第21話 アーヴィングとクロウ
アーヴィングとシャルローネが城から戻った数時間後。
屋敷の中庭ではアーヴィングとクロウの訓練が行われていた。
「ったく、このアホが」
アーヴィングのその言葉と共に上段から振り下ろされた木剣を半身になって避けると、クロウは逆手に持っていた木製の短剣をアーヴィングの首目掛け振りぬく。
アーヴィングがそれを身を屈めて避けお返しとばかりに木剣を突き上げると、クロウは舌打ちと共に後ろへと跳んでかわす。
「っるせーなー。一応反省してるかもしんねぇって言ってんだろ」
距離を取ったクロウに反撃の隙を与えまいとアーヴィングが肉迫すると、クロウは短剣を逆手から順手へと持ち替え鍔迫り合いへと持ち込む。
「かもってなんだ。かもって。ちゃんと反省しろ!」
「でも後悔はしていない!」
決め顔でそう言ったクロウに呆れながらアーヴィングは木剣から左手を離しクロウの襟を掴むとそのまま足払いをかけ、地面に倒れたクロウの眼前に木剣を突きつける。
「お前らの所為で下げたくもねぇ頭下げるこっちの身にもなれってんだ」
訓練は終了とばかりにアーヴィングが木剣を肩に担ぐと、控えていた数人のメイドが駆け寄りアーヴィングにだけタオルを渡す。
シャルローネの屋敷に普段若い訪問者が無いからだろうか、メイド達はこの機を逃すまいと競うようにして世話を焼いていた。
とはいえ彼女達にとって学生であるクロウとジェイドの二人は眼中に無いらしく、その標的はアーヴィングだけに絞られているのだが、当のアーヴィングとしては鼻息荒く寄って来るメイドに恐怖すら覚えているのが現状である。
汗を拭いたタオルを引っ手繰るように受け取ったメイドの口の端から涎が垂れているのをきっと見間違いだと自分に言い聞かせ、アーヴィングは真面目な顔でその場にしゃがみこむと地面に寝転がっているクロウを見据える。
「お前はもう少し我慢ってモノを覚えるべきだな。お前に身体強化を教えたのはつまらん喧嘩の為じゃねえんだぞ」
「んだよ、また説教か……」
「説教ついでに聞かせろ。お前、卒業したらどうするんだ? 軍にでも入るのか?」
「お次は進路相談かよ。
クロウはげんなりとした表情を浮かべ、グイッと両足を顔の近くまで近づけると勢いよく振り下ろし、その反動を利用して立ち上がる。
「先の事なんて、まだ何も考えてねぇよ」
尻についた砂を払い落とすクロウの視線の先で、エリスとカチュアが廊下を歩いているのが見えた。
そういえばエリスとカチュア、それからシャルローネの三人で風呂に入るといっていたな、なんて考えながらぼんやり眺めているクロウに気がついたのか、やたらご機嫌そうに手を振ってくるエリスにクロウも手を振り返す。
エリスと対照的にカチュアは機嫌が悪そうだ。
出来ればこういう時のカチュアには近づきたくないクロウだったが、そうはいかないらしい。
カチュアがエリスの静止も聞かずに窓を乗り越え、クロウ達に向かって駆けて来ているからだ。
「俺の進路相談よりも、
「……俺にゃ荷が重いよ。きっとメイドさん方が何とかしてくれるさ」
諦めた様に漏らしたアーヴィングの言葉から逃げるように、メイド達はそそくさとその場から立ち去っていくのだった。
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