第19話 皇帝と皇后
クロウ達がドロワの生徒達相手に大暴れしていたその頃。
城へと赴いたアーヴィングとシャルローネは衛兵に案内されながら、カルータスの森の調査報告をする為に皇帝の執務室へと向かっていた。
本来なら謁見の間での報告となるのだが、皇帝自身が執務室での報告を希望した為こうして執務室に案内される事となったのだ。
それはシャルローネにとっても好都合だった。
謁見の間での報告となると、頭の固い騎士団の団長やら己の利権を優先する貴族なんかの横槍で話がこじれる事が簡単に予想できてしまうからだ。
案内役の衛兵が執務室の扉をノックすると僅かな間の後に入室を許可する声が聞こえてきた。
その声に従い衛兵が扉を開け、アーヴィングとシャルローネが入室するがそこに皇帝の姿は無く、黒いドレスを着た女性が笑顔で佇んでいるのみ。
「陛下、お戯れはお辞めください」
呆れたように息を吐きつつアーヴィングが振り返ると、開いた扉の陰に隠れていた壮年の男性がつまらなそうに姿を現した。
「んだよー。少しぐらい驚けよなー」
砕けた話し方ではあるがこの男がドーマン帝国皇帝ギルバート・ジ・ドーマンである。
「陛下、その口調は……」
「お前まで硬い事言うなよー」
アーヴィングの苦言を気にする事無くギルバートはアーヴィングの肩に手を回すと、悪ガキっぽい笑みを浮かべる。
そんな二人を笑みを浮かべながら見守る黒いドレスの女性はエリナ・リ・ドーマン。
「ほらほら、二人とも。それくらいにしないと、
ギルバートの正室であり、また、アーヴィングの姉でもある。
エリナに愛称で呼ばれたシャルローネはというと我が物顔でソファーに座り、テーブルの上にあった菓子を頬張りながら、お構いなくとばかりに手をヒラヒラとさせていた。
エリナは庶民出身ではあるのだが、隣国との戦で武勲を挙げ、その功績により騎士候に叙されたあと、当時皇帝の座に就いたばかりのギルバートへと嫁いだ。
と、いうのが公式な発表ではあるのだが、事実は少々違う。
若かりし頃お忍びで何度も街へと繰り出していたギルバートがとある事件をきっかけに知り合ったエリナに惚れ、度重なる求婚の後に結婚したというのが真相である。
しかし、武勲を挙げ、騎士候に叙されたのも事実。
その剣の腕はギルバートを凌ぐとも言われ、プライベートでの力関係は完全に逆転していた。
だからというわけではないが、ギルバートは側室を迎えて居ない。
もっとも、子沢山な上に彼等の夫婦関係は側仕えの者達が砂糖を吐きそうな表情になるほど良好なのだから、側室の必要は無いのだが。
「とにかく、まずは報告を聞いてください……」
ギルバートの拘束から抜け出しシャルローネの隣に腰を降ろしたアーヴィングは、そう言って疲れたように息を吐き出すのだった。
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