第41話

「ヤニタ峡谷を抜ける!?」


 エリスから木の器を受け取りながら声を荒げるクロウに、アーヴィングは頷くと地面に地図を広げた。


「ああ。あの商人の話だとここの橋が落ちているらしい」


 そう言いながらアーヴィングは少し離れた所で寝転がっている商人を一瞥すると、声を潜め続けた。


「俺もシャルローネもタイミングが良すぎるとは思ってる。こんなところで商人と鉢合わせした事も含めて、な。とはいえ、キャランベまでは行かにゃならん。道中何が起るかわからんからな、全員装備の確認をしておくように」


 そう言ってクロウ達を見回すアーヴィングの言葉を引き継ぐようにシャルローネはニンマリとした笑顔を浮かべると、その視線をジェイドへと向けた。


「ジェイドだったね、食事が終わったらアンタにもアタシの特別授業を受けてもらうからねぇ」

「お、俺!?」


 その笑顔に嫌な予感がしたジェイドが助けを求めるように視線を彷徨わせると、偶然目が合ったアンネは静かに首を横に振った。逆らうなという思いを込めて。ガックリと肩を落としながらジェイドは木の器に口をつけると音を立てながら中身をゆっくりと啜る。少しでも特別授業とやらを受ける時間を短くしようと抵抗しているらしい。


 しかし、そんな抵抗も虚しく食事を強制的に終了させたシャルローネに服を掴まれ、引き摺られていくジェイドとその後ろをトボトボと着いていくアンネ。どうやら彼女にとっても特別授業というものは中々辛いもののようだ。


「……他人事みたいな顔してるが、お前らにはこれから俺の授業を受けてもらうからな?」


 アーヴィングの言葉に、引き摺られていくジェイドを笑いながら見送っていたカチュアとエリスの笑顔が凍る。


「そんなぁ……」

「こんな事態になったとはいえ、お前達は学生だからな。しかし、教材がないのもまた事実」

「そ、そうだよね!? じゃあボクはクスリの調合があるから馬車に……」

「そこでだ。より実践的な特別授業を行おうか」


 ニヤリと笑うアーヴィングの顔が焚き火の照り返しもあってか酷く不気味なものに見えて、クロウはこっそりと腰の銃に手を伸ばし充填を開始する。


「俺に一撃入れられたヤツから授業は終わりだ。最後まで残っていたヤツは……」


 アーヴィングの言葉を遮り至近距離から発砲するクロウ。それを合図に始まった特別授業は深夜まで続くのだった。


 

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