第2話招待状
◆
翌日、俺は城下町へと来ていた。
人が多く賑わっており活気に満ちている。
これだけでこの街は良い街であると伺える事ができる。
人が集まる場所があり尚且つ活気があると言う事は少なからず今目に見えいる人々は幸せである証拠であろう。
そんな事を思いながら店であろう建物入り口に掲げられている看板を一つ一つ確認して行く。
異世界である事か文字が読めない事を危惧してはいたものの問題無く読める事が分かり一安心である。
あの自称神様に少なからず感謝しておく。
そしてどういう原理で読めれるようになったかは分からないにも関わらず自身の能力で文字が読めなくなると言う事が無いのは恐らくこれを文字と認識し、尚且つ読めると思ってしまったからであろう。
そう自己分析しながら看板を見て行くのだが一向に「ギルド」という文字が見当たらない。
異世界、それも剣と魔法の世界と言えばギルドは一種の憧れに近いものがあるだろう。
「冒険者ギルド…冒険者ギルド…冒険者ギルド…」
「どうしたボウズ、冒険者ギルドを探しているのか?」
「ええ。ですがそれらしきものは見つからないですね」
「そりゃ当たり前だボウズ。こんな街中に冒険者ギルドがあるわけがないだろ。冒険者ギルドならこの街の東西南北の四隅にあるからそこまで行きな」
「あ、ありがとうございます」
看板を眺めながらブツブツと呟いていると親切なおじさんに冒険者ギルドの場所を教えてもらう。
その話を聞いて前の世界、日本で言うところの農協みたいなものかと納得する。
魔獣討伐や獣などの狩をこんな街中でするわけが無く、基本的に街の外であろう。
であるならば街の外側付近にあるほうが何かと便利という事である。
そして何よりも冒険者ギルドが存在するという事が知れたのは大きな収穫であったと言えよう。
「すみません、登録したいんですけど」
「新規登録の方ですね。登録料金である銀貨一枚はお持ちですか?」
俺はその言葉を聞き愕然とした。
普通に考えれば新規登録にお金が必要である事くらい思いつくはずである。
それすら思いつかなかったのは異世界に来て自分でも思っている以上に興奮していたのであろう。
まるで遠足に来た子供ではないか。恥ずかしい。
「いえ、持ってないです」
「分かりました。では仮登録もございますが如何でしょう?この仮登録は冒険者初登録時と同じランク、Fでの依頼を受ける事が出来ます。しかし報酬が銀貨一枚を超えるまではあなたの手元に入る金銭はございません。そして銀貨一枚を超えたところで晴れて冒険者となりますがランクはFで御座います。どういたしますか?」
どうするも何も他に手段がない為二つ返事で了承するのであった。
◆
「はい、確かにヤコム草五束ですね。銅貨一枚をお渡しいたします。次にレッドベアーが一頭ですが今回はちゃんと血抜きも内蔵の処理もされてますし全体的に綺麗な上にお頭付きですので金貨七枚ですがハンター登録されいないクロード様は手数料を引かさせて頂きまして合計金貨六枚銀貨七枚小銀貨と銅貨六枚小銅貨七枚で買い取らさせて頂きます」
「ありがとうございます」
「これでやっと銅貨七枚分ですねクロード様。むしろそれ程の手腕をお持ちでしたら一狩りして資金を調達した後にハンター登録をすれば宜しかったのに」
「ああ、確かにそうだな。しかしそのお陰でシエルさんとこうやって何度も会えるのだから今では逆にあの時の判断は間違ってなかったと思えますね」
「もうっ、クロード様ったら口が軽いのですからっ。どうせ他の女性にも同じ事言っているんでしょう?」
「それこそまさかですよ。シエルさん一筋ですよ俺は」
「もうっっ、本気にしちゃいますからねっ」
俺が冒険者を仮登録してから一週間経った。
今では仮登録が終わるまでの間サポート役として俺へ配属されているシエルさんとたわいもない会話が出来る程になり、Fランクのクエストついでに狩って来た魔物の処理も覚えて来た。
これは全てのランクに言える事なのだが上のランクの魔物やクエストで得た金銭はランクアップには査定されない為仮登録からFランクに上がる為には後銅貨三枚を稼がなくてはならない。
このシステムは冒険者が無茶をしない様にする対策である為当然自分よりランクが上の報酬は手数料も取られてしまう。
その為早くFランクへと上がりたいのだがそうするとシエルさんとの専属契約が切れてしまうので実に悩ましい問題である。
流石に仮登録の自分なんか本気で相手をされないと分かってはいるのだがそれでも美人の異性とこうやって話すこの時間は今の俺の唯一と言っていい楽しみと癒しになっていた。
「本気も本気ですよ。今すぐデートに誘いたいくらいですよ」
「しっ、室長!!急用が出来たので半ドンしますっ!!」
「ダメに決まってんだろ色ボケが!!俺を睨む暇があったら仕事しろっ!し・ご・と!!」
あーなんかこういう雰囲気良いなー、と思ってしまう。
大学を卒業後都会へ就職した為休日気軽に遊べる友人はおらず、更に就職した職場は御局様の派閥が三つあり常にギスギスしていた為この様な雰囲気にある種の懐かしさと羨ましいという感情をもってしまう。
しかしこの心休まる癒しの時間もこの後ギルドへ入って来た赤の騎士と名乗る者達によって一瞬にして消えてしまった。
「失礼するっ!我ら赤の騎士である!ここにクロードという黒髪黒目の青年はいないかっ!?これは赤の女王様直々の命令であるっ!!」
そんな言葉を騎士の一個隊の中でも一番上であろう人物が声を張り上げながらギルドへ入って来る。
その騎士様の有り難き声を聞き冒険者やギルド職員達が一斉に俺へと視線を向ける。
「ふむ、確かに姫様の言う通り黒髪に黒目、中肉中背で細身の男性であるな……貴殿がクロードか?」
「はぁ、まあ一応クロードですが」
こうなってしまっては最早言い逃れなど出来ないであろう。
腹をくくり騎士の問いかけに肯定する。
姫様の入浴中を襲った罪で例え極刑を与えられたとしても最悪逃げられれば良いし逃げれるだけの力は俺にはある。
「今から一週間後城に来て頂きたいのだがご了承頂けるか?」
「分かりました、行きましょう」
騎士から城に来るように言われるのだがかなり威圧を込めて言ってくるあたり俺に拒否権なんか無いのであろう。
むしろ恐怖を隠すかの様にも見えるのだが恐らくは気のせいであろう。
「では宜しく頼む。あと、これは女王様からの手紙である。必ず読む様にとの事だ」
「手紙ねぇ…」
「では私達はこれで」
そう言うと騎士達は統率の取れた動きで反転するとギルド内から去っていく。
そして俺の手元には無駄に豪奢な封に閉じられた手紙が二通残っていた。
女王様からの手紙と言われても正直恨みつらみの後に死刑宣告が書かれているとしか思えない。
「一体第三王女様に何をしたんですか?クロードさん」
「いや、その色々あったというか」
まさかシエルさんに女王様の入浴中を襲いましたと言う訳にもいかず口ごもってしまう。
「ふむふむなになに……我が愛しきクロード様へ。あの夜から私は毎日クロード様の事を想いながら暮らしております。クロード様に逢えない日々はとても切なく一秒でも早くクロード様にお逢いしとうございます………こ、これってまさかっ、もしかして文なんじゃ……ってコラ!!まだ私が読んでるでしょうっ!!」
「何他人の手紙勝手に読んでるんだよっ!?」
「それは私がクロードさんの専属だからですが?」
「いや、何でそんな当然の事を言ってやったぜみたいな顔してるんですかっ!?」
「私との関係は遊びだったのですねっ!?あれ程尽くしてあげたじゃないですか!!私との関係は遊びだったのですかっ!?」
「ああもうっ無駄にややこしい事を言うんじゃないっ!」
恐らく女王様は誰に見られても大丈夫な様に手紙を書かれているのであろう。俺には分かる。先程の内容も要約すれば「一秒でも早くクロードを殺したい」とも受け取れるし実際そうであろう。
まあだからといって俺が殺される又は死ぬ想像など出来ない為ここは素直に従ってみるのも一興であろう。
そもそも自分が死ぬ事など想像出来よう筈がない。
「それで、クロードさんは行くのですか?」
「面白そうだからね。だから、そんな悲しそうな顔をすんじゃない。俺は強いよ?シエルさんが思っている以上にね。だから生きてまたここに返ってくるさ。それに冒険者から仮をなくすためにもな」
そう言うと俺はシエルさんの頭をポンポンと軽く叩いた後に優しく撫でる。
「絶対ですよっ!?絶対ですからねっ!?私、クロードさんの事待ってますから!!」
そしてシエルさんは今にも零れ落ちそうな涙を振り払い俺の事を待ってくれると叫ぶ。
たった数日間、それもあくまでギルド職員と仮冒険者という関係にもかかわらずだ。
その事に少し疑問に思うのだが俺の帰りを待っていてくれると言われて悪い気はしないので深く考える事はしない。
そしてこのやり取りを見ていた野次馬共は次の瞬間女性の黄色い声と男性の絶望の断末魔で冒険者ギルドを満たしたのであった。
◆
そして一週間後、俺は渡された招待状を門兵に見せた後城内へとメイドにより案内をされていた。
城内はやはりと言うか何というか想像通りの内装である。
豪華な作りではあるのだがその中にも静謐さがあり調和が取れた内装と言えよう。
そんな内装を観光気分で眺めてながらメイドについていくととある一室まで案内され少し待つ様に言われる。
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