07/クビキリ

ぶんっ。

鉄色の旋風が駆け抜ける。

大きく振るわれた斧の先、使い手の少女は白髪を靡かせてニヤリと笑んだ。

「・・・ひっ」

「逃っがさないよ~♪」

ぶんぶんと立て続けに斧を振るう。

その巨大な斧の重みをまるで感じさせない、まるでレイピアでも振るうが如き素早さで。

獲物は全身に恐怖を滲ませ砕けた腰で後退る。

ぴ、ぴ、と獲物の身体に赤い線が走る。

無邪気に斧を振るいながら、追い詰める。

わざと軽い傷をたくさん負わせて、恐怖を煽っているのだ。

「どうしたの?もう逃げないの?諦めた?じゃあ―」

少女は矢継ぎ早に問いかけて、大きく斧を振り上げた。

色素の薄い体が逆光に透けるように金色に輝く。

「これでお別れだね。ばいばい、そう楽しくは無かったよ。」

「ぁ…待っ」

ぶん。

薄い色素を補うような鮮赤を浴びて、少女は詰まらなそうに空を見上げた。

陽は中天。

「…そっか、おなか空いたや。」


「おかえり、キリちゃん。凄いずぶ濡れだね。」

「ん。表で水浴びてきた。お昼!」

ちょんとカウンターに腰掛けて、ご飯を待つ。

と、大人しく昼飯が出てくるのを待っていたクビキリが勢い良く顔を上げて入り口を振り返る。

「ユイコ~、何だよこの辺ずぶ濡れ…って、お前かクビキリ。」

背後と足元に気を配りながら入ってきたカフスが、濡れ姿のクビキリを見て眉を顰める。

「おかえりーカフスー♪」

「寄んなバカ濡れる!」

飛びつこうとしたクビキリを全力で押し留める。

子供とは言え重量級の武器を片手で振り回すような奴とは、力勝負は目に見えている。

「ユイコ!タオル!」

「は~い。」

ユイコが放ったタオルを受け取ると、クビキリに投げつけた。

「ちゃんと床も拭いとけよ。」

「うー。」

不服そうにしながらも立ち上がったクビキリに、「先に自分を乾かせ」と言い残してカフスは奥へと消えていった。

「はー。ねーユイちゃん、カフスあたしに厳しくない?」

唇を尖らせてぐしゃぐしゃと髪を拭くクビキリに、ユイコは困った様な微笑いで返した。

カフスも愛想の良い方ではないが、確かにクビキリには当たりがキツい。

しかし、クビキリによって齎される様々な苦労が原因であるだけに、彼を責める事は出来ない。

「もー。何がだめなのかなー。」

その熱烈すぎるアピールだと誰もが知るが、敢えて進言する者は居ない。

「クビキリはカフスの事大好きだものね。」

「うん。」

素直に頷いてから、いつの間にかカウンターに座っていた闇撫に驚いた。

床まで拭き終えたクビキリが闇撫の隣に腰を下ろす。

「…闇ちゃんみたいにスタイルよければ構ってくれるかなぁ。」

じ、と闇撫を見つめ続け、一言そう洩らした。

「そういうんじゃないと思うけど…はい、オムライス。」

「わ、やったあ。」

先程までの悩みも瞬散、オムライスを頬張って幸せそうに笑みを浮かべた。

「貴方は、そのままがいいと思うわ。」

「ですよねー。」

自分を温かく見守る眼に気付く事無く、クビキリはペロッと昼飯を平らげた。

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