第24話故に勇者

 だからこそのレミリア率いるこのメンバーが中心となって話が進められていく。

 王国そのものを動かす事は難しくとも少数気鋭であればそれはまた別のはなしである。


この世界において強者ランク一位であり帝国の懐刀でもあるレミリアを中心とした部隊をもってすれば戦争準備が整うまでの時間稼はできる可能性がある。

 しかし主軸がレミリアだけでは心もとない為冒険者ランクSSSであり推定強者ランク七位であるヒルデガルド、そしてとうギルドの懐刀であり推定強者ランク十五位の私が招集されたという事である。


 そして私たちに共通する事。

 それはレミリアを倒し、あの魔石騒動により生まれた魔獣共を一瞬にして駆逐した実力を持つ私のダーリンでもあるクロード様との関係を持っているという事である。


 もし私たち三人にダーリンが加われば、何とか帝国は持ちこたえる事が出来る確率が上がるのだ。


「して、お前たちの思い人であるクロードとやらを疑っているわけではないのだが、しかしそのクロードとやらはいかほどの実力なのか?そいつ一人で戦況が変わるほどなのか?」


 そしてこの場にいる全員が疑問視していることを代表してドミニクが質問してくる。

 この場にいる面々はクロードとやらの実力を疑っているわけではないのだが、だからと言って彼一人で戦況が変わる程であるかどうか疑問を持っていた。


 その問いに私が口を開く


「そうですね、スケルトンキングをまるで子供の相手をするかのように倒せる程には」







「何をしている」

「何ってお前が俺の相手をしてくれないからこうやって代わりを用意してナニしているんだが?」


 彼から返って来た返事に思わず私は舌打ちをする。


「それとも何か?ついにおれとナニしたくなったってか?コーデリアちゃん」

「その汚らわしい手で私に触るなっ!」


 彼はニタリと実に気持ちの悪い表情で私に近づくとあろうことか私の尻を鷲掴みにし気持ちの悪い手つきで揉んでくるではないか。

 あまりの嫌悪感に私は思わず彼の手を払いのけてしまう。


「んー?良いのかな、奴隷がご主人様にそのような態度で。俺、そんな事されてまで王国の為に戦争に行くほど人間出来てないんだけど」

「ぐっ………も、申し訳ございません」

「それが人に謝る態度?」

「申し訳ございませんでしたっ!」

「ま、良いけど。俺って優しいから。それに帝国さえ堕とせばコーデリアちゃんは身体も俺の物になるんだし、その時の事を考えると今こうして反骨心がある方が楽しめるってもんだ」


 クズが。


 これでは力に支配され欲望のままに生きる子供ではないか。

 なんでこんな奴が勇者などと言う称号を持って生まれてきたのか、私は心の中で神に向けて思いつく限りの悪態をつく。


 しかしこんな奴であろうとも腐っても勇者でありその力は凄まじいものがあるのだから救いようがない。


「あーうぅー………」

「ちっ、薬三本で壊れてんじゃねぇよ全く。この程度の快感で壊れる不良品めが。俺の前でいっちょ前に発情してんじゃねーよったく」

「きゃうっ!!?」

「ぎゃははははっ!!良いね良いねそのまるで畜生の様な鳴き声っ!!お前にぴったりだよっ!!」


 そう言いながらこの男は無抵抗の女性へ殴る蹴るの暴行を加え、その反応を楽しみだす。


 これでこいつの玩具にされて壊された女性は何人目であろう。

 十五人を超えたあたりから私は数えるのを辞めた。

 しかし、だからと言って怒りや嫌悪感が消えるわけではない。

 今も強く握りしめられた拳から血が流れ出るのだが今更である。

 もうこの痛みにも慣れて来ている事にゾッとする。

 次は心がこの痛みに慣れるのであろうかと。


「しっかしさぁー、レミリア第三王女だっけ?あいつこの俺を差し置いて他に婚約者を作るってどう思うよなあ」

「知りません。しかし最低でもレミリア第三王女様よりお強い方であるかとは思われます」


 不意に話しかけられ、当たり障りない事を返答する。

 声が怒りで震えるのを抑えるのに酷く苦労する。


「そんな事を聞いてんじゃねぇよブスっ!!なんでこの俺の奴隷にレミリアが居ないんだって話をしてんだよ。あいつは自分より強い奴を伴侶として求めていたんだろ?それってつまり俺の事じゃねぇか。なのにあの雌犬は他の男にケツを振りやがってからに。躾が必要だとお前は思わないのか?強さを求めるならばこの俺以外ありえないだろうっ!!くそっ!くそっ!くそっ!見つけた瞬間誰が最強なのか思い知らせてやり、そして二度と馬鹿なことをしないように躾てやるわっ!!」

「さようでございますね」


 自分の思い通りにならず声を荒げて暴れだすその姿はまるで癇癪を起した子供にしか見えない。

 実に醜く滑稽である。

 しかし王国の近衛騎士団金ランクのこの私をまるで子供のようにあしらったその強さはまごう事無き本物である為、彼の言っている強さの部分だけを見れば否定する事ができない。

 それが悔しくて情けない。

 なにが金ランクだ。

 このクズより弱ければ何の意味も持たない称号ではないか。


 悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい。


 悔しい。

 そして情けない。

 


 殺せるならば今ここで殺したいほどに憎いし、何故あの時この男に決闘を申し込んだのかと過去の自分を殴り飛ばしたくなる。

 相手を知りもせず、負けたら奴隷という内容にも無駄にあるプライドのせいで例え勇者であろうとこんないい加減な奴なんかに負けるわけが無いと高を括って見下していた。

 こいつはいずれ王国を潰しかねない。

 そう判断した事による強い正義感も私の目を曇らせた要因であろう。


 何故この男がここまで傲慢で自分勝手で癇癪持ちで相手を鑑みる事すらしない人間になったのか少し考えればわかる事だというのに。


 こいつは何であろうと負けを知らないのだ。

 こいつは努力という言葉を知らないのだ。

 こいつは痛みを知らないのだ。

 そしてその全てにおいてこいつは自分を中心とした世界で、それが当たり前であると何の疑問も持たずにのうのうと生きてきたのだ。


 そしてそれを実現できるだけの力をこいつは持っているからである。

 負けをしり努力に励み人の痛みを知りここまで上り詰めた私とは次元が違う。

 立っている場所が違うと何故あの時の私は気付けなかったのか。


 恐らくこいつには誰も勝てない。

 例えそれがレミリア様であろうと、その婚約者様であろうと、エンシェントドラゴンであろうと倒してしまうであろう。


 故に勇者。

 故に人類の盾であり剣なのだ。


 こいつがどんだけ糞野郎で、どれほどの人間を壊そうがこいつが生きている限り人類は滅亡しない。

 こいつによる被害など人類の総数からすれば所詮微々たるものである。

 例え一日一人壊したとしても、王国だけ見ても一日に何百人もの赤子が生まれてくるのだ。

 

 だからこそ私はコイツを勇者であると認めない。

 

 

 その時、扉を三回ノックする音が聞こえてくる。

 私は深く考え事をしてたのであろう。

 気が付くとコイツに殴られていた女性は既にこと切れていた。

 現実逃避も良いところだ。

 しかし、そうしなければ私の心が壊れてしまう事を、私は知っている。


「誰だ?」

「突然の訪問失礼します。情報伝達部の使者でありますデモルトでございます。勇者様であられますラインハルト・ルドリヒ様へ帝国第三王女レミリア様より文通が来ておりますのでお届けに参りました」

「つまらない言伝ならば殺そうかと思っていたが、そうかそうか。レミリアからの手紙か。どうせ、ようやくあいつも誰がこの世界で最強であるか理解できたといった内容であろう。さっさとその手紙を寄越せっ!!」

「そ、それでは失礼しますっ!!」


 使者のデモルトは手紙をコイツに渡し退席の旨を言うと即座に踵を返し目の前から消えるように立ち去っていく。 


「しかし、こうして便箋で思いを伝えるとは偶には良いものだな。普通ならばその場で自分の気持ちを伝えれば良いだけだからこんな回りくどい事の何が良いのだとは思ってはいたのだが、この回りくどいのが良いとは。さてさて、レミリアからの手紙はなんと書いているのやら」


 コイツの場合は気持ちを伝えるなどと言う意味ではなく強制連行の言い間違いであろう。

 見定められた者に拒否権などもあろう訳が無く、例え拒否しようものならその口が言い終える前にコイツの拳がその者の顔面を捉え、拒否できなくなるまで暴行を加えるのだ。

 気持ちを伝えるなどという言葉で表していい事ではない。


「えー、なになに………『お前は自分が最強であると勘違いしているようだがそれはお前の勘違いである。そしてその事に気付けないお前は弱者だ。決して強き者ではないし、お前が強者であると名乗るたびに本当の強き者たちを侮辱している事に気付けていないどうしようもない程頭の弱い存在である。そんなまだ肥料として利用価値のある生ゴミよりも存在価値が無い、むしろ存在その物が害でしかないお前に何故私が嫁ぐと思ったのか少しは考えれば良いものをそれをするだけの頭も無いときては救いようすらない。何が戦争であるか。くたばれ雑魚  追伸・この魔方陣は私からのプレゼントだ』だと………ふ、ふざけるな!!誰が雑魚で誰が強者かその身体に嫌と言う程思い知らさせてやるわっ!!」


 帝国第三王女様からの手紙の内容はまさにとんでもない物であり、先ほどの使者がすぐさま踵を返して立ちさって行った理由が分かった。

 もしまだ帰らず彼がこの部屋にいれば真っ先に殺されていたであろう。

 現にこいつは既に癇癪を起し聞くに堪えない奇声を上げながら部屋を破壊し始めている。

 もし私がスキル【存在感減少】を持っていなかったら今頃どうなっていたのか想像するだけで身震いしてしまう。

 しかし、レミリア様の手紙に書かれていた『頭の弱い』という部分はまさにその通りであり、この使者の反応から既に上層部はこの手紙の内容を確認しているのであろう。

 そしてコイツを怒らせる事により戦争に意欲を出させるという見え見えの作戦は見事成功したであろう。

 

 そしてコイツが暴れまわっているその時、レミリア様の手紙から魔方陣が浮かび上がると、次の瞬間、辺りは真っ白い光に染まり私の奴隷契約が解呪された事を頭が理解するよりも早く私はこの部屋から逃げ出していた。

 私が逃げた事とレミリア様の手紙に施された高段位であろう【解呪】の魔方陣が仕組まれた事にアイツが気付いた時の姿を想像いたら自然と笑いが込み上げてくる。


「馬鹿が………ふふっ」



 そう口にするともう可笑しさを我慢する事が出来ず私は声を出して笑いだす。

 これほど笑えたのはいつ振りであろうか。

 

 そして私は帝国へ向かうのであった。





 

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