第10話天才だな旦那様は
普通は王侯貴族とかいう高貴な存在の女性達は慎ましやかで楚々とした存在ではないのか?
ことレミリアは自分の欲求に対して全力な気がするんだが、所変わればというものなのだろうか。
まあ所というか星が変わっているんですけどね。
「むぅ、旦那様はもう少し欲望に忠実になっても良いのだぞ?この帝国一の秘宝と称される事もあるこの美貌とプロポーションを好きにしても良いと言っておるのにつれないお方だ。しかし、この焦らされているような感覚もまたそれはそれで良いものであるな」
「いや、手を出したらそれこそ俺の人生終わりになる猛毒入りじゃねぇかよ」
フラグを折られてなお攻めの姿勢を貫くレミリアにどこか清々しくさえ思えてくる。
しかし、こんな変態達であっても見知らぬ星の見知らぬ土地に身一つで放り出された俺からすれば少なからず心の拠り所になっているのであろう。
なんだかんだで逃げず構ってやっているしな。
今なお寂しさをあまり感じないのはこの変態で姦しい三人娘達のおかげなのは間違い無いので心の中で感謝の言葉を述べる。
◆
ここ帝都魔術学園は浮き足立っていた。
その理由は明白で本日からあのレミリア第三王女様の婚約者がこの魔術学園へ中途編入されるからである。
そのクラスは勿論一組であり学年はレミリア王女様と同じ二年である。
そもそもここ魔術学園のクラス別けは武術、学問、考古学の三クラスに別れており一組はこの三つの中でも武術にあたるクラスである。
そしてレミリア王女様と言えば人類史最強とも呼び声高く、自身の婿は自分よりも強い男性でなければならないと公言しているお方である。
その為一生結婚はできないのではないか?などと失礼ながらも世間は思っていたしその事に誰も疑問にすら思わなかったのだが、それがいきなり一カ月程前に婚約発表である。
そのお相手は冒険者であり中肉中背、この帝国では珍しい黒目黒髪の男性であるとの噂はこの学園にも 入ってきてはいるのだが、いかんせん所詮は噂止まりでありこの魔術学園の生徒達が浮き足立つのも仕方のない事であろう。
なんせ教師達ですらそわそわと落ち着きがないのだから。
そんな中でも特に落ち着きがない教室。
そこに教壇に立つ女性教師の呼び声と共に三名の人物が現れる。
一人は最早アイドル並みの人気を誇る生きる伝説。
この学園の誇り。
白銀の白雪ヒルデガルド・ランゲージその人である。
そのお姿は凛々しく二つ名に負けぬ美貌と精錬された強さが伺える。
もう一人はヒルデガルドと対をなすような美しさと妖艶さを誇りただならぬ雰囲気を醸し出していた。
その事からこの女性もまたヒルデガルドに匹敵する程の強さを誇っているのであろう。
その内なる強者のオーラがビシバシと伝わってくる。
その女性はシエル・ヨハンナという女性らしく最近まで現役のギルド職員であり黒いスーツの胸元には金色に光るバッジが付けられていた。
そのバッジの意味する事を知らない者はこの教室には居ない。
何故ならこのバッジを付けれる事が出来る者は個人の強さがAランク以上であり冒険者に関する知識を全て網羅している者にしか付ける事が許されないからである。
その事からも彼女があの賢者シエルである事が伺える。
ではこんな凄い二人を両脇に携え、更にあのレミリア王女様を手篭めにしたこの男性は一体何者なのか。
クラス中の期待値が凄まじい勢いで高まっていく。
「俺の名前は……そうだな、クロードと言います。現在は冒険者でランクは先日やっと仮が退いたばかりですのでFランクです。魔法の才能はありません。そこのレミリアとの婚約者だとお思いの方も多いのではないかとは思いますが、俺からお断りの返事を毎回しておりますので婚約者ではありません。それはヒルデガルドやシエルとの関係もお断りの返事をさせて頂いております。ですから今の俺はただの冒険者ランクFである小童ですしそれ以上も以下でもありません。なので皆様の授業の邪魔をするつもりも毛頭御座いませんので路傍の石とでもお思い頂きますようお願い致します」
そんな彼の自己紹介は実に呆気なく拍子抜けも良い所である。
よりにもよって冒険者ランクF、しかも先日やっと仮が外れたばかりだと言うではないか。
冒険者の仮登録なそ九歳の子供でも一ヶ月あれば外す事が出来る程度だというのにこの男性は見た目からして私達と同い年にも関わらずこの歳まで仮登録だったと言うではないか。
拍子抜けするなと言われても無理がある。
「ではクロードさんの自己紹介が終わりましたし、誰か質問とかありませんか?」
「質問なら大有りだぞっ!」
転入生であるクロードの自己紹介も終わり担任の先生であるワーキャット族のミイヤ先生が質問があるか問いかけるとレミリア王女様が待ってましたとばかりに勢い良く手を上げる。
「ではレミリアさん」
「うむ。では一つ先生に質問する。何故我が旦那様が生徒会長になっておらぬのだ? この学園は最も強き者を生徒会長とする伝統があるのだが、であればこそ何故我が旦那様が生徒会長になっておらぬのだ。私みたいに王族である為度々学園を抜ける事がある為生徒会長としての仕事に支障が出てしまうなどと言う理由は我が夫には無いはずだぞっ!」
「お、落ち着いて下さいっ! レミリアさんっ!」
ミイヤ先生を射殺さんばかりの視線で睨みつけるレミリア。
これは最早恫喝なんじゃないかと思ってしまう。
ミイヤ先生も若干震えているように見える。
「レミリア、その気持ちは嬉しいのだが生徒会長などというめんどくさそうな肩書き等要らないから」
「しかしだな、旦那様」
「いいからいいから。むしろそんな変な肩書きなんか付いた日にはろくに遊びにも行けなくなるわ」
「そ、そうだなっ! デートできなくなるくらいなら生徒会長などという肩書きなぞ不要の長物でしかないなっ!! 流石私の旦那様だなっ! 天才だな旦那様はっ!」
「そうですね。私も御主人様が生徒会長じゃ無いのには苦言を言いたかったのですが考えてみればそうですね。生徒会長とかいう肩書きでご主人様とのお散歩の時間が減ってしまうのは私も嫌ですもんっ!」
「ダーリンにはこんな一介の魔術学園の生徒会長なんかよりももっと高貴かつ唯一無二な肩書きの方が似合いますしね。それに生徒会長の仕事で疲れて夜の営みに支障が出ても困りますしね」
クロードさん自身が生徒会長を辞退するのだがそれに食い下がるレミリア王女に生徒会長となる際のデメリットを話、クロードさんの周りにいる女性達がその理由に満場一致の旨を伝えていく。
しかし彼女達がその旨を伝えて行く度にクロードさんの瞳から精気が無くなって行っているように見えるのは気のせいなのだろうか?
ミイヤ先生も生きた心地がしなかったのかホット胸をなでおろしているのだが、これで終わらないのがこの一組。
後ろの席で珍しく大人しくしていたゲーデル・フランベが怒りを隠す事もせずうるさい音を立てながら立ち上がる。
「お前らこれで良いのかよっ!? コイツは最近仮が外れた冒険者ランクFって言うじゃないかっ!! 黙って聞いてればこんなゴミみたいな奴がこのエリート集団でもある一組に編入してくる時点で腹立たしい上にまるでこの学園で一番強いかのような扱われようっ。ふざけるのも大概にしろっ! こんな奴は一組じゃなくて一・C組ですら相応しくないだろっ! むしろこの学園にとっての汚点でしかないっ!」
よほどクロードさんがちやほやされているのが気にくわないのかはしたなくも唾を飛ばしながら周りのクラスメート達に同意を求めるようにゲーデルは声高々に叫ぶ。
「我が旦那様への侮辱、貴様言い残すことはないか?」
「私の御主人様への侮辱、生きて帰れると思わない事ね」
「私のダーリンへの侮辱、あなた覚悟はできているんでしょうね?」
そしてつぎの瞬間には赤白青と綺麗に光り輝く三本の剣先がゲーデルの首元、その薄皮を少しだけ突き破りそこから赤い血液が垂れ出す。
左右上下、少しでも動こうものなら文字通り首が飛びかねない。
そして当のゲーデルは今にも泣きわめきそうな表情をしているが少しでも声を発っそうものならば自分の首と身体がサヨナラしそうな為グッと堪えている。
「止めろ」
そんな時、本当の恐怖というものはこういうものであるという一つの指標であるかの如く低く冷たい声が響く。
これでも少なからず死線を潜って来たと自負しているのだが、まだ生きて帰れている時点で生温い状況である。
本当の恐怖とはそこに打開策も何もない絶望も加わってこそだと思い知らされたかのようである。
その声の主はクロードさんであり、そして当然その言葉を向けられた先は当然レミリア王女、ヒルデガルドさん、シエルさんの三名である。
この三名に対して殺気を飛ばせる時点でクロードさんは規格外存在のさらに上にいるお方であると私は瞬時に理解した。いや理解させられた。
そして命令されたレミリア王女様達は納得していないが渋々といった感じでゲーデルの首から各々の愛剣を離す。
その瞬間、ゲーデルは糸が切れた人形のように膝から崩れ落ち放心状態のまま感情のない表情で涙を零していた。
自分の命等虫ケラも同然であると言われたも当然のような扱いを受けたのである。
この学園、特に一組の中でもエリートだけが入れるこのクラスの一員でありその中でも実力派であるゲーデルである。
放心状態になっても仕方の無い事であろうと私は思う。
しかしである。
いくらクロードさんが最近仮が外れた冒険者ランクFであるからと言ってレミリア王女を婚約関係になっているだけでも異常であるにも関わらずシエルさんを彼女にして極め付けにあのヒルデガルドさんをペット扱いである。
冒険者ランクFの字面通りの実力の筈がない事ぐらい少ない脳があれば理解できようものである。
前々からゲーデルはクルミ並みの脳みそしか入っていないのでは?とは思っていたのだがどうやら脳みそ自体入っていなかったようである。
おそらくクルミ並みの筋肉が入っているのであろう。
そしてクラスに一瞬の緩和が訪れる。
いわゆる緊張感の支配が終わったら必ず訪れる緩まった空気感である。
その瞬間、無数の針がクロードさんに向けて放たれる。
どうやら脳みそが入っていない者はゲーデルだけではなかったようである。
だがしかしタイミングは完璧。
レミリア王女様達ですら反応に遅れてしまい──いやそもそもあれはクロードさんを完璧に信頼しているが故の無視である。
何処と無くレミリア王女様達の目は押しているアイドルのカッコいい所を見たい街娘のような瞳でクロードさんを見つめているのは気のせいだろうか?
いや、気のせいではなかった。
クロードさん放たれた無数の針を無数の小さなナイフのような物を瞬時に作り出し全ての針と同じ軌道で放ち撃ち放つと針の出元であるマルシェへ撃ち返し、マルシェは座っている椅子へ縫い付けられる。
しかしマルシェには傷は無くナイフのような武器は全てマルシェの服に刺さっているその正確さもさる事ながら、あの一秒にも満たない僅かな時間でクロードさんはマルシェが放った針と同じ軌道で武器を放ち撃ち返すだけでは無くマルシェよりもより多く武器を作り出し反撃までしてみせたのである。
まさに化け物という言葉がふさわしい。
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