第28話駄女神
そして自称女神はそんな気の抜けるような言葉を唱えるとラインハルトから『ぼふん』という気の抜けた音がした後、その身体から光の球体がふわふわと出てきて自称女神の所へと浮遊して行き止まる。
「では、ラインハルトさんのスキルから『勇者』のスキルを剥奪致しました。おめでとうございます。これで晴れてラインハルトさんは勇者からただの村人Aへと変わりました。新たな人生の始まり、もしくは生まれ変わったその後の人生に幸あらん事を」
その気の抜けたなんとも緊張感のない光景になんのツッコミもせず自称女神がラインハルトからスキル『勇者』を剥奪し終えた事を宣言するのだが、光景が光景である為半ば半信半疑であるといった表情を自分を含めて先ほどの光景を見た全員が思ってしまうのも致し方ない事であろう。
「あれ?皆様、神の軌跡を間近で見れる機会なんてそうそう無いんですよ?なんでそんな半目を皆様してらっしゃるんですか?」
その為自称女神がそんな事を言って来ても証拠が無いんじゃぁ疑ってしまうというものである。
「ふん、所詮女神ごっこであろう。まぁ、良い余興にはなった為今度は俺様が勇者にしか扱えない軌跡とやらをお見せしようではないか」
そしてこの自称女神が行った先ほどの軌跡とやらが本当かどうか、このバカ………自称勇者ラインハルトが自ら証明してくれるらしく先ほどまでこの俺にボコボコにされていた事をもう忘れてしまったのか自信満々に旨を張って前に出てくる。
「それでは刮目せよっ!!これが勇者の軌跡であるっ!!」
そして自称勇者ラインハルトが剣を空へと掲げながら無駄に大きな声で偉そうに叫ぶのだが、いくら待てど何も起こらない。
「ん?何故なにも起こらないんだ?オラっ!!ぬあっ!!ドリャァっ!!………何で何も起こらないんだよ!?」
「そりゃそうですよ。だって私が先ほど貴方から『勇者』というスキルを剥奪したと言ったではないですか。この私の掌の上で輝いている光の球体がスキル『勇者』の元ですからこれをあなたの身体に入れないとスキル『勇者』の能力が使えないのは子供でも分かる当たり前の事だと思うのですが、私難しい事を言っているつもりは無いんですけど」
そして自らのスキルを扱えない事にラインハルトは明らかに狼狽えてみるみる顔色が悪くなってくると同時にその光景を見て自称女神が再度ラインハルトからスキル『勇者』を剥奪した旨を子供に教えるように説明しだす。
「ですからこの球体をクロード様に入れると、クロード様に勇者のスキルが付与されますので、スキル『勇者』の軌跡を扱えるようになるんです。ちちんぷいぷいのほいっ」
自称女神が投げた光の球体がふわふわと浮遊しながら俺の身体の中へと入っていき、身体の一部として新たに加わっていくことが分かる。
その原理そのもの等理解できず本来であればそれは俺には何にも意味を持たない行為であるはずのそれは、なんの弊害も退く滞りなくその軌跡を終わらすと、俺の中に新たに【勇者】というスキルと共にその能力と行使できる軌跡を瞬時に理解する事ができた。
おそらくではあるが、俺は理屈どうこうではなくこの目の前の自称女神が本物であり、これから起こる軌跡が間違いなく成功すると思ってしまっていたからこそ今回の軌跡は何の弊害も無く成功したのであろう。
何故ならば目の前女性は確かにあの白の世界で俺にこのチート過ぎる能力を授け、更に異世界であるこの地へと転移させたのだから。
これぐらいの事をできない訳が無いと、俺は心の奥底で思ってしまっていた。
それと同時に思い出す。
この目の前の駄女神が最初、俺を何処に転移させて、それ故に次この駄女神に会う事があればその頭にTPOを叩き込んでやると強く誓った事を。
「痛いっ!痛いですクロードさんっ!!この私が何をやったというのですかっ!?むしろご希望の能力だけではなく勇者という力まで与えたこの私をこれでもかと褒めて撫でて抱き付き子作りの末幸せの家庭を作るのが正しい反応でしょうっ!?あ痛たたたっ!?なんでここで込める力を強めるんですかっ!?」
その事を思い出せばやる事は決まっているためこの駄女神の頭を両手で万力の様にキリキリと締め上げていく。
「だからと言ってレミリアの入浴中、その浴場に転移させる奴がいるかっ!!そのお陰で俺は帝国の城仕えのメイド達から変態だと陰口を言われているんだぞっ!?この責任をどう取るって言うんだっ?」
「えぇーと………私の身体?……あ痛たたたたたたっ!!何でですかぁっ!!この女神である私のこのパーフェクトボディーとパーフェクトフェイスの美の化身と言っても過言ではない私を好きにできるんですよっ!?全人類男性の夢ではないのですかっ!?」
「いくら美人でも頭の中が残念過ぎるだろっ!!たった数十分の間でもお前の頭の中が残念である事が手に取るようにわかってしまう程の残念具合じゃねえかっ!!」
「あぁんっ!!何だかこの痛みもこの罵詈雑言も、この雑な扱いも何だか癖になって来そうですぅーっ、痛いっ!!いきなり手を離さないでくださいよっ!!ってあれ?なんで私から後ずさりしているのですか?愛しい夫様」
最早こいつは女神なんかではない。
ただの痴女であると判断するのにそう長い時間は必要なかった。
そもそも何故俺の周りにはまともな女性が一人もいないのか、そしてこのクレームを何処に言えばいいのか真剣に考えてしまう。
女神がいるのならばそう言ったキューピッド的な神もいてもおかしくない。
そこまで考えて俺はある仮説にたどり着き嫌な予感が俺を襲う。
女神と言うほどの神が、いや女神だからこそ事恋愛ごとも────いや、考えるのは辞めよう。
これ以上真理にたどり着く事は危険であると俺の本能がけたたましくも鳴り響き告げてくる。
それに、なんだかんだで彼女たちを今のところ受け入れているのは俺の意思でもあり女神どうこうは関係ない。
まぁ、だからと言って結婚などは二の足三の足を踏んでしまうのは致し方ないと俺は思う。
文句のある者は自分の胸に手を当ててみて欲しいものだ。
「………目を閉じ夫様の事を考えてしまい胸の鼓動が煩く聞こえてきますっ!!」
「はいソコ人の思考を読むの禁止なっ!!次破ったら強制送還だから覚えておけ」
「いけずです。でも不便なのもそれもまた良い物です」
もしかしてできるのではとは思ってはいたのだが、実際に人の心を読むなど他人のプライバシーを何だと思っているのか、この駄女神は。
そしてその女神の後ろに目をやると自称勇者、いまや元勇者であり村人Aに成り下がったデブが先ほどから「フンっ!!おりゃぁっ!!何故勇者の軌跡が起きないんだっ!?こなくそっ!!」と自分の身体から勇者のスキルを奪われた事に納得していないのか無駄に勇者の軌跡を行使しようと足掻いている姿が見える。
この村人Aは勇者と言うスキルが無ければ残るといううのだろうか?今まで勇者というスキルに胡坐をかき努力を怠り、そして全てを勇者というスキルに頼り切って生きて来たのであろう。
その事は周りから聞いた村人Aの人となりから察する事が出来るのだが、その肥え太った身体に未だ勇者の軌跡に縋ろうとする光景からも容易に想像する事ができる。
そしてこの村人Aはこれからどのように生きて行くのか、むしろ生きて行けるのか、三日も持たないんじゃないか?それはもう世に放たれたお蚕様のごとき何もできないのではないか?そして村人Aはお蚕様と違い我々に利を成すことが出来ないどころか今まで害悪をまき散らして来たため勇者で無くなったと知れば村人Aを囲う者も居ないであろう。
そう考えるのは俺だけではなく、ここにいる全ての人々が同じことを考え思いいたのであろう。
このまま生かす事こそが村人Aにとっては耐えがたき拷問であろう、と。
という訳で自称元勇者であり現村人Aにまで成り下がったラインハルトの肩を軽く叩く。
というかそろそろ目障りなのだが触らぬ神に祟りなしと関わりたくないのか奴に現実を突きつける事が出来ないからなのかまたはその両方なのかとにかく周りの者達がまるで羽虫を見るような表情でラインハルトを眺めているだけで行動に移そうとしない為仕方なく、本当に仕方なく俺が動くことにする。
一応、早速勇者の軌跡とやらを行使してみたいとか思っての行動ではないと予め言っておこう。
「何だ?見てわからねぇのか。俺は今忙しいんだよ。ぶっ飛ばすぞ………ひぃいっ!すみませんっ!すみませんっ!もう痛いのは嫌ですっ!許してください」
しかし人の顔を見るなり俺が鬼か何かであると思い出したかのように悲鳴を上げながら許しをこうラインハルトに対して少しながら前世の上司を思い出しイラっとする。
上の立場の者と下の立場の者とで態度を百八十度変えるあたりそっくりである。
「もう勇者でも何でもないお前には攻撃しないよ。こんなクズでも俺のせいで死んだら目覚め悪いしな。取り敢えずあそこの駄女神がお前の勇者のスキルを俺に移し替えたみたいなんでその証拠を今から見せよう」
そう言うと俺は勇者の軌跡である聖剣召喚を行使し、光り輝く聖剣をこの世に顕現させてみせる。
やはり駄女神と言えどやはりそこは神の人柱なのであろう。
俺の元々の能力により勇者のスキルを行使できるあたり流石と言えよう。
「そ、それは俺の聖剣っ!やっと出たのか待たせやがってっ!うんぎゃぁあああああっ!?」
そして村人ラインハルトはこの世に顕現した聖剣を自分が顕現したものと勘違いをし掴もうとするのだが、村人ラインハルトが聖剣に触れた瞬間、聞くに堪えない汚い絶叫を叫びだす。
さすが聖剣と言うかなんというか顕現した者にしか触れられないなどのギミックがあったようである。
そこは良くある重すぎて扱いきれないなどではなく強烈な痛みでもて対応するという事が村人ラインハルトにとっては不幸だったと言えよう。
そして俺は余りの痛みでうずくまっているラインハルトへ見せつける様に聖剣の柄を握ると軽く二度三度と聖剣を確かめる様に振ってみせる。
「あ、れ……?嘘だろ……?」
その光景を目にしてラインハルトはやっと気づく。
勇者と言う称号が俺へ引き継がれてしまっている事に。
何故ならば勇者というスキルは世界にひ一人しかおらず、その者がいる限り新たに勇者というスキルを持った者は現れないからである。
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