第24話 クロウと少女

 何処をどう走って今自分が何処に居るのかさえ、クロウにはわからなかった。先程の少女を追ってみたはいいものの、なんせクロウには土地勘がない。あっという間に見失った少女を探しながら、それでもクロウは走る。迷子になんかなってない、ちょっと寄り道しているだけだと自分に言い聞かせながら。


 そもそも先程の少女がなぜ強面の男達に追われているのかなんてクロウは知らないし、一目惚れしたから追いかけているわけでもない。クロウが育った港街はお世辞にも治安がいいとは言えなかった。そんな街だから路地裏に連れ込まれ襲われる女性もいたし、時には男だって襲われたらしい。その街で一度だけ奴隷として売られていく人間を見たことがあった。その時見た全てに絶望したかのような瞳の少女の顔がふと頭を過ぎったのだ。ただの自己満足にしか過ぎない自分の行動を、あの頃の自分が見たらなんて言うだろうなんて考えながら路地を曲がると、見つけた。


 時折後ろを振り返る少女はクロウには気付いていないようだ。体力的にも限界だったのだろう、少女の走る速度は徐々に落ちていき、ついには立ち止まってしまった。クロウは舌打ちと共に身体強化を発動させると、今まさに男達に捕まろうとしている少女を肩に担ぎ上げ男の股間を蹴り上げる。白目を剥いてその場に蹲った男を踏み台替わりにして民家の屋根に飛び乗る。連れの男がなにやら喚いているのと、飛び乗った拍子に屋根が変な音を立てたのを聞かなかったことにしてクロウは走り出した。


「ちょ、ちょっと! 何すんのよ!?」

「さっきの奴らに追われてたんだろ?」

「はぁっ!? あ、そう! そうなのよ! 助かったわ!」


 肩に担いだままの少女にべちべちと何度も背中を叩かれ、クロウは顔を顰めながら屋根から屋根へと飛び移る。


「もうちょい離れたら降ろすから、おとなしくしてろって! 舌噛んでもしらねえぞ?」

「だったら運び方変えなさいよ!」

「やだ。めんどくせー」

「あんたねぇ! あ……ちょっと待って。ホントに一回止まって……」

「もうすぐ降りるって」

「いや……そうじゃなくて……あ……もう……むり……」


 クロウはこの後死ぬほど後悔する事になる。少女の言葉に従い止るべきだったと。そして二人は知らない。この日、たまたま寝付けなくて窓から外を眺めていた少年が居た事を。少年は後に語る。妖精がキラキラと光の粒を振りまきながら夜空を駆けていたと。その光の粒の正体が一体なんだったのかはクロウと肩に担がれたままの少女以外誰も知らない。

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