第45話

「それにしても……」


 クロウは一度言葉を切り、辺りを見回した後、クロウから離れ顔を真っ赤にしたままかラドを小さく丸めクロウを睨みつけるカチュアに苦笑する。


「ここは何処なんだろうな……」


 一体何処をどう流されたのか、二人が居るのは洞窟の中。壁に生えたヒカリゴケという苔のおかげで真昼間というほどではないが、十分に明るい。ここでこのまま救助を待つか、それとも自力で脱出しキャランベを目指すか。カチュアと相談して決めたいところなのだが、ずぶ濡れであちこち透けている事に今更ながら気付いたカチュアはそれどころではないようだ。


「なっ! なにしてんのさー!?」


 おもむろに上着を脱ぎ始めたクロウから距離を取るように座ったままズリズリと後ずさるカチュアに答えないまま、クロウは上着を絞るとカチュアに向かい歩き出した。


「ま、待ってクロウ! ボ、ボクも女の子だし! あ、嫌って訳じゃないんだよ!? でも初めての時はムードを大切にしたいというか!?」

「バカな事言ってないで、それ着てろ」


 早口で捲し立てるカチュアに呆れながらクロウはそう言って彼女に自分の上着を放り投げた。一度ぽかんとした表情を見せたあと、頬を膨らませるカチュアから視線を逸らし、再び辺りを見渡す。明かりはあるものの、暖が取れるわけではない。カチュアの服を乾かすためにも火を熾したいところだが、たきぎもないこの状況にクロウは溜息を吐き出す。その溜息が聞こえたのだろうか、カチュアは一度ビクリと身体を震わせ、おずおずと口を開いた。


「あ、あの……クロウ? 怒ってる……よね? ボクのせいでこんな事になっちゃったんだし」


 しょんぼりとした様子で俯くカチュアにクロウは無言で近づき、その頭に手を乗せる。


「何言ってんだ。元はといえば、ちゃんと止めを刺さなかった俺のせいだよ。……ゴメンな、危ない目にあわせて」


 そう言って優しい笑顔を見せながら頭を撫でてくるクロウに、カチュアの顔は再び赤くなっていく。


「お、女の子の頭を軽々しく撫でちゃダメって前も言ったじゃんか……」


 そう言いながらもクロウの手をどかそうとはしないカチュアなのだった。




 

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