第30話 アライド領へ

 昼食を終えたクロウ達は一路アライド領を目指していた。馬車の手綱を握るアーヴィングはしかめっ面のままチラリと幌馬車内へと視線を向け、溜息を零す。密航者アンネの処遇についてシャルローネと揉めた結果、アライド領の都市『キャランベ』まではアンネを同行させる事となってしまったのだ。


 アーヴィングがアンネの無駄に高い行動力に頭を悩ませている一方でカチュアの隣に腰を降ろしたアンネは、カチュアが設計している新しい魔道具の図面を興味深そうに眺めていた。


「カチュアだっけ? 貴女凄いわね、その歳で魔道具の設計が出来るなんて!」


 アンネはカチュアを抱きしめ、その頭を幼子を褒める様に撫で回す。どうやら彼女はカチュアの事を自分よりも年下だと思い込んでいるようだ。カチュアは抱きついてくるアンネの身体を迷惑そうに押しやると頬を膨らませじろりと睨む。


「もー! 皇女サマ、邪魔! それに、ボクはクロウ達と同い年なんだから子ども扱いしないで!」

「そうなの!? じゃあ私とも同い年じゃない! ねえ、私と友達になってよ!」


 邪険に扱われたアンネは気を悪くするどころか嬉しそうに顔を綻ばせると、再びカチュアを抱きしめた。カチュアは煩わしそうに顔を顰めると身体を捩りアンネの拘束から抜け出し、彼女の顔を見据える。


「……クロウとはどういう関係?」

「クロウ? 友達だよ? 良い人だよね、昨日事情も知らないのに私を助けてくれたから気に入っちゃった」


 クロウが良い人というのには共感できるがその結果、こうして皇女が密航してくるまでに気に入られたという事実にカチュアは微妙な表情を浮かべると、その視線をシャルローネへと向ける。


「ところでシャルローネの胸アレをどう思う?」

「すごく……大きいわね……もげればいいのに」


 アンネの答えにカチュアは彼女の手を握り締めると満面の笑みを浮かべた。


「皇女サマ、ボク達は友達だよ!」

「嬉しい! じゃあ私の事はアンネって呼んで?」

「アンネ!」

「カチュア!」


 ヒシっと抱き合う少女達。そんな二人に生温かい視線を向けながらシャルローネは思う。共通点があるとこうも容易く打ち解けられるものなのか、と。


 部分的に成長のよろしくない二人カチュアとアンネが親交を深めていた、その頃。斥候として一人先行していたクロウは無残に破壊された馬車と目を背けたくなるような光景を前に、思わず口を押さえその場に蹲る。夥しい血痕と食い散らかされた、かつて人間だったモノ。それ等が意味する、この場所で誰かが何かに襲われたという事実を伝えるためにクロウはこみ上げてくる吐き気を堪え立ち上がると、踵を返し駆け出した。茂みに身を潜め、クロウの様子をジッと覗っていた異形の存在が居た事に気付く事無く。

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