02/虚

うつろうつろ。

全てが虚ろ。

僕の世界はモノクロカラー。

「な、いいだろ?俺はお前が好きなんだよ。」

好き?

好きって何だろう。

「これはピアノ線。暴れると傷が付くよ?ね、大人しくして。」

気持ちが悪い。

何かが僕に触れてくる。

これはピアノ線。

強く触れると…

僕のモノクロの世界に、初めての色が咲いた。

赤。

ああ、色だ。

もっと。

もっと見せて。

綺麗な色。鮮やかな色。

僕の世界に、初めての色。


「あーあ、殺しちゃったのかソイツ。」

殺した?

殺すって、世界に色が付く事だったの?

「また派手に散らしたなぁ、キミ。」

僕は色が見たかっただけ。

「このままじゃ困るだろ?うちに来ないか?

 そうだな、もっと…もっとたくさん、色が見れるぜ?」


「今日からここがキミの家だ。ここはキミの部屋。

 狭くて悪いけど、好きに使いなさい。」

「・・・いえ。快適です。」

居場所が出来た。

小さな部屋。

落ち着く空間。

「マスター。また何か拾ってきたんだって?」

「ああ、赤猫。新入り君だよ。仲良くな。」

目を穿つ、真っ赤な…。

「…赤…」

「ああ、彼は赤猫。先輩に当たるし同居人だから、適当に頼りなさい。」

真っ赤な髪から目が離せない。

「なんだぁ、陰気なガキだなぁ。ま、よろしくな。」

「よろしくお願いします。」

こんなに綺麗な赤なのに、彼はうるさい。

真っ赤に染まったあの人達は、あんなに静かだったのに。

うるさいのは苦手。

静かな世界と隅っこが好き。

大好きな赤色を持つこの人と、僕は仲良く出来そうにも無い。


「あれ、あいつまた隅っこで丸くなってんの?」

「本当に隅っこ好きだねー。」

放っておいてほしい。

「そういやあいつ、名前は?」

「あー、まだ聞いてなかった。」

「おーい、マスター。もう何日目だと思ってんの。」

四日目。

皆僕を放っておいてくれる。

ここは思ったよりも居心地がいい。

「おい虚ろ。」

「…僕に言ってるんですか。それ。」

上から被さる様に覗き込んでくる赤猫さん。

垂れ下がる赤い髪に少し見惚れて顔を上げた。

「お前いつもそうやってボーっとしてるしさ。『虚』でいいだろ。名前。」

それとも他に呼び名はあるのかと聞いてくる。

「・・・―いいですよそれで。そんなに悪い名前じゃない。」

「んじゃ虚。よろしくな。」

「虚くんねぇ。そのまんま過ぎる気もするけど。」

「かわいいじゃない。じゃあ虚君、何か飲む?」

ユイコさんがグラスを拭く手を止めて笑いかけてくる。

「…。未成年なんで、遠慮しておきます。」

「うわー、かってぇなぁ!じゃあユイコちゃんオレかるーあみるくー。」

さすが猫。

僕だってアルコール飲料くらい飲むさ。

そんなに甘い物はちょっと飲めないけど。

少しずつこうやって巻き込まれていく。

それが嫌だから隅っこに逃げる。

隅まで逃げた鼠を猫が追い詰める。

パニックで瀕死のまま中央に引きずり出されて、あわてて隅に逃げ帰る。

ああ本当に。

猫は苦手だ。

僕はやっぱり彼と仲良くなれそうに無い。

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