ザレンス
炯斗
01/赤猫
彼は荒れに荒れた国境沿いを、愛刀『
荒んだ瞳は血に飢えてギラつく。
気が付いた時には誰も彼に近寄らなくなっていた。
彼は剥き出しの刃。
鞘を失って荒れ狂う赤い死の象徴。
ちりん。
誰かが付けた猫の鈴。
ちりん。
獲物を逃がす、猫の鈴。
疲れて怯えている野良猫を拾い上げたのは大きな手。
彼は野良猫に餌と住処と名を与え、街での生き方を教えてくれた。
道端で倒れこんでいた青年に、黒の野良猫が近付く。
「よう、お前、俺と一緒だなぁ。」
青年は猫を捕まえて、抱き寄せようと持ち上げる。
ふしゃあっ!!
「わっ!いて、いててっ、やめろ、解った悪かったよ!」
脱兎の如く走り去る黒猫を見送って、盛大に引っかかれた頬を擦る。
「いって…。ホント、俺と一緒だな…。」
触られるのに慣れてない。
人との関わり方を知らない。
近付かれたら怯えて引っ掻く。警戒して斬りかかる。
それでも。
「…ち。寒ぃなぁ…。」
路地裏で背を丸めて、去る事の無い寒さを凌ぐ。
「お兄さん、大丈夫?」
最初、誰に言っているのか解らなかった。
「猫にやられたの?」
その声が自分に向けられた物だと気が付いた時、もう死ぬのかと思った。
白い少女は冬の化身の様で、自分に死を運んで来たのならそれもいいかななんて考えた。
「おいでよ、そんなところで寝たら凍死しちゃいますよ。」
こんな奴に声をかけるなんて、怪しい女。
ついてなんか行ったらどうせロクでも無い事が待ってるに違いない。
でも、もういいか。
何が待ってたって、もう今更どうなったって。
「お兄さん、猫みたいだね。」
あまりに綺麗に微笑うから。
「マースターぁ。」
「ユイコ?何処行ってたんだお前はー。店番…」
少女の後ろに目を遣って、マスターとよばれた男は言葉を失くす。
「…お前…何拾ってきたんだ…」
「…えっと…ねぇ、猫飼っていい?」
額を押さえて立ち竦む男。
だがその瞳が猫の持つ長い白刀を捕らえて、変わった。
「ま、いいだろ。お前、名前は。」
「…オレ?そうだな、じゃあ…猫。」
「猫?じゃあ赤猫さんだね。よろしくね赤猫さん。」
「…。よろ、しく…。」
ちりん。
猫の鈴が鳴る。
「あー、いいから、早く中入れ。丁度飯だ。」
ダルそうに背を向けて数歩、思い出したように振り返った。
「俺はファズ、コイツはユイコ。まああんま面倒な事は持ち込むなよ、赤猫。」
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