第7話 詐欺の村長は自らの磔刑で贖罪す
正門の前の冒険者は村人と戦っていた。
昴は体勢を低くしながら村人と剣を交えている冒険者に向かって横から防御しにくい足首に向けて剣を振るう。村人戦っていた冒険者は昴の攻撃に反応が遅れ防御が届く前に剣が足首に届き足首から先を切り落とした。
冒険者はそれでも倒れずなおも剣を構え続ける。しかし、既に先程までの戦闘力はなく、上段に構えた剣から繰り出された莉々菜の剣によって肩を切られた。その後は村人が袋叩きにし直ぐに事切れてしまった。
昴はその光景を少しの間見つめていた。
しかし、直に莉々奈を探す。すると莉々菜は既に別の門にいる斧を持った冒険者に向かっていくところだった。
「莉々菜、待て!」
一人で行かせる訳にはいかない。剣道がどんなに強くとも相手は斧。不測の事態が起こる可能性がある。なぜなら莉々菜は今まで斧と戦ったことはないのであろうから。
「早く来て。」
莉々菜が剣を振るう。
初撃は斧で避けられる。
しかし、剣道で鍛えた連撃が斧を持つ冒険者を襲う。冒険者は防戦一方になっている。そこへ卑怯にも昴が横から突いた。剣は右胸の横辺りから肋骨の間を深く入り込み冒険者は絶命した。剣が心臓にまで到達していたようだ。
「あの人が最後?」
莉々菜が三人目の冒険者を指差し昴に訊いた。
「そうみたいだな。」
すでにその冒険者は気勢が上がった村人達に取り押さえられていた。
昴はその冒険者に触れた。
冒険者の人生が流れ込んできた。
――――――――――――――――――――
彼は生来の冒険者ではなかった。
商人の子供として生まれ、恵まれた生活を送ってきた。成長し、兄が商売を継ぎ弟である彼は兄を手伝いながら生活し結婚もした。子供が生まれ平穏でお金はそれ程無いが幸せだと思える生活を送っていた。
しかし不幸は突然やって来る。息子が病気になった。急に金が必要になり金策に走った。兄に金を借り、それでも足りず店の金に手を付けた。高利貸しからも金を借りた。個人の借金だったが高利貸しは当然店に対しての貸付だと、恰も店を担保に融資をしたかの如く主張し、脅して店を奪う。結局兄も兄の家族も彼も彼の家族も路頭に迷い冒険者として生活するしか道がなくなった。
そんな折、新しく村長になる男からの護衛の依頼が舞い込んできた。
普通は冒険者への護衛依頼は村から他の街や都市に行く場合にだけ雇うくらいだ。
しかし、彼は物騒な世の中だから村長が常時の護衛を冒険者に護衛を依頼することもあるだろうと別段深く考えもしなかった。
「君達が護衛を担う冒険者だね。宜しく頼むよ。村の中での護衛だから気楽にね。」
村長は、人当たりがよく、親切で、村人にも自費を投じて基金を作りそこから融資を低金利で行い村人の暮らしを良くしている。誰の目から見てもこんな村長はいない。これぞ村長だと三人の冒険者皆で話していた。
しかし、三人も雇うのは可怪しいと感じつつも村長に訊いてみた。
「村長、三人も冒険者を雇うのは大変ではないですか。」
「そんなことはないぞ。お金が一人に渡るより、三人に渡るほうが三人の暮らしが良くなるし、世の中が潤うだろ。経済が発展すればみんなの暮らしが良くなる。経済を発展させるためにはお金を使うことが必要なんだよ」
「そうですね。より多くの人が幸福になりますね。」
村長の言葉に皆感動し村長を何かが起こったときにはしっかり護衛しようと心に誓っていた。
村長は常に金払いがよく、病気の子供に薬も買ってやれる。
しかし、ここ最近の村長には目に余るものがある。借金のカタに娘を攫って来させる。
「村長、借金のカタに娘を差し出させたり娘を攫ったりするのは止めませんか。」
彼はある時村長に抗議してみた。
「仕方がないんだよ。誰かが鬼にならないと。」
村長は諭すように柔らかく言う。
「どういうことでしょうか。」
「娘を養い続けることは金がかかる。だから、私が鬼になって娘を連れてくることで経済的負担を少しでも軽くしてやっているんだ。娘にはここで行儀見習いもさせられるしな。」
「そうなんですね。」
彼は単純な男だった。
しかし、娘たちを村長が強姦していることを知り再度抗議しようとしたが、抗議してしまえば首になり息子の薬代が買えなくなると彼はここでの仕事を辛酸を嘗めながら息子の為に耐えていた。
今日のことも子供の為に仕方なく加担した。ただ、冒険者としての仕事をしただけだ。
彼は仕方がないんだと心のなかで泣いていた。
だから抵抗をせずに村人に捕まった。
――――――――――――――――――――
昴は立ち上がり、皆に大きな声で告げた。
「この方は、唯の冒険者。護衛として雇われただけです。この方はあなた達に対して敵意がない。許してあげませんか。」
「しかし、そいつに娘を攫われたんだぞ。」
「それは仕方なくです。嫌々ながらやってしまったのでしょう。冒険者で護衛として雇われている彼としては村長の言うことに逆らえなかったのでしょう。逆らえば彼は息子さんの薬代を得られず息子さんは死んでしまうかも知れません。ここで、彼を犯罪者として殺してしまえばあなた方も同類になってしまいます。子供の為にしたことです。子供の為に許しませんか。」
この戦いは昴達のおかげで終わったと言える。今回のクーデターの立役者であるスバルの意見は村人たちにとっては重かった。子供の件をどうして昴が知っているのかについては村人は昴が冒険者に近づいた時聞いたのだろうと考えた。未だ子供の昴が冒険者の虚言に騙されている可能性があるとも考えたが、既に二人も冒険者を殺し怒りが村長に向いている現状では一人の冒険者の処遇など村人にとってはどうでも良い関心事に成り下がっていた。
村人は昴の意見に少々の異議を唱えつつも納得し、生き残った冒険者を彼の子供の為に放免することにした。
昴はスキルを得たことを感じたがステータスを表示して確認してみた。
レベル: Lv.2
スキル:『値切りLv.1』『剣術Lv.2』『農業Lv.1』
レベルは変わらず、『値切りLv.1』というスキルが増えていた。これで、サイコメトリーしたことでスキルが生じたことは確定したと言える。生じなかったのはスキルがなかったか既に持っているスキルのレベルが低いスキルで生じなかった場合が考えられる。そのどちらかだろう。鑑定のスキルが有れば性格なことが分かるのだろう。しかし、値切りはレベル1なので少しは料金を負けてもらえるスキルなのだろう。少し残念だ。
昴が少々愕然としていると村長宅の中から村長と妻、そして、奴隷にされていた娘たちが助け出された。
直ぐに広場に引き出された村長と妻は磔にされた。
昴も磔にするのを手伝う。
そして、村長に触れた。
村長の人生ははじめから終わりまで他者を欺き自分の為に生きてきた犯罪者の人生だった。
得られたスキルは『詐欺師Lv.2』だった。
村長は根っからのスキル持ちの犯罪者だった。
広場は周りに火が焚かれ煌々と広場を、磔られた村長とその妻を照らし出していた。
村長と妻の足元には木や燃えそうな物が置かれている。
磔刑に処せられた村長と妻は生きたまま焼かれるのは余りにも残酷だとして槍で刺殺された後、足元の木材に点火された。次第に炎は大きくなり二人の死体を優しく包み込んでいった。
昴と莉々菜はそれをただ黙ってみていた。
こんな私刑が許されるのは異世界ならではだろう、異世界に来てしまったんだということを今更ながらに思い知らされていた。
「なぁ、部長。剣道教えてくれよ。」
昴は炎に包まれる村長夫妻であったものを見ながら呟くように言う。
「誰があなたの部長よ。良いわよ。教える。私厳しいわよ。でも、どうなるんだろうね。」
「何が?」
「この村。だって、国から派遣された人を村人の都合で殺しちゃったわけでしょ?客観的に見ればクーデターではなくって唯のテロ。国が黙っていないんじゃないの。」
「そうかもな。あの王女なら許さないよな。普通なら国に村長を何とかしてくれと直訴して村長を罷免して貰うのが普通だよな。もしかしたら、直訴したけど国が無視したのかもな。あの王女の父親が王様だろうからそんなこともあるかもな。」
「絶対君主制ならありそうね。私達、早くこの村を出たほうが良いかもね。」
「だな。明朝一番に出るぞ。剣も忘れるな。」
「でも、昴、剣道部に入ればよかったのに。才能あるよ。」
「あれは才能じゃなくって手に入れたスキルのお陰だよ。でも、やってればよかったな。」
少し後悔してしまった昴であった。
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