無題2

暗い部屋の中、少女は目を覚ました。安楽椅子に腰・を・掛け、脚に薄手の毛布が敷いてある。目前、ゆらゆらと妖艶な暖炉の灯りが見える。手に触れている硬い表紙の本に触れながら、それと毛布を暖炉に投げ入れてから立ち上がった。




白いはずの髪が暖炉のそのなまめかしい灯りによって銀色に、その無防備で貧相な体にはほんのり橙色に色気立っていた。




首を左に回すと暗い光が一筋、落ちていた。元を辿ってみると、そこには裸電球が天井からぶら下がっていた。その表面は歪なまでに曲がりくねり、淡い黒色の光を放っている。




その中には色の無い雪が降っていた。何処までもそれは続いていた。何処までも淡々と。




無色に目を吸い込まれそうになる。慌てて目線を切り、暗闇の中から布の塊を引きずり出した。裸の幼女はそれを体に巻き付け、目を閉じた。




ゆっくりとぬくもりが大きくなる。




再び目を開けると、そこには裸の幼女ではなく見た目相応ではない濃い服装(膝下まである革でできた茶色い外套とその内側には白い襯衣、下には外套に隠れてほとんど見えないが濃藍色のした服筒ずぼんを着ている。靴は履いておらず裸足のままである)を身にまとった少女がいた。




外套の袖から覗く白い手にゆっくりと厚い革手袋が浮かび上がってくる。




暗闇の中から一つの扉が出てくる。




歩み寄り、真鍮でできた握り玉に手をかけた瞬間、強い風が「ひゅう」と扉を薙ぎ倒し暗闇と一緒にどこかへ飛んで行ってしまった。薙ぎ倒された扉、無頓着に降る透明。




動じない少女は歩く、何処までも。




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空には巨大な胎児が泳ぎ、辺り一面透明な雪で化粧されている。。透明なせいで見える血管は酷く縮こまっている。途中向かい風に乗ってくる阿片の紙を破りながら進んでいく。




透明な床の奥の奥(此処では地平線)に黒い不純物が建っていた。お店、或いは分岐点、或いは見間違い。




鎌鼬に皮外套を装飾されながら歩いていく。足の裏には冷たい雪。眼は透明の色を見ることはできないけど脳はそれを透明だと知っている。果たして本当にそれは雪なのか。何か人工的に降らした、意図的に降らされた物なのか。




少女は胸の辺りに手をそっと置いて....。




歩いて幾つか経つと、段々と黒い立方体が見えてきた。周りには似たような建物が隙間なく並んでいるのでぱっと見どこが入り口なのかわからない。




そっと手を触れてみる。ゆっくりと壁が沈みある程度の広さをした空間が出来た。壁は白く、中はほんのりと灯りがある。




"それ"はじっと、そこに居た。




その顔は真っ黒に塗りつぶされていた。その手は黒く大きかった。その体は私のより数寸低かった。その手は大きくて、先が真っ赤になってた。背景の色のせいで非常に際立っているそれを私が認識したと同時に今まで歩いてきた道は崩れ落ちてきた。慌てて空間の中に入る。




短めの背もたれを私に向けた硝子製の椅子が白く艶やかにある。硝子越しにほんの少し見えた"それ"はひん曲がっているように見えるはずだが。




....................................................




じっと、動かない。軽くなったはずの外套が重く感じるほどに、睨んでいた。




先に"それ"が沈黙を破った。その大きな手で、倦怠そうに椅子を指した。座れという合図。"それ"の眼を離さず椅子に腰を掛ける。




緊張で口の中が乾く。瞬きを一度もせず見つめる。




それは不可解な現象だった。胸に穴が開いていた、私の。それに気づいていないまま、口からは空回りした息が漏れ、赤と青の配線が穴から垂れ下がり脈打っている。一定の周期で吹き出される血液、焦点の合わない眼。椅子にだらしなく寄りかかり半開きの手をたらんとぶら下げた、「私」を見ていた。




ヒュー、ヒューと吐息が私に鳴きついた、小鳥の囀り。

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