第21話変態ロリコン野郎
あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!とにかく奴の身体には本来そこに有るべき物が無かったんだ。
な…、何を言っているのかわからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった………。
頭がどうにかなりそうだった………。
催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえもっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ………。
などと現実逃避をしたところで目の前の少し盛り上がっている丘に男性の象徴たるご神体は無く、なおその丘の上らへんにはクロムエルの髪の色と同じ色の草原が薄く広がっているだけである。
その光景に俺は気付かぬうちに大量の汗をかいていたらしく背中や顔は滝のような汗でびっしょりと濡らし出しているのだが、目の前の光景があんまりにも衝撃過ぎてその事を不快であると感じとるだけの余裕は無い。
とにかく今この光景が不特性多数に見られる事が今やってはいけない最悪のルートである事だけは瞬時に考えるよりも本能で理解した俺は、光よりも速いスピードでもって俺の血液を使いギャラリーから俺たちが見えないようにドーム状に赤い幕を張る事が出来たのは不幸中の幸いであると言えよう。
「………きゃぁっ!?」
「ご、ごめんっ!!」
そして二人の間に訪れる沈黙を最初に破ったのは徐々にこの状況を理解し始めた、先ほどまでのクロムエルからは想像すらつかないような生娘のようなかわいらしい悲鳴とともに勢いよくしゃがみ身体を隠そうとするクロムエルであった。
その悲鳴に俺は条件反射的に誤り、何をしてあげれば良いのか分からず軽くパニックになり頼りなくもクロムエルの近くでおたおたとするだけである。
「み、見た………よね?」
「見てません」
「嘘だ。見たよね」
「何を仰っておられるのか私には全く、ええこれっぽっちも理解できません。なのでお手数ではございますが具体的な内容を私に詳しくお教え頂けないでしょうか?」
「ぐ、ぐぬぬぬぅっ………!」
そしてクロムエルは先ほどの丘と草原を見たのかと顔を真っ赤にし睨みつけるように問うてくる為知らぬ存座ぬの態度を貫くとともに逆に俺が何を見たのかと聞き返せばただでさえ真っ赤になっている顔をさらに真っ赤にしながら涙目で睨み返して来る。
「はぁ、俺がやりすぎたのは謝るがそもそもの事の発端はお前が俺に喧嘩を売ってきたのが原因だろうに」
「う、うるさいうるさいっ!変態っ!痴漢っ!強姦魔っ!ロリコンっ!」
「分かったっ!分かったから少し待ってろっ!後俺はロリコンじゃねぇっ!」
まったく、自業自得であるにも関わらずこの紳士を捕まえて変態だのロリコンだの好き勝手言いやがって──と思うものの素っ裸にしてしまったのは誰かと聞かれれば俺であり、客観的に見れば経緯はどうあれ淑女を素っ裸にしたクズで変態であろう。
であれば一応その汚名を少しでも緩和させる為にも目の前の痴女に優しくする事は致し方の無い事である。
「ほら、スウェットだ。俺の使い古しで悪いが何も着ないよりかはましであろう」
そこまで考えると俺は自分のパジャマ用に使っているスウェットを取り出すと今だしゃがみ身体を隠しているクロムエルへと差し出す。
「まったく、対応が遅い使えない変態ロリコン野郎。早くそれを俺に貸せっ!痴漢野郎っ!!………きゃぁっ!?は、嵌めやがったなこの人でなしっ!!もうこんな汚された身体じゃお嫁にすらいけないっ!!」
するとクロムエルは一睨みした後罵詈雑言を言いながら奪い取るように俺のスウェットを取り着替えようと立ち上がった所で自分の今の姿を思い出したのか硬直し、顔を再び真っ赤にしながら先ほど同様にかわいらしく悲鳴を上げるとスウェットを抱えながらしゃがみ込む。
はっきり言ってこの視界を防ぐ為に俺の血の結界をする必要もなければわざわざスウェットを貸してやる義理も無いのである。
にも関わらずこの言われようたるや普通ならば怒っても良い場面であるが、紳士であり器は大きく心は広く優しい事で有名(俺調べ)と言われているこの俺である。
クロムエルの健康的かつスポーティーな裸を見れた事で帳消しとしておこう。
「お前の裸など見ても嬉しくないわ。御託は良いから俺が後ろ向いている内に着替えておけ」
「ぜ、絶対振り向くなよ?良いか?絶対だぞ?振り向いたら殺すからなっ!!」
これは……嫌よ嫌よもなんとやら、ダチョウの倶楽部の方程式と考えて宜しいのだろうか?
「二回も見られているんだ。今更見られた所で何も状況は変わらないし減るものも無いだろうに」
「とか言いながらもう一回見たいだけだろうっ!?騙されないからなっ!?」
「分かった、分かったから早く着替えろ」
なぜバレた……じゃなくて、棒立ちの裸を見るのと着替えシーンを見るのとでは全くの別物である……ではなくて、まあとにかく全然これっぽっちも気にはならないがクロムエルが見られたくないから後ろを向いて欲しいと言うのであれば本人の主張を受け入れてやるのが大人の紳士というものであろう。
俺は紳士なのだ。
「ところでこの──」
「いいから振り向くなっ!!」
くそっ……。
◆
「なあ」
「何だ?」
「お前はこの俺が気持ち悪くないのか?女性の癖に男装する事に対して嫌悪感を抱いたりはしないのか?………っ、いや何でもない。今俺が言った事は忘れてくれっ」
クロードから借りた不思議な素材でできたスウェットとかいう衣服に着替え終えた俺は無意識にクロードへこの俺が気持ち悪くないのかを聞いていた。
その事に気付いた時には既に遅く俺の意思に反して出た言葉はクロードに届いてしまっている。
すぐさまクロードへ先ほど言った言葉を忘れて欲しいと言ったのだが、あのクロードの表情は忘れるどころかむしろ自分の考えを纏める為に少し考えているのであろう。
どこまでも嫌な男である。
そして沈黙が訪れると後悔と緊張が俺を襲ってくる。
そもそも俺は幼いころより自分の性別に違和感を持っていた。
花よりも虫、人形よりも剣、お洒落よりも木登り。
初めて好きになった人は俺が両親に無理を言って覚えさせて頂くことになった剣術の男性である先生である。
しかし、その次に好きになった人は当時家族と良く外食時に利用していた店の女性であった。
そんな俺の様子を気付かない両親ではない。
愛情はあったとおもう。
むしろ愛情があったからこそこの俺の心境、ちぐはぐさ、矛盾、に気付いたのであろう。
始めこそ男らしい事をすれば怒られたりと俺を真面な女性、いや普通の人間として育つようにしていたのだが何年躾けても怒っても治らない俺に両親は次第に気味悪がり始め、声をかけなくなり、視線を合わせなくなり、そして今では俺が家にいる事すら許容できなくなったのであろう。さほど実家から離れていないにも関わらずこの学園へ寮住みとして半ば強制に入学されられた。
しかし、俺はその事で両親を恨んだりなどしない。
身体は女性、趣味や嗜好は男性、好意を寄せる者は男性と女性。
自分でも自分が女性なのか男性なのか分からないのである。
自分で自分が気持ち悪い。
だから、両親や家族、メイド達が俺を気持ち悪いと思うことは当たり前なのである。
今でこそ男性と偽って過ごしてきた為その様な視線を向けてくる者はいないのだが、本当の俺を知ればきっとみんな気持ち悪いと俺の周りからいなくなるに決まっている。
そしてそれはきっと近い未来訪れるであろう。
「うーん、そうだな。全然気持ち悪いとも思わないしむしろ男装の麗人ってだけで最高なんだが」
「そうだろう、自分自身気持ち悪いと思っているのだからな。どうせ俺なんか気持ちの悪い………は?」
何を言っているんだコイは此奴は。
この俺をからかっているのか?
はっきり言ってその様な心にも思っていない言葉が俺は虫唾が走るほど嫌いなのである。
その言葉に責任を負う必要が無いからこそ人の気も知らないで軽々しくその場しのぎの取って付けたような当たり障りのない適当な言葉をいえるのだから。
「心にもないことを言ってんじゃねーぞ………女性の身体をして男性のように振る舞い同性も異性も同様に愛してしまうこの俺の気持ちなんかわからねぇ癖にっ!!」
「じゃあなんでお前は俺にその事を聞いたんだ?てかそもそも知るわけねーだろお前の事なんざ。いや、お前の事だろうが別の誰かであろうが教えてもらえなければ、知る機会が無ければ分かるはずがないだろ」
「なっ!?」
クロードのあんまりな言葉に俺は思わず絶句してしまう。
なんて無責任な男なのだろうと怒りすら覚えてしまう。
その怒りが理不尽なものであるという事は重々理解はしているのだがだからこそ余計に腹が立つ。
目の前の男性は自分の性別で苦しんだり悩んだりなどしたことが無いくせに、と思わずにはいられない。
自分は家族も友達も身近な人も離れていった。
なのに全て持っている物がなんで持っていない人間に対して偉そうに語っているのか。
思えば思う程、考えれば考えるほど心の中のモヤモヤとしたものが激しく荒れ狂い、マイナスの感情が俺の中を支配していく。
「だってそうだろ? お前の感情なんか口に出さなければ、行動で示さなければ分かるはずないし分かるのはお前だけだろ。そこにお前だからだとか男性だからだとか女性だからだとかは関係ない。それに男性が好きだろうと女性が好きだろうとその両方が好きだろうとお前はお前じゃん。お前はここにいてこうやって触る事ができる一人の意思をもった人間には変わりない。男だ女だ考えるから悩むしややこしくなるんだよ。そんで、俺はお前の事を最高な存在であると感じた。それ以下でも以上でもないクロムエル、お前自身をだ」
「ならなんで両親は、家族はっ、周りのみんなは俺を気持ち悪がるんだよっ!?」
「会ったことも話した事もない、ましてやそんなこと考える奴の気持ちなんか分かるはずなし分かりたくもないが、少なくとも俺はお前のことを気持ち悪いなんて思わない。お前のことを気持ち悪く思わない人間が目の前にいる、今はそれで良いんじゃないか?」
クロードその言葉で気付かされた。
結局、目の前に俺の事を気持ち悪がらない人間がいたとしても俺は「こいつも心の中ではどう」などと思い信じようともしなかった事に。
人の心なんてそれこそ本人にしか分からないにも関わらず勝手に決めつけていたのは俺自身であると。
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