第42話
道幅はさほど広くないうえにろくに手入れもされていないデコボコとした渓谷道をゆっくりとした速度で進む幌馬車の荷台から、ひょっこりと顔を覗かせたクロウは眼下に広がる光景にゴクリと唾を飲み込んだ。
「ク、クロウ!
荷台の壁にくっつきながらクロウに批難の声を上げるカチュア。峡谷道に入ってからずっと彼女はこの調子だった。常に谷とは反対側に座る為に荷台の中を行ったり来たりと落ち着かない。よほど怖いらしい。そんな騒がしい荷台の中で胡坐をかきながら目を瞑っていたジェイドの頭をシャルローネがポカリと叩いた。
「ほら、また乱れてる。集中しなって言ってるだろう?」
「んな事言われたってよぉ。こう騒がれてちゃ集中なんて出来ねえって……」
愚痴るジェイドの視線の先では谷から遠ざかろうとカチュアが動き回っていた。昨夜から始まったシャルローネのジェイドへの特別授業。それは彼がクロウとの手合わせ時に見せた技術を実用化させる為に効率良く魔力を使う方法を教え込むというものだった。しかし、見た目通り理論的な思考を苦手とするジェイドには何度シャルローネが言葉で教えても全く理解できていなかった。仕方なくこうして身体に覚えこませる方法を取っては見たものの、それも上手く行っているとはいえない状況にシャルローネが諦めかけた時だった。
「敵襲!!」
御者台に座るアーヴィングの声が響いた。その声にいち早く反応し、荷台の後方から外へと飛び出したクロウは舌打ちしつつ、表情を歪めた。魔物相手ならば躊躇する事はなかっただろう。しかし、今回襲ってきたのは、人間。銃口は向けているものの、その引き金を引けずにいたクロウに向け、矢が放たれる。身体強化を発動しているわけでもないのに、クロウにはまるでスローモーションのように見えた。その矢をかわそうにもクロウの身体は動かない。
「なぁにぼさっと突っ立ってんだい?」
クロウの身体に矢が突き刺さる直前で、それを阻んだのはシャルローネが展開した魔術による障壁だった。棒立ちのクロウに向けていた顔を襲撃者達へと向けなおすと、彼女の唇が弧を描く。
「さぁて、喋れなくなる前に、教えてくれるかい? 何で兵士でもないただの盗賊風情がカラムの兵士のフリなんかしてんのかをさ」
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