第43話

 シャルローネの言葉に動揺する襲撃者達。そんな彼等にシャルローネも少々間抜けな表情を見せた。カマをかけたつもりだったのにここまであからさまに動揺されるとは思っていなかったらしい。


「ふぅむ。情報引き出すのにゃ一人居れば十分かねぇ。クロウボウヤ、人を殺せないってんなら引っ込んでな」


 向けられたシャルローネの視線に答えるように、クロウは無言で引き金を引いた。発射された光弾に眉間を撃ち抜かれた襲撃者の一人は糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちていく。仲間の一人を失った襲撃者達はその瞳に憤怒の炎を宿しながら、ある者は矢を放ち、またある者は剣を片手にクロウへと駆け出す。これに対し、クロウは連続で発砲し、シャルローネも魔術を放つ。


 強力な魔術を使い峡谷道が崩れる事を恐れてか、はたまた別の思惑でもあるのか。シャルローネの放つ魔術はそのどれもが威力の低いものだった。彼女の放った火球を掻い潜り、襲撃者の一人がクロウへと迫る。突き出された剣先を銃で逸らしながら、クロウはカウンター気味に襲撃者の腹へと膝蹴りを叩き込む。この襲撃者の相手をしたのがアーヴィングだったなら、彼は戸惑う事無く止めを刺しただろう。しかし、対人経験が学術院の授業でしかないクロウは襲撃者に止めをさすことなく、襲撃者から目を離してしまった。それはを殺す事への無意識の抵抗感からか、それともクロウの甘さか。のちに仲間の少女とクロウ自身の命を危険に晒す事になるとは、この時の彼には知る術がなかった。


「ほら、おとなしくしな」


 腕が関節とは逆に曲がった襲撃者を拘束し終えると、シャルローネは一度身体を伸ばし馬車の前方、アーヴィングが襲撃者達と一人戦っていたであろう地点へと向かい歩き出した。彼女と入れ替わるように恐る恐る馬車から出てきたカチュアは辺りに漂う血の匂いと、転がる襲撃者達の死体に顔を顰めながら拘束された襲撃者の側に座り込むクロウに向かい歩き出した。


 辺りを警戒しながら歩くカチュアに向けたクロウの笑顔が凍りつく。地面に倒れ、機を覗っていた襲撃者が動き出したのだ。ただならぬクロウの様子に振り返ったカチュアが悲鳴をあげる。そんなカチュアの首に隠し持っていた短剣を突きつけながら、襲撃者は彼女の頬をべろりと舐め上げる。


「ヒヒッ。だぁめだぜぇ、ニィチャン。ちゃぁんと止め刺さなきゃよお」


醜悪な笑みを浮かべる襲撃者を睨みつけながら、クロウは銃口を縛られた襲撃者の頭に突きつける。


「強がんなって、ニィチャン。ブルってんのはわかってっからよお。おっと、そっちの別嬪さん達も動くなよ? 」


 襲撃者の言葉に苦々しい表情を浮かべながら馬車の陰から出てきたシャルローネとアーヴィングが小さく両手を挙げると襲撃者はその笑みをより深いものへと変えた。


「さて、そんじゃあニィチャン。とりあえずお前は自殺でもしてもらおうかぁ」


 その言葉にカチュアはぎゅっと唇を噛み締めると、襲撃者の足を思い切り踏みつけ、彼女を掴んでいた襲撃者の力が抜けた瞬間、渾身の力で襲撃者の身体を突き飛ばした。完全に隙をつかれてニ、三歩よろけたものの、襲撃者は手を伸ばし再びカチュアの腕を掴んだ。彼女を助け出そうと身体強化を発動したクロウが駆け出すよりも早く、カチュアが次の行動に出てしまった。谷底へ落とそうと襲撃者に体当たりしたのだ。しかし、その目論見は上手くはいかなかった。空中に投げ出されたのはカチュアのみ。仲間の誰もが目を瞑る中、クロウだけがカチュアを追い、谷底へと向かい飛び出したのだった。

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