第8話それが常識
そしてヒルデガルドはクロードが付けてあげた首輪についている金色に光る板を自慢げに見せてくる。
「クロード様のペットとなるべくテイムされている証である従板もついでに頂いてきましたのでご主人様に付けて頂きましたこの首輪に付けましたっ! 大枚はたいてちゃんとしたものを作ってきましたので、この板にはしっかりとご主人様の名前と私の名前が記されているんですよっ!」
「い、今すぐそれを外しなさいっ!!」
そしてヒルデガルドはとんでもない事をのたまう。
これではヒルデガルドが街を出歩くたびに俺の悪評(性癖)が広まっていくという事ではないか。
もちろんそのような趣味は無い為事実無根であるのだが、ヒルデガルドに付けられた首輪、そしてその首輪に付けられた金色に光り無駄に目立っている従板が言い逃れが出来ないくらい事実であると大声で語っているようなものである。
「外す訳がないじゃないですか。私は今はクロード様もといご主人様のペットなのですから」
そこでヒルデガルドはポッと頬を赤く染める。
至ってノーマルな性癖であると思っている俺にはヒルデガルドがなぜそこで頬を赤く染めるのか理解できないのだが、この自称俺のペットはどうやらご主人様の言う事を聞かない聞き分けの悪いペットである事は理解できた。
「そんな格好で人様の前に出ればご主人様の俺が恥をかくからやめなさいと言っているのだっこの駄犬っ!」
「やっと私のご主人様だと認めたみたいですが、こればっかりは例えご主人様の命令であろうと譲れないですよ。それに私はすでにご主人様の物なのですからそれを証明しないと変な虫とかが寄ってきますので良い虫避けになるじゃないですか。まあ、私がご主人様のペットである事を自慢もとい見せびらかしたいだけでもあるのですが」
「なるほど。ならば言う事を聞かないペットには躾が必要だな」
「そんなっ、躾だなんて………」
なんでこいつはキラキラした、まるでご褒美をもらいえる犬のような表情で俺を見つめてくるんですかね。
尻尾があれば間違いなく左右に激しく振っているであろう光景が目に浮かぶほどのヒルデガルドに若干引いてしまう。
「逆にどうすればその従板を外してくれるのか教えて頂きたい」
「そうですね………私を奴隷にしてくれたら良いですよ?嘘はついたらいけませんと子供の頃に教わりませんでしたか?クロード様」
どうやら藪から大蛇が出てきたみたいである。
「わ、わかった。もうペットで良いよ」
「むぅ、すこし残念ではありますが言質は取れましたし良いという事に致しましょうっ!」
◆
奴隷になれなくて少し残念そうにするヒルデガルドなのだが、クロードの見えない所で拳をグッと握り喜びを密かに表している事をクロードは知らない。
そもそもヒルデガルドはクロードが自分を助ける時に言った奴隷云々が口約束である事を理解していた。
だからこそ再会した初日でクロードへ奴隷にしてもらうようにお願いをしたのだが糠に釘もとい暖簾に腕押しといった感じで、クロード様の奴隷になれると思っていた私からすれば実に残念で仕方がない結果といえよう。
しかしながらだからこそ策を練り外堀から埋めて行くのは常套手段ではなかろうか。
と、言うわけで最初の段階は私をクロード様のペットとして頂く事から始めようと考えついた。
ペットから始まり慣れた頃に奴隷へと格上げして行く。
我ながら完璧な作戦であると思う。
まずペットとして頂く為に奴隷とペットの二択しかないと騙、おっと………もとい思わせればクロード様ならペットを選んで私の飼い主と必ずしやなってくれるでしょう。
そしてその考えは正しく、今私はクロード様のペットとなった。
飼い主………良い響きです。
こう、女性の部分がきゅんきゅんすると言いますか、これだけで絶頂に達してしまいそうです。
いや、今軽くイキました。
それよりもこれからクロード様の事を御主人様とお呼びした方が良いのではないかしら。
取り敢えず、今現在クロード様のキャパシティは私をペットに選んでしまっている時点でいっぱいいっぱいであると思われる。
で、あるならば判断能力が落ちている今のうちにやってほしいプレイ………んんっ!やってほしい事をそれとなく当たり障り無いように言えばやってくれるのではないか?
その可能性がゼロで無いのならば実行あるのみである。
「ご、御主人様。ではこれから支度してギルへ行きましょう」
「お、おう。そうだな。てか別に御主人様と呼ばなくても良いからな」
「いえ、御主人様は御主人様なので御主人様でいきます。それよりも、外を出歩く際はちゃんと私にリードを着けて御主人様が握って下さいね?」
「………え? リード? まじ?」
「ペットを散歩すり時はリード着けますよね?」
「確かにリードは着けるがこれはこれそれはそれなんじゃ………いやでも異世界だしなここ。前世でも奴隷などには鎖とかしてたみたいだし……」
「ほらっ! 早く行かないとギルドが混んで来ますよっ!」
なんだか今なお釈然としておらずぶつくさと呟いていますがバレてしまう前にさっさとリードを着けて散歩へ行くように促す。
こういう時は相手に考えさせる時間を与えないのというのが詐欺……騙す………いや、なんでもないですし何も思ってないです。
気のせいです。
ええ、気のせいです。
そしてこの勢いのまま首輪に繋げた赤いリードを御主人様に持たせて、道中他人からの視線がなんだか癖になってしまいそうな感覚を味わいながらギルドへと向かう。
「はぁ……はぁ……」
「大丈夫か?」
「大丈夫ですけど、大丈夫じゃないです」
今現在新しい扉を開けてしまったばかりで次から次へと襲って来る興奮を抑える事で精一杯という事で考えるとそろそろ我慢の限界が来そうという点では大丈夫ではないだろう。
「そ、そうか」
「むしろ御主人様が私の事を心配してくれるという事だけで色々とやばいですぅ……うぇへへ」
「そ、そうか……まぁ程々にな」
「はいっ!」
もしここに御主人様や他人様がいなければ嬉しさのあまり地面を気がすむまでゴロゴロと転がっていただろう。
しかしそこはご主人様の顔に泥を塗る訳には行かない為グッと堪える。
そのかわりと言ってはなんだが御主人様の腕に抱きつき幸せをより幸せな行動で上書きする。
こうすればゴロゴロしてしまうと御主人様の腕を離さなければならない為ゴロゴロしたいという欲求は薄れて行く。
幸せをより上位の幸せでコントロールするこの方法を考えた人は天才なんじゃないかと思う。
ま、考えたのは私なんですけどね。
◆
「何やってるんですかダーリンっ!?」
「いや、その前にダーリンって何だよ」
「ダーリンは私のダーリンですっ!! そんな事より、何故この雌犬の首に首輪が着けられてしかもその首輪に付いたリードをさも当然かのようにダーリンが握って居るんですかって聞いているんですっ!!」
「は? ココではそれが常識なんじゃないのか?」
「そんな常識はありませんっ!! ………羨ましい」
ギルドへ入るなりシエルが俺に向かって叫んで来る。
最後ボソリと何か言っていたような気がするのだがきっと聞き間違いであろう。
ダーリンという呼び方は後で辞めさせるとして、どうやらシエル曰くわざわざリードを付けそれを持つ必要はないのだという。
そもそも人間をテイム登録する事自体が前代未聞でありテイム登録するくらいならば奴隷登録した方が速いのだと言うではないか。
だからギルドまでの道中刺さるような視線をずっと感じていたのか。
「だ、そうだが何か言う事はあるか? 一応言い訳くらいは聞いてやろう。ヒルデガルド」
「いやー………ほらっ…ぺ、ペットですから……私今。ペットを散歩させるにはリードを付けて散歩しますよね? ………ダメ?」
「上目遣いがあざとすぎて可愛くないんですよっ!! と言いますか私のダーリンなんですよっ! 駄目に決まってんでしょっ!!」
「年増のオバさんには聞いていないですっ!! わ・た・し・の・ご主人様に聞いているんですっ!!」
そう言いながらヒルデガルドは首輪に付いているペットの証であるクロードと名前が打たれてある金色の証明板をドヤ顔と共に見せ付ける。
その時ギルド内が若干騒がしくなるのだがそんな事お構い無しに「ほらほーら。私はクロード様の所有物ですー」と金色の証明板を使って煽り始める。
「オバっ………ま、まぁヒルデガルドさんがそうやって余裕な態度でいられるのも今だけですから? せいぜい短い幸せを噛み締めて下さいね?」
しかし、ヒルデガルドの煽りもシエルは青筋を浮かべながらも何とか耐えて口撃を撃ち返す。
そこら辺はやはり年齢だけではなく精神も歳上なのであろう事が伺える。
やはりというかなんというか落ち着きがある、かつまともなシエルのような女性にときめいてしまいそうになる。
誰がとは言わないがそれもこれも全て約二名のせいなのであるが。
しかし、そこで惚れてしまっては後々痛い思いをする事になる事は分かりきっているので童貞よろしくそうそう簡単に惚れてしまう訳には行かないのである。
「クロード様は御主人様なのでペットである私はこのように抱きついても咎められないんですよー。何故なら私は御主人様のペットなんですからっ!!」
「そんな訳ないでしょうこの駄犬っ!! ダーリンが嫌がっていますから離れなさいっ! 早く離れなさいよっ!!」
そして自分の担当している冒険者がヒルデガルドにより迷惑行為をされて我慢ならなくなったのか、ただ単にギルド職員としてなのか、又はその両方の理由なのかシエルが受け付けカウンターを乗り越えて俺からヒルデガルドを剥がしにかかる。
しかしそこはこんな駄犬であろうとも実力は冒険者ランクS S Sである。
いちギルド職員であるシエルごときの腕力では俺からヒルデガルドを剥がす事が出来ず二人でわちゃわちゃとしだす。
しだすのは良いのだがその拍子にシエルの胸ポケットからハンカチに包まれた物が落ちた拍子にほどけて見えたとある物に俺は視線を外す事が出来なくなる。
そして動悸、息切れ、吐き気、冷や汗が俺を襲い出す。
「御主人様ではない赤の他人の命令なんか聞きませんー。聞く耳もありませんーっ」
「赤の他人ではありませんっ! 私はクロード様の彼女ですっ!! かっのっじょっ!!」
「な、なあシエル………?」
「なんでしょうっ!?ダーリンっ!!」
今もなおヒルデガルドとわちゃわちゃとしているシエルに俺は迷いに迷った末に一世一代の勇気を振り絞って声をかける。
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