第34話

 魔物の死骸の処理に思った以上の時間がかかってしまい、結局そのまま一夜を過ごす事になってしまったクロウ達一行。ジェイドと見張りを変わったばかりのアーヴィングは目をこすりつつ、懐から地図を取り出すと地面に広げた。


「……どうした? お前に見張りの予定はないだろう?」


 背後から聞こえた足音にアーヴィングが振り返りもせずそう問いかけると、足音の主、シャルローネは面白くなさそうな表情を浮かべアーヴィングの隣に腰を降ろした。


「相変わらず、からかい甲斐のないヤツだねぇアンタは」

「うるせえよ。で? 何か用か?」

「エリスっていったかねぇ。あのコの事、教えな」

「なんだ? クロウだけじゃなくてサハリンまで手篭めにする気か?」


 くつくつと笑うアーヴィングをシャルローネはじろりと睨みつけ、わき腹を小突く。


「茶化すんじゃないよ。それにしてもサハリンねぇ。実子なのかい?」

「あん? そんな事俺は知らんよ。何でそんな事気にするんだ?」

「アタシの記憶違いじゃなければ、伯爵家あの家に子供はいない、いや、出来ないはずなんだよねぇ」

「……どう言う事だ?」

「だいぶ前、イラト師匠が現役だった頃に、子供がなかなか出来ない伯爵夫婦が相談に来た事があったのさ。その時確か伯爵に呪いがどうとか言ってたような気がしてねぇ」

「ふーん。……おい、まさか俺に真相を調べろなんて言うんじゃないだろうな? 冗談じゃねえぞ? 俺の首が飛んじまう」


 嫌そうに顔を顰め首を掻き切る動作をするアーヴィングに今度はシャルローネがくつくつと笑って見せた。


「あら、アンタの首一つで済むんなら安いもんじゃないか」

「安かねえよ!」

「でも、気にならないかい? もし、種が外から用意されたものだとしたら一体誰のものなのか? 娘のあのコがアレだけの魔術が使えるんだ、父親も相当凄腕の魔術師だと思うんだよねぇ」


 楽しそうに想像を膨らませるシャルローネの頭を軽く叩くと、アーヴィングは木の枝を焚き火の中に放り込む。


「……間違ってもサハリン本人の前でそんな話すんじゃねぇぞ」

「おーおー、教師ぶっちゃってぇ」

「教師だからな!」


 フンスと鼻息を吐き出すとアーヴィングは地面に広げていた地図の上に指を走らせ、ベプと書かれた地点をトントンと叩く。


「明日はこのベプの街に向かおう。ここで食料の補充をしたら、あとは予定通りキャランベを目指す」 


 ベプの街。そこは平民も気軽に入れるとして人気の温泉街。もっとも、その人気は平民だけに留まらず貴族にももちろん人気でベプの街に別荘を持つのが一種の自慢にもなっていた。ベプに立ち寄ると聞いてシャルローネはキラキラと目を輝かせる。


「いいねぇ。ついでに……」

「温泉には寄らんぞ」

「えぇー!? そんな事言わずにさぁ……」


 不満気な声を出しつつアーヴィングの腕にシャルローネがその豊満な胸を押し付けると、アーヴィングは形を変えたその塊から慌てて目を逸らす。


「……よ、寄らないからな」


 彼の顔が赤く染まっているのは、きっと焚き火の照り返しの所為だけではないだろう。

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