第6話 襲撃の盗賊と誤謬ある村長はその死を持って贖うべし

 なぜ、莉々菜を置いて来たのだろう。昴は今更ながら気づいてしまった。確かに、シルヴァンが女性は隠れていろと言った。しかし、どう考えても昴が剣を使うより剣道部で主将を務めていた程の実力を持つ莉々菜が剣を使ったほうが何倍も有効なのではないだろうか。しかし、既に遅い。盗賊は目の前だが莉々菜は離れた家のそれも床下に隠れている。

 昴が戦うしか無い。

 盗賊が剣で攻撃する。

 あれ?剣の動きがよく見える・・それに、どう避ければ良いのか分かる・・今だ、今攻撃する・・今攻撃したほうが良いのも分かる。??なぜ??


 考えるより、今は行動しろ。昴は剣で相手を攻撃した。


 たった一撃だった。


 盗賊は崩れ落ち絶命した。


「す、凄い!盗賊が一撃だ。」


「あー本当だ、凄いな。」


 盗賊の下敷きになった村人とシルヴァンが呟く。


 不思議だと昴は思ったが今は戦うしかない。昴は戦わないと死ぬと考え自分を奮起させ必死に戦い続ける。


 気がつけば盗賊は全滅。十二名いた盗賊は全て殺されるか捕縛された。


 十二名のうち五名を昴が倒すか殺していた。


 昴は殺人という禁忌を犯したことで吐いていた。やらなければやられていた、だからやった。たとえ日本でも正当防衛で殺人にはならない。それでも禁忌を犯したことは大きい。トラウマになる。だから吐いた。トラウマになる行為でもそれを何度も行うことでトラウマではなくなるだろう。つまり、その内慣れるだろう。しかし、今は心が受け付けない。トラウマが心に巣食いそれが体内の異物となる、そのトラウマを体外に排出する代替行為として吐き続けた。


 吐くものがなくなり昴は少し落ち着いた。


「君、剣が使えたんだ。言ってくれれば最初から剣を渡していたのに。」


 村人のリーダーだ。


「いえ、偶々です。俺もよくわからないんです。もしかして天才?」


「そ、そうなのか?まぁ、でも良かった、ありがとう、手伝ってくれて。」


「いえいえ、どういたしまして。」


「お前ら、村長はこの事態を知りながら放置した。もう許せない。村長を倒すぞ。」


「でも、どうやって倒す?冒険者もいるぞ。」


「しかし、このまま村長宅を襲撃しないと気づかれて対策を講じられるぞ。」


「しかし、今でも盗賊への対策を講じて冒険者が守りを強化しているかも知れないぞ。」


 侃々諤々、村人たちの意見は尽きない。

 昴は何もすること無く盗賊倒したからレベルが上ったかなと考えステータスを見ることにした。


 鑑昴 17歳 Lv.2(+1up)

 スキル:『剣術Lv.2』『農業Lv.1』


 レベルは2に上がった。

 更に、良く見ると下の方のスキル欄に変化があった。剣術が増えていた。

 

 レベルは戦ったことで上がったのだろうと推測できる。しかし、剣術のスキルが突然増えた理由がわからない。しかも、スキルレベルが2になっている。剣で戦ったから剣術のスキルが発生したのかも知れない。しかし、少し戦っただけで発生した上にもうレベルが上ったのだろうか。もしかしたら、隠されたスキルで成長100倍とかもっているのか。それならチートだなと昴は喜ぶ。

 しかし、農業はやったことがないのにスキルがある。最初無かったのなら途中で発生したのだろう。だとすれば、剣術も剣を使ったことでスキルが発生したのではないだろう。

 農業をやってもいないのに農業のスキルが発生し、剣は少し使っただけで剣術のスキルが発生した上、レベルが2。

 二つのスキルの共通点は?

 剣術と農業・・あるわけない・・・いや、ある。共通点はサイコメトリーのあとに増えていた。老人で農業、剣を持った盗賊で剣術。

 つまり、サイコメトリーした人物のスキルを覚えるのか?

 だとしたら、捕虜となった盗賊に触れサイコメトリーすればスキルを覚えられるんじゃないのか?

 昴は近くの気にロープで括り付けられている盗賊を片っ端から触れていった。

 結局、生きている六名のサイコメトリーをしたが新たなスキルは生じなかった。これは、六名全員がスキルを持っていなかったか、別の理由があるのかも知れない。

 残念なことに最初に魔法で攻撃してきた盗賊は既に殺されていて魔法のスキルを得ることはできなかった。

 その後未だに話し合っている村人たちのもとへ戻る。


「すいません。剣をもう一本もらって良いですか。連れは俺より剣が上手いので戦力になります。」


「本当か?だったらもう一本持っていってくれ。もう村長宅に向かうから君達は村長宅に直接向かってくれないか。」


「了解しました。直ぐ追いかけます。」


 昴は直ぐにお爺さんの家へ戻り、玄関を開けて中へ入ると莉々菜は未だに隠れてさえいなかった。


「莉々菜、隠れなかったのか?」


「だって、床下汚かったんだもの。蜘蛛の巣とか?それより、大丈夫だったの?盗賊はどうなった?」


「もう大丈夫。みんなで盗賊は退治したよ。それより、村長は彼が雇っている冒険者を助けによこさなかったんだ。それで、村人我慢の限界突破。皆で村長宅を襲撃するらしい。クーデターだよ。」


「それは当然よね。娘取られて助けも寄越さないなんて。頑張って。」


「えっ?」


「えって何?」


「莉々菜も来るんだよ。ほらこの剣あげるから使って。」


「この剣、血が付いてるじゃない。殺人の物証?」


「そうだけど、莉々菜は剣道部の部長さんだろ。だったら俺より絶対強いだろ。これで戦え。」


「む、無理よ。人切るんでしょ?切ったことないし、切りたくもないし、切られたら怖いし、痛いし、悲しいし。私行けない。」


「なぁ、この世界で生きていくしかないんだから、少しづつでも馴れておかないと生きていけないぞ。汚いことにも殺すことにも。俺もさっき盗賊を殺した。怖かったけど、殺して他人の人生を奪うこともしたくなかったけど。それでもやった。やらなかったら俺が殺されていたからだ。そこで躊躇っていたら絶対俺が殺されていた。だから、莉々菜も少しでも慣れておかないと、いざという時に躊躇ったら殺されるかも知れない。」


「う〰〰っ。そうだけど・・・」


「部長さん、頑張れ。」


「う〰〰、よし。頑張る。」


「そうだ。思考を切り替えろ。ここは日本じゃない。殺人も忌避するな。俺もしない。もう吐かない。いくぞ。」


「おーっ!・・って吐いたのかよ、情けない。私なら吐かないけど。」


「多分それは儚い夢だぞ。」


「吐かない夢?下らない!」


「ぐさっ!!」


 昴は少し落ち込んだ。


 外に出ると既に辺りは真っ暗で星の輝が眩しいほどだった。

 二人はお爺さんの記憶を頼りに村長宅へと向かう。道は、人々が毎日通っているせいか少し凸凹だが暗闇の中でも歩けないほどではない。暫く歩くと少し高台の上に村長宅が見えた。

 村長宅の周りには篝火が焚かれ村長宅と周囲を明るく照らしている。既に、村人が周りに集まっているのが遠目に分かる。

 村長宅の前まで来るとかなりの村人が、盗賊と戦う時以上の人が集まっていた。

 

「どうなりました?」


昴はシルヴァンを見つけると状況を確認するために話しかけた。


「今、村長の投降を促しているんだが籠城していて出てこないんだ。塀の中に人が見えるだろ?あれが冒険者だ。全部で三人いる。決裂すれば戦うことになるだろう。」



「冒険者の諸君、投降しろ。君達は今投降すれば直ぐに開放する。君達は雇われただけだ。」


 村人のリーダーが中にいる冒険者達に大声で告げる。


 しかし、数分後、リーダーは投降を諦めたようだ。


「仕方がない。皆、突入するぞ。」


 まず、村人が正門を破壊し始めた。


 人が通れる程度に破壊された正門の隙間から人が中へと突入し始める。

 先頭で突入した二人があっという間に冒険者に切られた。


 「もっと門を広げろ!一斉に突入するんだ。」


 村人の誰かの怒号が飛ぶ。


 別の門から突入した者も別の冒険者に叩きのめされてしまった。

 あれ程の勢いで突入した村人の勢いが一瞬で止まった。


 強い。


 流石に冒険者、強い。


 その冒険者が三人もいる。既に村人の心は折れ顔には家に帰りたそうな負け犬の表情が浮かんでいる。


 それを見るやいなや冒険者は顔に暗い笑みを浮かべ更に村人を襲い始める。

 既に村人の顔に先程までの勢いはなく顔に死相が浮かび始めていた。


「莉々菜、一緒に正門近くの男から倒すぞ。」


「分かった。でも昴、あなた剣使えるの?」


「大丈夫、使える。事情は後で教えるよ。じゃあいくぞ。」


「うん。死なないでね。」


「当然。」


 先程の盗賊との戦闘とスキルという根拠で自信をつけた昴の表情に恐れは浮かんでいない。ただ過剰とも言える自信だけが表情に現れていた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る