第36話そんなものは壊した本人に請求してくれ


「整理番号567番の方から整理番号612番の方!!予選を始めますので虎の場までおこし頂きますよう、速やかに行動願いますっ!!繰り返しますっ!!整理番号567番の方から整理番号612番の方!!予選を始めますので虎の場までおこし頂きますよう、速やかに行動願いますっ!!」


本日は武闘大会前日。


俺は武闘大会の予選会場へと足を運んでいた。


辺りを見渡せば古きヤクザの様な人物や、ドキュンに不良めいた者、武を極めてそうな人物などなど、前世の俺であれば間違いなく目に入った瞬間関わりたくないと逃げるような輩たちが所狭しとひしめき合っていた。


そんななかでもちらほらと女性の姿を目にするのだから、魔術やスキルと言った能力で男女の体格や体力差など簡単に覆してしまう世界であるという事が改めて伺う事ができる。


それでも男女の趣味嗜好は前世と同じであるのだろう。


男性はこのような催しは好む傾向にあるのだが女性は演劇や演奏といったものを好む傾向がある為いくらスキルや魔術で男女差を覆す事ができるといっても、その男女の趣味嗜好まで覆る訳もなく───


「ほら旦那様の整理番号は588番だろっ!早く虎の場まで行くぞっ!!」

「あっ!?こらレミリアさんっ!!私のダーリンを強引に引っ張って行かないでくださいっ!!痛がっているじゃないですかっ!!あんな筋肉お化けよりもダーリンは私の様な何処を触っても柔らかな女性に触って欲しいですよねっ!!」

「二人ともご主人様の邪魔になっているのが分からないのですか?ほら、いきますよ、ご主人様」

「全く、あなた方ときたら節操が無いにも程がありましてよ。ま、まぁ今回はこのわたくしが我が夫の為にと敷地内の地図をご用意させて頂きましたので?当然このわたくしが我が夫を、どーしてもとおっしゃるのならば案内してさしあげましてよ」


──そう、覆る訳もなく、何が言いたいのかと言うと女性の数が少ない場でこの様に女性陣がいつもの如くこの俺に纏わりつくとどうなるか、周囲の殺意が籠った数多の視線を観れば一目瞭然であろう。


その、純粋な殺意を数多向けられてゲロ吐きそう。


もちろん某アニメキャラクターの能力を持っている為恐怖心等は微塵も無いのだが、だからと言って元々のメンタルまで強化されている訳ではないので他人からの負の感情はダイレクトに感じてしまう。



そして数多の嫉妬と殺意という視線を浴びながら俺は虎の場まで向かう。


その間、誰が俺をエスコートするのかで女性陣が揉めていたのだが妹とあの駄女神がこの場にいないのが唯一の救いであろう。


その二人はというと別々の予選会場へと向かっているのだが無事穏便に終わらせて何事も無く帰って来ることを祈るばかりである。


なまじあの二人の事である。


幼子の初めてのお使いよりも心配してしまうのは致し方ないと俺は思う。


そんな事を思っていると蛇の場から爆音が響き渡ったかと思うと、今度は狼の場からも爆音が聞こえてくる。


いや、俺は何も聞こえなかった。


この爆音後、迫りくる二つのプレッシャーも感じていない。


遠くの方から「夫様ーぁっ!!」という声と「お兄ちゃんーーーっ!!」という声が聞こえ、それが徐々に大きくなって来ているのもきっと気のせいだろう。





「すまない皆の者。せっかく早い段階で集まって頂いたにも関わらず一時間ほど待たせてしまった事をまずは詫びよう」


予選虎の場の審判と書かれた腕章をつけた今大会の関係者がやってくると、最初に謝罪から口にする。


職員の話では蛇の場と狼の場が半損してしまい、それにより他の場の予選開始時刻が遅れてしまったとの事である。


その原因を作った人に心当たりがありすぎる俺は、俳優も裸足で逃げ出す演技力で知らぬ存ぜぬと無関係者を装う。


もしこいつらの保護者的立ち位置であるという事がバレてしまった場合、半損した場所の修理代を請求されかねない。


そんなものは壊した本人に請求してくれ。


俺には関係ない。


俺が壊したわけじゃない。


「ではルール説明を行う。まず初めに殺しは禁止である。万が一殺してしまったものは失格処分と致す。そして予選の内容であるのだが総当たり戦だ。最終的に残った三名は本戦への出場が認められるのだが、先ほどイレギュラーが起きてしまい蛇の場と狼の場での本線出場者が合わせて二名しか現れなくてな、今回に限り七名まで枠を設けさせて頂く事となった。また使用武器はこちらで木製を何種類か用意さっせて貰っているのでそちらを使用してもらう。また、こちらで用意していない武器を使用した場合についても失格とさせて頂く────」


そんなこんなで俺の演技が完璧すぎたのか担当者は気付くそぶりもせず今大会予選内容注意事項等を順次説明していく。


基本的には、殺し禁止、運営が用意した武器以外は使用禁止、勿論殺傷能力の高い魔術の使用禁止、場外に出ても失格、気絶したら速やかに職員によりタンカで運ばれるのだが、その職員への攻撃は禁止、今回に限り本戦への出場枠の拡大、と言った感じである。



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