第33話

 そこら中に転がる魔物の死骸を淡々と解体して魔石を取り出しながら、シャルローネは身体をぶるりと振るわせる。エリスの暴発した魔術の威力は凄まじいの一言だった。暴発させることなく、この威力の魔術を使いこなせるようになればエリスという存在は各国にとって、いや、帝国にとっても脅威となるからだ。


 シャルローネが魔石を取り出す一方でアーヴィングは彼女が解体した魔物の死骸をエリスの魔術によって大きく窪んだ地面に投げ入れていく。魔物を倒した後はその死骸は焼却しなければならない。死骸を放置してしまえばその血肉の匂いに惹かれ別の魔物が寄って来てしまうからだ。もっとも、傭兵の中にはこうした処理にかかる手間と時間を惜しみ放置してしまう連中も中には居るのだが。


 解体された魔物の尻尾を掴んで引き摺りながらアーヴィングは人知れず溜息を吐き出す。魔物と遭遇し、それを撃退できたのは喜ばしいのだが、それは新たな問題を生み出していた。ロンバルディアからキャランベまでは数日かかる。それを計算した上で食料を準備していたのだが、その食料は先程クロウが大半を捨ててしまった為に途中で食料を補充する必要が出てきた。アンネの密航といいこうも予定通りにいかないものかとアーヴィングは本日何度目になるかも分からない溜息と共にガシガシと頭を掻き、手にくっついてきた真っ赤な抜け毛に頭頂部が薄くなった同僚を思い出す。彼のように頭頂部の薄くなった未来の自分を想像したのか、アーヴィングは引き摺っていた魔物の死骸を窪みへと乱暴に放り投げると、ビルポケットに戻ったら錬金術の教師に育毛剤の開発を依頼しようかなんて事を考えていた。


 シャルローネが取り出した魔石はクロウとジェイドによって馬車へと運ばれる。馬車の中では次々と運ばれてくる魔石に付いたままの魔物の血を拭き取りながら、カチュアがその顔を崩していた。カチュアは鼻歌交じりに一際大きな魔石へと視線を向けると、ニマニマと笑みを深くする。彼女が設計していた魔道具を完成させるためにはどうしても通常よりも大きな魔石が必要だった。それをどうやって手配するかに頭を悩ませていたカチュアだったのだが、先程の群れを率いていた魔物のおかげでクリアー出来た。完成した魔道具とその後の事を妄想しカチュアの口からデロリと一筋涎が垂れる。エリスとアンネはその表情にドン引きしながら同じように血を拭き取っていくのだった。

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