第25話勇者の能力





「失礼しますっ!!」

「どうした急に、騒がしい」


 帝国軍本部の一室、今現在会議中にも拘らず一人の新人軍人が青い顔をしてなだれ込んできた。

 その様子に私は一応帝国軍のトップとして一言注意はするがそれと同時に内心この新人と同様に焦りだす。

 もし私がまだ新人の頃であったならこの心情の変化を隠すことが出来ず顔に出てしまっているだろう。

 いつの時も大事な会議に新人が飛び込んで持って来た情報は良い情報であった試しがない。


「先ほど王国より速達電報が届き、その内容をお伝えしたく思いますっ!!」

「分かった。では一旦会議は止めさせて頂くのでその手紙の内容を教えてくれたまえ」


 そしてその手紙の送り主はやはり王国であった。

 私は一旦会議を止める旨を発現し、王国からの手紙の内容を聞く空間を作ると新人へ手紙の内容について催促する。


「はっ!!王国からの手紙の内容を読まさせて頂きますっ!!『宣告した開戦日を迎えたため本日より帝国へ進軍致す』と記載されておりますっ!!この内容から手紙が書かれた日時にて王国は帝国へ進軍しているものと見られ、今現在グリフォン部隊を利用し王国軍の進軍具合を偵察に向かわせているところでありますっ!!」


 新人の言葉に周りから怒号が飛び交う。

 王国は最初普通配達で宣戦布告をし、速達で開戦宣告を告げる。また開戦日時は明確には記載しておらず手紙の内容からして最初に送った手紙を書いた日時より数えて一週間で開戦をする作戦であったのであろう。


 やり方としてはグレーだが、戦争を行うにあたり最低一週間前には宣言するというルールは破っていない。

 ただ配達に時間がかかっただけである。

 さらにこの様子だと他国にはしっかりと戦争をする旨を伝えており根回しは済んでいるのであろう。

 結局のところこの事を講義したところで王国ではなく配達人が悪いと言われればそれまでである。


 今まで帝国が強すぎた故のミス。

 弱者の戦い方を知らな過ぎた故の過失。

 奢り、怠慢、怠惰、挙げればキリがない。

 そしてこの最悪の結果を招いた最大の原因は我々上層部である。


「各種部隊早急に兵を揃えよっ!!少しの遅れも許されぬぞっ!!」


 そして各部署の長達はまるで蜂の巣を突いたみたいに右往左往と駆け出す。


 かの賢者は『戦い事は戦う前に既にどちらが勝つか決まっている』と言葉を残しているが、念入りに準備していた王国と、その事をしり敵対国と知りながらも何もしなかった帝国。まさにこの事であろう。


 しかし嘆いたところでこの状況が良くなる訳でもない事は重々承知している。

 今は自分にできる事を一つ一つ確実にこなして行く事こそが重要であるが、何をやっても時すでに遅し、焼け石に水であるという考えが頭を過り、ならいっそ敗戦後の為に少しでも傷を少なくするよう行動した方が良いのではないかと思ってしまいそうになる。

 そんな考えを振り払い、重い体を起こして、それが例え奇跡だろうと何だろうと勝利の為に行動に移る。

 




「はぁ、まったく………手ごたえが無さ過ぎて欠伸が出ちまったじゃぁねぇかよ」

「まったくだぜ勇者の旦那」

「フレール家って言えば魔術と武術に長けた国境の盾であり剣なんじゃねぇのか?ストレス解消できると思い先陣を切って来たは良いものの雑魚ばかりじゃねえかよ。糞の役にも立たねぇ」


 ラインハルトはそう言いながら帝国国境兵が集まる敵地真っただ中をまるで散歩をするかのように歩き進む。

 その背後にはラインハルトによって殺された数多の帝国兵の死体が転がっていた。


「死ねぇーっ!!」

「はいはい。毎回こいつら威勢だけは良いんだよね。威勢だけは。まあただ殺すのも飽きてきたところだしさぁ、お前、良かったな」


 ラインハルトは帝国兵による上段からの剣による斬撃を愛刀を使い片腕一本で軽く受け止めるといい考えを思いついたのかニタリと口角を上げる。


「な、何がだ………」

「お前、他の奴らと違い何分間かは長生きできるぞ。まぁ、死んだ方がマシだと思うかもしれないがなぁっ!!」

「ぐぅっ!!」


 あまりにも不気味なラインハルトに帝国兵は思わず聞き返すのだが、ラインハルトは込み上げてくる笑いを我慢するかのように語りだしたかと思うと次の瞬間には愛刀を帝国兵の太ももへ何の躊躇いもなく突き刺した。


「へぇー、痛みに耐えてるじゃん。『痛いよーママ助けてー』って言いながら地面を転がっても良いんだ……ぜっと」

「だ、誰が……っあ、がぁっ!!」

「あひゃひゃひゃひゃっ!!どうせ死ぬんだから痛みを我慢してもしなくても同じだろうよっ!!必死に耐えちゃってからによっ!」


 ラインハルトは痛みに耐える帝国兵を見て侮辱するかのような言葉を投げかけると今度は逆の太ももを刺す。

 そしてそれでも痛みに耐え、必死に立つ帝国兵をみてラインハルトは腹を抱えて笑い出すと今度は急所を外しながら帝国兵の腹を突き刺す。

 致命傷には変わりないが急所を外されているため失血により死ぬ事はできない。

 その後、数十分に渡りラインハルトの虐殺という名の遊びは続いたところで帝国兵は家族の名を口にしながら死んでいった。

 その間他の帝国兵は、助けに行った仲間達が一瞬にして殺される様を見て動くことが出来ず、仲間が嬲り殺されるその光景をただただ見る事しかできなかった。

 

「しかしまぁ傑作だったな。見たか?あいつの最後の表情をなぁ。まるで絶望と後悔と怒りでできた表情をしてからに。だったら初めから俺にたて突いてくんじゃねぇよって話だよなっ」


 帝国兵が倒れ、こと切れる様を最後まで見ていたラインハルトは腹を抱えて笑いながら自分の手で殺した相手の事を笑う。


「んー?どうしちゃったのかな?帝国の兵隊さんたちよう。老若男女が恐れる帝国ってのは所詮この程度だったとしたら俺は悲しいねぇ。これじゃぁ戦争じゃなくて子供のおつかいじゃぁないか。まったく」

「左様でございますなっ!しかしながらラインハルト様がお強すぎるのもその原因の一因かと」


 ラインハルトが喋っているその間にも会話の内容に我慢ならなくり飛び出した帝国兵が三名程、まるで蟻を殺すかのようにいとも簡単に殺されていく。


「そうだなっ!ごめんねぇ、帝国兵さん達。この俺が強すぎて。………さて、ここからもう少し先に街があるらしいからな、そこで盛大にパーティーでもしようぜお前らっ!!女を抱き放題、お酒飲み放題、金銭は奪い放題の祭りだぜっ!!そう考えると戦争も良いものだなっ!!」


 そうラインハルトが言うと王国軍の兵士達から雄たけびが上がる。

 その雄たけびは軍と言うより賊のそれであった。

 

 しかしその雄たけびは次の瞬間には悲鳴へと変わる。

 目の前には雄たけびを赤い炎で悲鳴へと変えた調本人と実に見覚えのある女性が立っていた。


「遅れてすまないな、お前たちっ!!」

「勇者固有スキルが発動しますので今は勇者には関わらないで下さいっ!!」


 一人は燃えるような赤い髪を腰まで伸ばし、同じく赤い目をした女性であり、一人はラインハルトが今最も合いたいと焦がれた女性である。

 その二人の女性をみてラインハルトの口角がニタリと上がる。


「まさか探していた女性二人が同時に俺の目の前に現れるなんてな、実にいい日だなぁおいっ!!………で、お前、俺から逃げただけでも死罪物なのに今度は国を売ったな?しかもそれだけではなく先ほどの口ぶりから俺のスキルまでも帝国に伝えやがったとか、覚悟はできてんだろうなぁっ!!」

「王国の未来を考えた結果の行動です。あなたがいればいずれ王国は滅びる。それ程までにあなたの秘めた欲望は深く大きい物であると私は判断したまでです」

「えらく口をきくようになったじゃねぇかよ。いつからお前はそんなに偉くなったんだ?噛みつく犬にはどっちがご主人様か躾が必要だよなぁおいっ!!」


 戦局はレミリア王女と私が助太刀に来たとしても以前帝国側が不利な状況には変わりはないであろう。

 それほどまでに勇者と言うものはたった一人で戦場を支配できる存在なのである。


 しかし勇者にも穴はあり、王国を仮想敵国と判断して勇者の対策をしてこなかった訳ではない。

 勇者の能力は勇者にしか発動せず。その他兵士達や国そのものは対象外なのである。

 であればこの様に勇者の相手はせず周りの兵士を倒して行けば良いのだが、それを簡単にできるのであればここまで苦労などしないであろう。

 勇者がここまで厄介なのはその能力【勇者は負ける事は無い】という能力に加えその戦闘力が備わっているからこそ厄介なのである。

 恐らく純粋な戦闘力だけみてもレミリア様と対等に戦う事が出来るのではないかと判断できる程である。


「おいおい、王国の未来がどうこう言う割には王国兵を倒して行くのは矛盾しているんじゃぁないかな?この雌豚がぁっ!!」

「いえ、ここにいる者達は王国兵ではなく賊に成り下がった反逆者達であると判断致します。よって排除させて頂きますので宜しくお願い致します」


 そう宣言はしたもののこの害悪でしかない勇者の能力有効距離に入らない様に一定以上の距離を取りながら行動しなくてはならず兵士一人倒すだけでも予断は許さない状況が続く。

 

 しかしながら私やレミリア様の戦い方を見て帝国兵側も勇者を避けながら反撃に出て来れているので幾分かはマシではある。


「ちょこまかちょこまかと逃げまどってんじゃねぇぞこの雑魚がぁっ!!」


 しかしその戦法も長くは続かず勇者が自身を中心として大規模な爆発を起こしたのである。

 その威力は凄まじく勇者を中心として半径一キロはあろうかと言う程のクレーターが出来上がっていた。

 その跡地には敵味方問わず生存している兵はおらず、咄嗟に防御スキルを使用したレミリア様と私、そして勇者以外立っていなかった。

 そして気が付くと周囲には勇者を中心として結界が張られており最早逃げ出すことすら出来ない。


 私は勇者と言う存在を侮ってなどいないつもりであったのだが、結局として『人間』のカテゴリーで考えていた時点でそれは既に侮っていたのであろう。

 またしても私は自分の正義感と取り戻したプライドにより判断を間違えてしまったようである。


 しかし、既に絶望感に支配されてしまっている私とは違いレミリア様はまだ勝利をあきらめておらず無謀にも勇者へと駆け出し、挑む。


「レミリア自ら俺の奴隷になりに来たとは嬉しい限りだが、ご主人様であるこの俺様に噛みつくなど言語道断だな」

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