無題5
羽を置き、背もたれに寄りかかり一息つく。窓の外から緑色の木漏れ日が入っている。古ぼけた背表紙のかすれた文字。床板が干からびてつるつるになった表面、浮き上がった木筋。長い髪、身長とほぼ同じの下げ髪、周りのせいで鈍く、白みがかった髪を背もたれから垂らしている。目の前にあるその端が黄色く焼けた手帳には訳の分からないモノが書かれていた。最後は鐘がなっておわっている。
少女は軽く背伸びをした。うっすらと見える肋骨の影がとても妖艶に映っている。紅色の瞳の瞼を絶え間なく開閉し、口は外の物を求めて大に欠伸する。
いつから書いていたのだろうか。「朝、まだ薄暗い....」そう始まる一文。額にはもう残っていない木目の痕を気にしながら憮然とした表情で読み返す。いわば、夢日記でありナンセンスなもののように感じる。
窓ガラスに叩き付けられる赤身を帯びた羊水。その鴉は何を嗅いでいた?否、自身の死臭である。虚ろな目に大金持ちの貧乏人。体の大きい胎児は小人の子宮の中に納まっている。埃まみれのポプラ並木にかかる午後と午前の区別のない月の光は恋焦がれる太陽によって焼き尽くされ灰色に変わってしまった。指を指しながらその身をトラックに捧げる少年、人の容をしている神が駒のように弄ぶ。捻じれ曲がった倫理観、即ち自己中心的な世界観。神をもいいように飼いならしているものは誰だ。雑踏と、喧噪としている脳内会議、ヒステリックな喘ぎ声。後光さし埃舞う処刑台に掛かるモノはいない。すでに始末されている。
猫はその偽りの髭でそっと本棚を崩した。鼠がいるはずなのにいない。痺れを切らす鼠代官、猫の首が飛ぶ。頭の中身をそっと怯える子のように見るんだ。
奥深く刺さっている記録の断片、私は反射から一冊の本を抜き出すんだ。記録の中の銀色が酸化して黒くなる。「神像夢虚」。記録が曖昧である。よって、表中身も虚像である。
赤くテクスチャーの掛かった緑色の木漏れ日は私の髪を凝視している。
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