盗賊を一刀両断する。仕方がない、昴は弱いのだから。だからこそ昴は触ればよかったと後悔するが触る隙きなどない。

しかし、これで三対三になった。


「一人一殺!」


騎士が叫ぶ。


しかし、昴にそんな気などない。騎士が対峙している男が頭であり一番強そうだと見るや否や莉々菜に加勢、莉々菜と戦っている賊を横から剣で突く。その賊は一瞬気を取られ、その好きに莉々菜の剣が胴に入り盗賊は崩れ落ちた。


残り二人。


「莉々菜、そいつは捕らえるぞ。」


頭以外のもう一人の盗賊を指して言う。


「うん!」


騎士と盗賊の頭の戦いは膠着状態とは言え騎士が押されいて騎士は受身に回り劣性だ。いずれ遠くない未来に膠着状態は崩れ騎士は殺されるだろう。早くもう一人を倒して加勢する必要がある。


昴と莉々菜はもう一人の盗賊と対峙する。二人で攻撃しているがすべての攻撃が避けられてしまう。とは言え二人がかりで攻撃しているので盗賊は攻撃できずに防戦一方だ。


「莉々菜この男も殺すなよ。スキル貰うぞ。莉々菜、こいつの後ろに回れ前後で挟み討つ。」


「分かった。」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る