第11話元カノ
そして極め付けはクロードさんは何も無い空間から無数の金属の武器を創り出したのである。
『魔術で金属を生み出す』
それはこの世界で未だに誰一人として成し得ておらず、今なお魔術の最先端を追い求める魔術師達により研究されている事の一つである。
それだけでも凄いのにクロードさんはその全てを全く同じ形状に創り出すと、それらを目にも留まらぬ速さで撃ち出したのである。
更に驚くべきことは数種類の魔術を重ねがけしているであろう現象にも関わらず魔力の残滓を感じ取ることが出来ないのである。
これは言い返せば相手に気付かれずに魔術を発動出来る事はもちろんのこと、いつ攻撃してくるか分からないという利点もある。
あの御三方を手篭めにしただけの実力はあったという事である。
流石としか言いようがない。
その渦中のクロードさんは針の投擲者までゆっくりと歩き出す。
それだけでクラスの緊張感は高まる。
「あれ、俺が防がなかったら死んでたよな?」
「はひっ!」
「って、事はだ。お前殺されても文句は言えないよな?」
クロードさんの武器により身動きの取れないマルシェはクロード様に凄まれ、カタカタと歯を鳴らし震えながら涙と鼻水を垂れ流している。
目の前で自分の攻撃を後だしで自分とまったく同じ方法、数多の武器を使い攻撃したその武器全てを数多の武器にて撃ち落とされた上に反撃され、そもそもクロードさんが使用した武器にしても予め用意していおいた仕込み武器とは違い明らかに魔術により作られた武器であるからその力量の差が馬鹿でも分かる上に魔力の残滓は感じられない。
少しお調子者であり多少なりとも問題をたびたび起こすマルシェ・スカーレットはこの時初めて喧嘩を売ってはいけない相手に自分は喧嘩を売った事に気付いたのであろう。
歯を鳴らし震え鼻水と涙でぐしゃぐしゃになってしまうのは仕方のない事である。
しかしながら先程のゲーデルとクロードさんの一連の流れを見て、例え一矢報いる事が出来たとしてもその後あの化け物達にボコボコにされるであろう事は容易に想像できるであろうと私は誰にも気づかれないようにめ息を吐く。
「ご、ごめんなさい………ゆる、ゆ、許して下さいっ」
「分かった。ちゃんと謝ったのなら許すよ」
「あ、ああ………っ!」
そんな、まさに蛇に睨まれた蛙となってしまったマルシェは極度の緊張からまともに声すら出せないであろう状況下で何とか謝罪の一言を絞りだすと、クロードさん……いや、クロード様はまるで全ての女性を妊娠させてしまうのでは?と思ってしまいそうな頬笑みでエレナを許すとその頭を優しく撫でてあげているではないか。
うらやましい。
しかし当のマルシェは極度の緊張から解き放たれた緩みにより決して緩んではいけない個所の筋肉を緩んでしまったのか下半身から黄金の液体が滴り落ち、その液体は心なしか湯気が出ていた。
「………ごめん、やりすぎたみたいだ。怖かったよな。レミリア、シエル、ヒルデガルド、後は頼む」
「任せろっ!」
「分かりました」
「は、はいっ!」
それを見たクロード様は化け物達に黄金水の事後処理をするように伝えたあと、嫌がる素振りもせず黄金水に濡れたマルシェをお姫様抱っこし、次の瞬間には姿を消したではないか。
都市伝説、夢物語だと思っていた転移魔術まで使えるとなるともはや強いなんてレベルではない。
彼一人で国を滅ぼす事が出来るレベルである。
その国の王の寝室に転移するだけで良いのだからその魔術の恐ろしさが分かるだろう。
しかしながらクロード様は先程の魔術は恐らく本来であれば他人、それも複数人に対して見せるべきではないはずである転移魔術を使用した事によりマルシェの黄金水の事は男性陣及び教師達の記憶から抹消する事が出来たのである。
あの場面で転移魔術を使う理由等一つしかなく、その理由にあざとくも感づいた女性陣達により本日我が学園にクロード様を愛でる会、いわゆるクロード様のファンクラブが発足したのである。
ちなみにそのファンクラブの創始者はわたくしリリー・ネストであり、声をかけた翌日にはクラスの女性生徒全てがファンクラブに入っていた。
マルシェに至っては私が勧誘の言葉を言いきる前に私の襟首をつかみ揺さぶりながら食い気味で二つ返事を返してくれた。
それからはまたしても転移でクロード様とお姫様抱っこをされたマルシェが教室へ戻って来ると何事も無かったかのようにクロード様の自己紹介の続きが始まった。
クロード様は「特に得意な魔術や科目は無く、今のところ数学が唯一得意と言えるものですかね」などと仰っていたのだがクラスメート及び担任教師誰一人としてそれを信じる者は居なかった。
◆
編入してから一週間が経った。
自己紹介は少しイレギュラーがあったもの無難に自己紹介を終わらしていると自信を持って言える。
その事からも俺の予想では一週間もすれば俺は存在感のないまるで路傍の石状態になっているはずなのである。
なのに蓋を開けてみれば俺の周りにはレミリア、シエル、ヒルデガルドが常にすぐ側におり、またそれだけでなくクラスの女子四名が日毎代わる代わる側付きの様にいるのである。
はっきり言って目立つ上に登校時俺の所まで迎えに来てくれる為当初予定していたサボり又は中抜けが出来ないのである。
勿論血液を使った俺の能力を使えばその限りではないのだが他人を心配させてまでする事でもないと思っている為あの懐かしき学園生活という青春を無駄に謳歌している始末である。
想像とはだいぶ違う青春ではあるのだが、授業のダルさや独特の雰囲気は世界は変わっても同じなんだなと思えるほどには謳歌している。
ただ、あの時と違うといえばもう一つ、制服が異世界風である事とタバコが無い事ぐらいである……まあ禁煙してもうすぐ十年になる為あっても吸わないのだが俺にとってはあのキラキラした思い出はタバコも セットだった為ピースが一つ足りないような変な気分である。
しかし、一度俺がどこかへ行こうものならクラスの女生徒達が大名行列のように付いてくるのだけはどうにかして欲しい。
これではトイレもおちおち行けやしない。
「失礼します。クロード様にお客様がお越しになっておられます」
そんな事を思っているとこないだ俺が必要以上に怖がらせてしまったせいで可哀想な思いをさせてしまった女性、マルシェがまるで貴族のメイドのように優雅かつ洗練され美しい動作で俺の横まで来ると膝をつき俺に客が来ている事を告げるのだが、その一連の動作に若干引いてしまう。
「お、教えてくれてありがとう」
「担当の者がクロード様のお客様をお連れ致しますので今しばらくお待ち下さい」
そう言われて連れてこられた女性は俺の前まで来るとキッと睨みつけてくる。
「貴方がクロードですね」
「あ、はい。そうですが何か用でしょうか?」
「まずはご自身の名前を名乗って頂きたいのですが、所詮庶民であるクロードさんには難しい常識でしょうし今回はおとがめなしと致しましょう」
「はあ、それはどうもすいませんね」
現れるや否や高圧的な態度で罵倒してくるその態度に苛立つもそこは年上かつ大人である俺がぐっと堪え耐えると共に何とか謝罪の言葉を口にする。
その女性は輝き放っている自身の金髪を縦ロールに巻いておりもはやドリルと化している髪の毛の先を腕を組みながらその手先で器用にくるくると人差し指にて巻いている。
身長は俺より少し低いくらいであり胸は、まあ、残念としか言いようが無い程の絶壁。
しかしながら顔だけ見れば美人であるのだが釣り上ったエメラルドグリーンの瞳を宿したその眼が気の強さを表しているかの様である。
その立ち姿たるや古き良きツンデレお嬢様キャラのテンプレで全てが説明がつくと言えよう。
「なんですの、その気持ちが明らかにこもっていない返事と謝罪はっ!?」
「いやだって気持ち籠めてませんからね」
「なっ!? あなたっ!! このわたくしが生徒会執行部風紀委員会長であり侯爵家フレール家の長女でもあるマリア・ドゥ・フレールと知っての狼藉なのかしら?」
しかしこのようなヒステリック気味で少しでも自分の思い通りにいかない事や気に食わない事があると直ぐに癇癪を起こす我がままが服を着て歩いている様な女性は俺が一番嫌いな異性と言えよう。
いや、このような女性は基本的に言葉が通じず、会話も碌に出来ない為人間であるかすらも怪しいと思っている。
そう、それは俺の元カノの事でもある。
今思えばなんでこんな奴と五年間もつきあったのかと思える程思い出したくなく記憶から消し去りたい俺の黒歴史なのだがこの時俺は初めての彼女という事もあり有りもしな「いつか」に縋って彼女がまともになる事を待っていたのである。
当時の俺は健気で純粋な心を持っていたのだ。
しかし、彼女は変わるどころかさらに俺を見下しはじめ、彼女が不機嫌なのは全て俺のせいと毎日罵倒されたが、彼女の浮気現場を目撃することにより俺は目が覚める事ができた。
当時は浮気相手に怒りをぶつけ彼女共々制裁を加えたのだが今思うと俺の目を覚まさせた上に彼女の引き取り先となってくれた為今では感謝でしかない。
そして浮気がばれた当の彼女は「私が浮気するのも俺のせい」だと罵倒はするも結局別れるまでは謝罪は一切なかった。
しかしおかしなものでいざ別れるとなると「ただの遊びだったの」「愛しているのはあなただけ」「別れたくない」「寂しかった」などとあんなに見下していた俺へ縋りついてくるのだから理解が出来ない。
今でこそあの当時の事を客観的に整理できるため、全ての原因は童貞ゆえの思考回路が招いた結果であると言えよう。
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