第5話ソナタは美しい
「飲んでおけ。ポーションだ」
「あ………あ…とう……ます」
とりあえず全身傷だらけであり満身創痍といった感じである女性にポーションを一瓶渡しておく。
このスケルトンキングを倒している間に死なれてはたまったもんじゃない。
「なんだ?今度はお主が儂の遊び相手になってくれるのか?」
「そうだな。存分に遊んでやるよ」
まず相手が無数のスケルトンを召喚し始めたのでそれを一瞬にして破壊する。
使った技は血で出来たメスを雨の様に降り注ぐ技である。
「逃げれるかな?死の雨から」
決まった。
レミリアの時もそうだがアニメキャラクターの技が決まった時はゾクゾクしてしまう。
そして赤い雨はスケルトンキングの骨を砕き、遂には粉々にさせる。
しかし、粉々になった骨が集まりだし、再び傷一つない姿のスケルトンキングが現れる。
「お主もそこそこやるようだが、不死の儂には何をやっても無駄じゃよ」
成る程、だから不死のダンジョンなんて呼ばれてるのか。
そしてその姿を見て俺は笑みが溢れてしまう。
「何がおかしい?弱き者よ。儂が不死身と知って気でも触れたか?」
「いえいえ、いい実験材料がやってきたと思ってな」
「じ、実験材料じゃと?ぬかせっ!!その言葉後悔させてやるわっ!!」
俺の言葉がスケルトンキングのプライドを傷つけたのか凄まじい勢いと手数で先端が鋭い骨を無数に刺突してくる。
そしてそれを俺は紙一重で全て避ける。
避ける。
避ける。
当然女性に刺さりそうな骨は全てメスで砕き落とす。
そして最後にスケルトンキングへメスの嵐を作り粉々にする。
「ば、化け物め……。じゃが儂が不死身である限り──」
「あまり不死身不死身言うもんじゃねえぞ。不死身という言葉が安く見えるだろ」
その瞬間スケルトンキングは初めて死を意識する。
普通であればどんなに強くとも不死身であると知ったらその表情から余裕がなくなる。
しかし目の前の男性からは出会った時と変わらずスケルトンキングをまるで羽虫を見る様な目で見つめてくるのである。
「そ、そうだっ!交渉しよう!儂の集めた宝から好きな物を其方にやろうではないかっ!い、いや全部上げようっ!!そ、それ以上こっちに来るなっ!そんな目で儂を見るんじゃない!!」
「どうせお前を倒せば全て俺の物だ。楽しませてくれたお礼として特別にお前はこの剣でとどめを刺しやるよ」
「や、やめろぉぉおおっ!!」
俺の一撃を喰らったスケルトンキングは断末魔を叫びながら光の粒子となり最後は消えていった。
もちろん復活する気配もない。
当然である。
霊体であろうと不死であろうと全能であろうと敗れざる者であろうと神であろうと、今の俺は殺す事が出来る。
ただの不死如き殺せない筈がない。
「なんだ、飲んでなかったのか?」
「………」
「……生きろ。ソナタは美しい」
未だに渡したポーションを飲んでいない女性にかの名台詞を呟くと俺はこの場から姿を消す。
そして俺はダンジョンの外につけていた血液を利用して一瞬にして移動する。
現時刻は夜らしくあたりを照らす光は月明かりと星空のみであり、不意に吹き抜ける夜風が先程の戦闘によって高揚している今の俺には丁度良くて気持ちが良い。
しかしである。
先程の戦いの流れであるが自画自賛ながら最高にカッコいいと、思い返してはにやけてしまう。
特に去り際、女性へ一言かけてからの姿を消す流れである。
俺ながらカッコ良すぎて半端ねえからのしのびねえまであると俺は思う。
そして俺は現在借りている宿屋へと足取り軽く向かうのであった。
◆
白銀の白雪などと二つ名、S S Sという冒険者ランクという肩書き、幾重もの死線をくぐった経験、そしてそれらがもたらすプライド。
その全てがあったところで大切な人は救えないという無力感。
食べなければ死ぬというのに大量の金貨はあっても食べ物が無ければただの鉄屑であると、目の前のスケルトンキングが嘲笑っているように思えてくる。
あれから何時間戦っただろう。
数時間の様な気もするし、数日の様な気もする。
いくら倒そうともスケルトンキングは蘇って来る。
不死者と言えども回数には限りがあると思っていた。
十回で倒せないなら百回、百回がダメなら千回倒せば良いなどと当時は思っていたし、実際できるだけの実力はあった。
しかし、目の前のスケルトンキングは今もなお私の目の前に立っている。
私の身体は傷だらけ、意識は朦朧とし立っているだけでもやっとであるのに対してスケルトンキングの身体は傷一つ無い。
そして私は遂にスケルトンキングの一撃を喰らい吹き飛ばされ、タンジョンの壁へ打ち付けられてしまう。
ああ、結局助ける事は出来なかった。
悔しさで涙が溢れ出す。
その時、私の横に一人の男性が立っている事に気付き、逃げろと心で叫ぶ。
「助けて、ください」
しかし、私の口から出た言葉は助けを乞うものであった。
彼の装備は何も無い、少し変わった上下黒い衣服のみである。
そんな装備では、いやどんな装備であろうと目の前のスケルトンキングには勝てない。
にもかかわらず私はまだ生にしがみ付こうとしている。
S S Sランクに似合わない無様な死に方だなと、思う。
「俺の奴隷となるならば助けよう」
私を奴隷にしようなどという者は彼が初めてでは無い。
言われた相手には貴族であろうとも潰して来た。
しかし、生きながらえられるのであれば奴隷でも良いやと思った。
だから返事をする。
そこからの彼とスケルトンキングの戦いに思わず見惚れてしまった。
それはまるで幼い頃に親に聞かされた英雄譚の様である。
その戦いを見て私は不思議と彼ならスケルトンキングを倒せると思った。
確信は無い。
しかし、英雄譚の英雄とはそういうものであると相場は決まっているのだ。
私は気が付いたらまるで魔王に攫われた乙女の様に手を前で組みスケルトンキングと戦う彼を見つめていた。
女を捨てて早十数年。
婚期も逃した二十三歳にもなる女性が、十三のうら若き乙女でもあるまいに……とは思うものの高鳴る鼓動は抑えられず今もなお潤んだ瞳で彼を目で追ってしまう。
そして彼は当然の様に、何の苦もなくスケルトンキングを倒すと私の方へと石畳を革靴で鳴らしながら近付いて来る。
彼が近付く度に私の心臓の高鳴りは激しさを増して行く。
「なんだ?飲まなかったのか?」
「………」
まさか私を気遣って声をかけて頂けるなどと思ってもおらず、激しい緊張により喉が張り付き声が出せなかった。
しかし、例えここで私が声を出せた所で二十歳を超えた女性など相手にもされないであろう。
何とか顔面に傷は無いのだが、しかしながら傷だらけの身体に厚く硬い皮の手、鍛錬による筋肉質な身体に似合わぬ牛の様な大きく醜い胸。
自分から見ても私に魅力などない事は理解出来ている。
しかし、今まで色恋などとは無縁の生活をしてきたせいかこの感情を抑える術を、私は知らない。
「……生きろ。ソナタは美しい」
意気消沈しているそんな私を見て彼は私がこのまま死ぬのでは無いかと思ったのか生きるよう叱咤する。
ぶっきら棒ながらも彼の優しさが私の胸を締め付けて来る。
しかし重要なのはそこではなくその後に続いた言葉である。
彼は今「ソナタは美しい」と、確かにそう言ったのである。
数秒後男性は消え去り、それと共にボンという音とともに顔を真っ赤にした女性が「ご主人様、私ご主人様の奴隷になるのぉぉおおっ!!」と叫びながらゴロゴロとボス部屋を悶え転がる女性の姿があった。
◆
シエルは今日も朝からギルドの受付嬢として仕事をこなしているのだが心ここにあらずといった感じである。
その理由は何をかくそう、いや最早隠すのではなく言いふらしたい人物である最近出来たばかりの彼氏の事である。
その彼氏が不死のダンジョンへ向かって早三日。
彼程の実力ならば問題は無いとは思うものの言っても冒険者ランクは仮ランクなのである。
日帰りで返って来ると思っていた分心配せずにはいられない。
ま、まさかっ!十階層以上に行ったんじゃ……。
いやいやでも彼に限って……でも何が起こるか分からないし……。
こんな感じで昨日から全く仕事に手が付かないでいる。
「失礼しますっ!!」
そんな私の気持ちも知らないで荒らしくギルドの扉を開けると大声で叫ぶ品性のかけらもない女性が入って来る。
そしてそんな時に限ってその女性は私のテーブルへ来るのだから思わず深い溜息を吐いてしまう。
「失礼しますっ!!」
「……はい、何でしょうか」
さっき聞いたわという言葉を寸前の所で飲み込むとその先を促す。
「私のご主人を見なかったですかっ!?」
煤け、傷だらけの甲冑。その兜を目深く被っている女性がまるで迷子になった子供の様に切羽詰まった声音で聞いて来る。
「はぁ……ご主人様ですか。迷子奴隷ですね。分かりました。あなたのお名前をお教え下さい」
「ヒルデガルドですっ!!」
「はいはい。ヒルデガルドさんですねー………え?今何と……」
「ですからヒルデガルドです!!ヒルデガルド・ランゲージです!!」
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