03/祈
「わ、わゎ…た、助け……」
尻餅をついて後退る巨体。情けなく助けを請うその先には、細身の青年。
純白の清楚な長衣に金のロザリオが光る。
神父を思わせる姿の彼はしかし、一片の慈愛も浮かべない表情で男に詰め寄る。
「ぁ・・・わ・・・た、助…」
そう、青年は追う者。男の精神と生命を追い詰めている者。
彼を救う為でも導く為でもなんでもなく、ただその生命を摘み取る為に。
「瞑目しなさい。」
追い詰められた男。
青年は静かな声で囁く様に告げる。
「神の御許へ送りましょう。」
闇夜に映る細い閃き。
「ぅわ…あ、ああぁあぁぁぁぁああぁああっ!!」
ざしゅっ。
振り下ろされた銀の軌跡。
男の心臓を穿った銀の杭。
青年は瞑目する。
だくだくと溢れ出る液体も漸く活気を無くし、路地に静寂が戻りかけた頃。
静かに十字を切ると、踵を返した。
「ただいま帰りました。」
「おー。おかえ―…祈…お前もか…」
青のコートの下から血だらけの白衣が現れる。
「なんです。私は血を隠しもしないまま帰ってくる様な真似はしていませんが。」
「そういう事でもなくてだな…。」
まったく、曲者が揃ったものだ。
カフスは呆れ返って、祈に文句を言うのを止めた。
彼は獲物を仕留め終えた後瞑目する。
故に
獲物の冥福を祈るのか、それとも自らの罪を刻むのか。
真実は彼しか知らない。
「あ、祈さんおはようございます。今日も早いですね。」
「・・・」
昼前のバーにはユイコしか居ない。
殆どが夜型人間で、9時頃に起きてくるのは祈くらいだ。
もう少ししたら虚も降りてくるだろう。
「・・・ああ、ユイコか。」
目を眇めて思い切り顔を近付けて、漸く祈は目の前の人物を認識する。
いつもの済ました顔からは想像出来ない寝惚け顔である。
ユイコは慣れたもので、祈の胸元を指差して告げる。
「祈さん、眼鏡ポケットですよ。」
「・・・ぁあ・・・」
目が見えない事に今気が付いたといった呈で自らの胸ポケットに目を遣り、緩慢な動作で眼鏡をかける。
「毎朝済まない。」
「いいえー。」
そのままのたのたと奥へ消えていく祈。
数分後、不可思議な音を立て続けていた洗面所から済ました顔で祈が帰ってくる。
「おはようユイコ。ホットコーヒーを。」
「はいはい出来てますよ、そこに。」
一寸前の事は無かった様な顔でコーヒーを啜る祈。
「今日はお仕事あるんですか?」
カウンターを挟んでユイコが問いかける。
「ええ。今日は久々に大きく騒げます。」
コーヒーの味に満足してゆったりと微笑む。
大きく騒げると聞いてユイコはカウンター下でメモを確認した。
「えーと、爆薬ちょっと追加しといたんで、事足りるかと思います。」
「それは良かった。やはり、火薬の量が少ないと美しくないですからね。」
「ひゃはははぁっ!悔い改めよ悔い改めよ、我が炎にて浄化を受けよ!!」
激しくあがる炎の中で、人影が高笑いする。
少し離れた瓦礫に腰掛け、遠巻きに眺めていたメンバーはそれぞれに溜息を吐いた。
「はあ、何時見ても変な奴。」
「黙って立ってりゃ綺麗な顔してんのになぁ。」
「祈はちょっとなぁ…火薬持たせるとスイッチがな。」
呆れ返る赤猫とカフスとファズにユイコが笑う。
「いいじゃないですか、楽しくて。」
「ユイコはいい子ね。」
「闇撫さんは祈さん苦手ですか?」
「苦手ね。あの子目を離すと
そう言って指に絡む黒蜥蜴を愛しそうに撫でる闇撫。
「僕は割と好きですけど。一緒に居ても疲れないし。貴重です。」
「「うわ、虚と祈のツーショットきつッ!!」」
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