第9話 誘拐された女性は誘拐犯になって法螺を吹く

 数十分後王都に辿り着く。

 この世界に召喚された日にこの門を出た時には急いでいて王都を囲う城壁をゆっくり見なかった。今、王都に入場する列に並んでい城壁をゆっくりと見ることが出来る。というより、それ以外にすることがない。

 すでに並び初めて一時間近く経過している。

 昴は前を歩く誘拐組織の女性に触れスキルを得ることを考えていた。鑑定でもあれば別だが触れてみないことにはスキルを持っているのかいないのか、持っているとすればどんなスキルなのか分からない。


 閃いた。


「お姉さん、手相って知ってます?」


「何それ?」


 既にアジトを宿泊先として二人を連れて行く算段を付けた為か、当初の愛想は全く失くなっている。


「その人の過去と未来が分かるんです。占いですね。見てあげましょうか。」


「結構よ。遠慮する。」


 全く愛想がない。


「そんな事言わずに。何か怒ってます?怒らせたのなら別に宿探します。ごめんなさい。」


「い、いえ、怒ってないわよ。どうぞ手相見て。」


 ちょろい。ちょろりんだ。作戦が駄目になると考え愛想良くなった。

 昴は左手を持つ。


「見るのに暫く掛かりますよ。」


「えぇ。待つわよ。どうせ動けないし。」



 ――――――――――――――――――――



 彼女は貴族の娘として生まれた。

 小さい頃から成人する十五歳まで何不自由なく蝶よ花よと育てられた。

 学校にも通わせてもらい高度な教育も受けさせてもらえた。

 いつものように学校へ行った帰り道のことだった。

 三人の男が彼女を襲った。

 そのうちの二人は森にいた男だ。

 男達は彼女を空き家へ連れ込み代わる代わる犯した。

 そして、男達は彼女を返すことなくアジトへと連れて帰った。


「お願い、家に返して。今帰してくれたら家にも内緒にできる。もし遅れたら事情を説明しなければならなくなる。そうしたらあなた達は兵士に捕まる。父が絶対あなた達を許さない。打首にされて首が門に晒されあなた達の家族も処分される。だから、今帰して。今なら絶対に言わない。言えば私にも傷がつくから・・だから・・おねがい。」 


 最後には呟くような声になりながらも彼女は懇願する。懇願すると攫ってきた男が彼女を蹴る。反抗した態度に暴力を振るうことで従順になるように教育するためだ。


「余計な心配はしなくていいぞ。俺達はお前を帰すつもりはないからな。だから俺達が攫ったと知られることはない。飽きたら奴隷商に売るつもりだったがお前がその気なら売らずに殺すしかないな。」


 彼女は男達の脅迫に絶望した。それでも、家に返して。家に帰りたいと懇願し続けた。しかし、男達は他人のことは気にしない、気にするのは自分のことだけの我儘が服を着ているような男達だ。彼女の懇願が聞き入れられることはなかった。

 アジトでは、誘拐グループの十人以上いる男達が何日も何日も彼女を犯し続けた。殴られては犯されまた殴られた。

 彼女は自分の意志を失いストックホルム症候群に陥った。

 この世界で唯一彼女を助けてくれる男達に好意を抱き始める。

 そうすることで、いやそうしなければ彼女は生きてはいけなかった。

 アジトにいる数名の女性は全て誘拐されてきた女性だ。

 彼女もその一員になり誘拐の手助けをしている。

 最早彼女にとって誘拐犯の一味が家族であり、本当の家族は一味の洗脳によって唯の他人になってしまった。

 彼女はこの世界で誘拐犯の中でしか生きていけなくなってしまっている。

 彼女も誘拐の被害者であり、可愛そうな女性だった。


 ――――――――――――――――――――


 昴は目から涙がこぼれていた。


「君、どうしたの?泣いちゃって、そんなに悪い手相だった?」


「大丈夫。これからいいことがあるよ、絶対。今まで大変だったね。もう大丈夫。誰かが君のことを見捨てない。いつか、必ず幸せになれる。心を強く持って。家族は君のことを忘れてない。待ってるよ、今も待ってる。」


 彼女の目には涙が溜まり今にも溢れ出ようとしていた。溢れ出なかったのはマインドコントロールが解けていないせいだろう。それでも、涙が溢れようとする感情が未だあるということは大きかった。それは洗脳が解ける可能性があるということだから・・・それほど遠くない未来に彼女は家に帰ることが出来るだろう。

 あまり詳しくは言えなかったが昴は彼女に共感しているため涙が止まらなかった。


「・・・ありがとう・・・」


 小さな声で彼女はお礼を言った。

 しかし、洗脳は簡単には解けず、昴たちをアジトへ連れて行くという考えは変わらないようだ。もしかすると、連れて行くことが正義であり、正しいこと、そして攫われる者の為だと信じて疑わないのかもしれなかった。


 数分後、昴達の順番が回ってきた。

 コロビア村のシルヴァンからもらった身分証を出す。身分証は写真も無く、その本人を証明できるとは思えない簡素なものだったがそれでもそれを所持していることが本人であることを擬制するものなのだろう。

 門の衛兵は身分証を見るとすんなり昴体を通してくれた。


「ねぇ、君たち、直に宿に行って荷物を置きましょうよ。それから街を散策すればいいし。私これから用事があるから、今じゃないとうちに案内できないの。」


「だったら用事の後で待ち合わせしましょうよ。」


 昴はちょっと意地悪してみた。


「な、何時になるかわからないの。だからね、す、直に行きましょ。今じゃないといつになるかわからないから。」


「ありがとう。だったら俺たち宿を探しますよ。何時になるかわからないのにお邪魔したら悪いですよ。」


 さぁ、これでも引き止めるか。彼女がどう言い訳するのか昴は笑みが漏れるのを抑える事が出来なかった。


「(さぁ、次は何と返す?)」


「あなた達は命の恩人よ。宿に泊めさせるわけにはいかない。お礼をさせて。」


「(命の恩人とかいいやがった!芝居だったくせに!)いえ、お礼をして頂くために助けた訳ではありません。それでは失礼します。俺達宿を探しますんで。」


「え〰〰、だ、駄目よ、駄目駄目!私が両親に怒られるわ。それじゃ、お茶だけでも飲んで行って。」


「(必死だなぁ。ちょっとしつこいよ。)ではお茶だけ頂きます。」


「良かったわ。ほっとした。」


「じゃあ、そこの食堂でお茶だけ頂きます。」


「なんでよ!!」


「(怒鳴りやがった、言うに事欠いて怒鳴りやがった。必死を通り越して哀れだな。)じゃあ、お家にお伺いしますので先導してください。」


「じゃあ、付いてきて。」


 女性は笑顔を取り戻し前を歩き出した。

 莉々菜に小声で言う。


「アジトが分かったら即刻逃げるぞ。お前のレーダーのスキルで周りの敵がいないか探れ。」


「誰のスキルよ!そんなスキル持ってないわよ。持っていたらこんなとこ歩いてないでお城で贅沢に暮らしてるわよ。」


「それもそうだな。」


「ところでスキル取れた?」


「いや、何も持ってなかった。泣き損だよ。」


「ちょっとぉ、何やってるの。こっちよ、こっち。」


女性が痺れを切らして二人を急かす。

未だに女性は名前を名乗らない。昴はサイコメトリーで名前を知ってい入るが言えない。

悪いことをしているとの認識があるのだろう。それでも、それをせざるを得ない状況に彼女はいる。

彼女に事情を打ち明けアジトの場所を聞くことは出来る。しかし、洗脳されている彼女は聞いたところで教えてはくれないだろう。

結局付いていくしかない。


「ここよ、ここ。」


そこは普通の庭が広い一軒家だった。お屋敷と言った感じの二階建ての家だ。


「逃げるぞ。」


「オッケー。」


軽く答える莉々菜。

その後は二人で角を曲がり、曲がりしながら追手があるものと想定して逃げる。

まさか犬は使わないだろうから匂いで辿られることはない。


結局、追手は無くアジトから少々離れた大通りに面した宿に部屋をとった。寂れた宿だと追手が堂々と入ってきそうで怖かったからだ。所詮はチートなど持っていない一般人に毛が生えたようなものだから当然だと言える。その一般人プラス毛が人攫いグループのアジトから人質を助け出そうというのだから烏滸がましすぎる

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