第3話こじらせた喪女

 そしてその間、俺は複数のメイド達により正装へと着替えさせられる。

 一瞬自分で着られるとメイド達を制止しようと思ったのだが色々無駄に付け方の分からない装飾品やどのように着るのか分からない布切れなどが目に入った為俺はそのまま着替えさせるようにした。


 半刻程でやっと着替え終えたその服装は白を基調としており馬子にも衣装という言葉がしっくり着そうな、まるで白馬の王子様がここぞという時に着飾る様な衣装であった。


 そしてそうこうしている間に時間が来たみたいなので俺はそのままメイドに促されるまま歩き出すとひときわ大きく豪奢な門の前まで案内された。


「私共の案内はここまででございます。ここからはこの扉を開けまして奥にある祭壇まで歩いて頂きますようお願いします」

「分かった。ここまでありがとう」


 この門を開ければ恐らく引き返す事は出来ないであろう。

 それでも緊張せずにいられるのは最悪逃げればいいだけの話であり今の自分にはそれを容易くやってのけれるだけの力を持っているからである。


 そして俺は臆する事なく扉を開ける。

 そこには恐らく貴族であろう大勢の者達が広い部屋にひしめき、モーゼの様に左右に分かれていた。

 その中心に出来た道を俺はどこかで似たような景色を見た事あるななどと思いながら堂々と歩き出す。


「良く来てくれたなクロード様。来ないのではないかと私は日々寝れぬ日々を過ごしおったのだぞ?来るなら来るで便箋の一枚でもよこせばこの様な心配などしなかったものを」


 そしてその先には純白のドレスを着たレミリアが俺を待っており、祭壇には神父らしき者が居た。

 その光景に俺はどこで見た光景か思い出す。

 それは従兄弟の結婚式である。


「でも、これで私はお前の物になるのだな……ここ最近は私に挑戦してくる者もめっきり減ってきてな、いくら自慢の美貌とプロポーションを持つ私でも少し不安になって来ていたところだったんだ。そんな中お前が颯爽と私の前に現れてくれた時は裸を見られた羞恥心よりも誰にも気付かれずに風呂場まで来たお前の実力に凄くドキドキしたんだ。この人なら私よりも強いのかもしれないと。結果私はクロード様に手も足も出ず赤子を相手にするかの如く圧倒し倒してくれた」

「………」

「そうか、お前も私みたいな女性と結婚できて幸せなのか。私は果報者だな。こんなイケメンな上に私より圧倒的に強い男性に愛されるなど幸せでないはずがないではないか。本当なら今すぐにでも押し倒して赤子を作りたいほどなんだぞ」

「………」

「しかしだな、やはり子供を作るにあたって早いに越した事は無いだろう。しかしながら私は第三王女であるから、もちろん男児を産むにこした事はないのだがそれに囚われる事も無いだろう。既に兄上が長男を設けておられるからな。女の子ばかりであってもクロード様が何か言われる事も無いし私も女の子ばかりであっても全員平等に愛する事が出来る。ああ、仮にもしクロード様の陰口を言う様な奴が居たとしたら私が始末してやるから安心してくれ」

「………」

「でもそうだな、男の子だろうと女の子だろうと構わないのだが子供は最低でも三人は欲しいと思っているからそこだけは覚悟してくれ。そして毎日誰かを叱って褒めて慰めながらも賑やかで楽しい日々を過ごそう」

「………」

「そうだな、ペットを飼うのも良いな。私は買うなら大きな白い犬好きが良いな。そしてたまに子供達をメイドに預けて二人でデートをお忍びで行ったりするのも良いと思わないかい?しかし恥ずかしながら私は今まで異性とその様な事をした事がなくてな、だからデートだとかそういうのには疎い所が有ると思うんだ。だからその時はしっかりリードして欲しい」

「………」


 コイツ、喪女を拗らせてやがる。


 そう感じ取るまでにそう時間はかからなかった。

 そもそも結婚はするつもりは無い上に相手が王族であるならば尚更なのだが、だがこれで兎に角このまま結婚する事がいかにヤバイ事であるかが分かったとも言えよう。

 しかしながらこのままここを逃げたとしても顔と拠点にしているギルドが割れている以上、ギルドに戻ってしまうと迷惑をかけてしまう事が容易に想像出来てしまう。

 友達まではまだ行かないまでもせっかく出来始めた人間関係を簡単に手放したく無い為穏便に断る方法が無いものかと思案しているその時、部屋の扉が勢い良く開く。

 そこには白銀の鎧を身に纏った一人のイケメン男性が立っており周囲の視線がその男性へと集まる中、件の男性はそれを意に介さず憎悪の視線を俺に向けながらこちらへ荒い足取りで向かって来る。


「レミリア様っ、目を覚まして下さいっ!!この男性はレミリア様には相応しくありませんっ!!」


 そしてイケメン男性が開口一番俺はレミアに相応しく無いと叫ぶ。

 そんな彼にもっと言ってやれとエールを心の中で送る。


「話を聞けばコイツはレミリア様の入浴中に襲って来たと言うではないですかっ!!そんな姑息かつ卑怯者に万全の状態であるレミリア様が負けるわけがありませんし、負けるからこそ入浴中に襲ったのでしょうっ!!」


 そう言うとイケメンは自らの手にはめている白い手袋を外し、憤怒の形相を無理矢理抑えているかの表情で俺へ向けて投げ飛ばした。


「クロードとやら…この俺グランブル家が長男、光剣の貴公子ディーゼル・フランボワーズ・グランブルが決闘を申し込む」


 どうやら手袋を投げ飛ばす作法は投げ飛ばした相手へ決闘を申し込む様式美であったらしくディーゼル・フランボワーズ・グランブルと名乗った青年が俺へ手袋を投げ飛ばした流れで決闘を申し込んでくる。

 その顔は「逃げるんじゃないぞ」と語っていた。


 はっきり言って逃げるつもりは毛頭ないのだがこのディーゼルの気持ちも痛い程分かってしまう。

 もし目の前のディーゼルが幼少期よりレミリアに好意を寄せていた場合女性であるレミリアより強くあろうとするのは良くある話であろう。

 その相手が「自分よりも強い相手としか結婚しないし、もし現れたのならば結婚する」など発言しているのであれば尚更だろう。


 レミリアがこの様な条件で結婚相手を探していると言う事とディーゼルが幼少期よりレミリアに好意を寄せており月に一回は決闘を申し込んんでは負けている事は有名らしく一日ほど城下町を散策すればその情報を手に入れる事が出来る程である。


 それ程までに好意を寄せている異性がある日いきなり得体も知れないポッと出の男性と結婚するなど到底受け入れ難いものであろう事は容易に想像出来る。

 できてしまう。

 しかしながらこの状況が理不尽過ぎて腹が立つのもまた仕方ないだろう。


 な・ん・で・レミリアが「私の為に争わないでくれ」的な表情でこっちを見ているのかレミリアを正座させて小一時間問い詰めたくなる程には。


「お前達辞めるのだっ!!私の為に争わないでくれって!!」


 しかもホントに言いやがる。


 まだディーゼルは分からないでもない。

 しかし、レミリアの『俺の気持ちを全く考慮していない』行動と言動にはそろそろキレそうでもある。

 しかし感情のままキレるのは子供だと何とか自分を落ち着かせると俺はディーゼルに向けて口を開く。


「分かった。決闘をしよう」

「クロードとやら、感謝しよう。決闘は今この場で良いか?」

「ああ構わない。始めよう」

「ありがとう。それで君の武器は何処にあるんだい?今からメイドに持ってきて貰うから教えてはくれないか?」

「その必要は無い。武器は既に装備している」


 そして俺は自分の手にはめている手袋を外すとディーゼルに向けて投げ飛ばした。

 その手袋はディーゼルと俺との丁度中間地点に、周りの緊張感や重苦しい空気など関係ないという風にふわりと床へと落ちていった。

 手袋が床に落ちた時が決闘開始の合図であるかの様にディーゼルは抜刀した剣を手に一気に俺へと駆けて行く。

 そのスピードは凄まじく、また金色の光を纏い駆ける様はまさに剣と魔法の世界、その主人公そのものと言っても過言ではない。

 それを一つ一つ丁寧にかつ紙一重で避けて行く。

 そして俺が避ける度にディーゼルの表情が険しいものへと変わって行く事が伺える。


 それは言い換えれば俺がディーゼルの剣筋を避ける度に空いた手で反撃出来ていたという事であり、遊ばれている事は誰の目にも見ても明らかであろう。


 しかしながら避けるだけでは芸が無い上にこんな状況などそうそうないであろう。

 だから俺は自身の掌、そこに刻まれた傷跡から真紅の刀を出すとディーゼルに向き合う。

 その構えは素人同然に見えただろう。


「やっと剣を出したか……」


 しかしディーゼルは素人然とした姿を見ても蔑む事も無くむしろ逆に警戒心と集中力を上げていく。


「少し、試したい事があってな」

「試したい事……だと?」


 そう、ディーゼルには悪いがこの決闘は俺の実験に使わしてもらう。

 俺は出した剣を鞘へ戻す様な動作にて左側へ納刀し、抜刀するかの様な体制を取る。


「来い」

「言われなくともっ!!」


 俺のその言葉と同時にディーゼルが一気に駆けてくる。

 それは始めに見せた動きよりも幾分早く感じ取れる程であった。

 それに合わせて俺は刀を抜刀するイメージで剣を振り抜く。


 その放った技はアニメ界で有名な人斬り抜刀斎が使った技。

 通常右利きの場合、右足を前にして抜刀するという抜刀術の常識(通常、抜刀術は刀は左から抜刀するため、左足を前にすると抜刀時に斬ってしまう危険性があるため)を覆し、その手の振りや腰の捻りの勢いを一切殺さないように抜刀の後に、左足を踏み出し、その踏み込みによって生まれる加速と加重が斬撃をさらに加速させ、神速の抜刀術を「超神速」の域の一撃に昇華する技である。


 ここ数日で実験した結果どっかのアクセラレータなどの能力などは使う事は出来なかった。

 恐らく原理や仕組みは理解していてもその能力の発生源が理解出来なかった為であろう。

 即ち異端の能力を使える事が前提としてある作品の能力はその根源を理解出来ないが為に全て使用出来ないと考え良いだろう。


 では逆に異能などを使わない、己の身と武器を使ったバトルアニメなどのキャラクターが使っている技は使う事が出来るのではないか。

 そう思い実験した結果は使用出来た。


 後は実戦で使える技なのかどうかである。

 基本的にそういうアニメなどの技は実戦では隙だらけであるというオチも少なくはない。

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