第18話 問題児達、やりすぎる
「ひ、怯むなぁ! 相手はたった四人だ!」
クラスのまとめ役、マーカス・レイヴンが先程のクロウの攻撃により完全に浮き足立ってしまった級友達に向け叫ぶ中、今また一人、魔術の使える生徒がクロウに顔面を殴り飛ばされ戦闘不能になった事を、彼は知らない。
「先に相手の後衛を潰す! 近接戦闘の出来る者は僕に続っ!?」
木剣を抜き放ち、高々と掲げながら級友達を鼓舞していたマーカスの言葉は、不意に背後から襲ってきた衝撃に遮られた。
受身も取れないままうつぶせに地面に倒れたマーカスが、自分の足が誰かに掴まれている事に気付き慌ててそちらに顔を向ける。
マーカスの足を掴んでいた犯人は暑苦しい笑顔を浮かべると、力任せに彼の身体を振り回し始めた。
「や、やめぇぇぇぇぇぇええ!?」
遠心力によりマーカスの手からすっぽ抜けた木剣が水の魔術を放とうとしていた女子生徒にぶつかり、暴発した魔術が周囲に居た生徒達をずぶ濡れにする。
楽しげな笑い声を上げながら回転するジェイドから、なんとかマーカスを救出しようと機会を覗う数人の男子生徒達。
そんな彼等の胸当てに、剝き出しの手に、口元に次々と異臭を放つ液体が付着していく。
それが何処から飛んで来たのかを理解した彼等の顔は青褪め、我先にとマーカスから距離を取り始めた。
逃げる彼等を新しい玩具でも見つけたかのようにマーカスの身体を振り回しながら追うジェイド。
「クロウ!! ジェイド!!」
口から液体を飛び散らせるマーカスとそれを振り回すジェイドにより阿鼻叫喚の様を呈す中、カチュアは両足の太腿にくくりつけ隠し持っていた、液体の入った試験管を両手で一本ずつ掴むと生徒達に向かい放り投げ、二人の名を叫んだ。
それにあわせるようにエリスも魔術を発動させるために精神を集中させる。
放物線を描き飛来する試験管に危機感を感じたクロウが身体強化を発動させ、集団から抜け出すとほぼ同時に、空中でぶつかった二本の試験管が割れたその瞬間。
割れた試験管から溢れ出た毒々しい色の煙と、更に追い討ちとばかりにエリスが魔術で発生させた刺激臭のする霧が集団を包み込んだ。
「あっぶねー。お前らなぁ、もうちょい仕掛けるタイミングってモンを考えろよな」
「まあまあ、いいじゃん。ちゃんと避けれたんだしさー」
文句を言うクロウにニシシっと笑いながらカチュアが返す中、エリスは一人キョロキョロと辺りを見回していた。
「ねえ、ジェイドは?」
「あ?」
「え?」
三人は一度顔を見合わせると散りつつある煙の方へと視線を向ける。
「かゆい! 痛い! かゆい! 痛い! ちょっ! 何これ!? どうなってんの!?」
まるで虫にでも刺されたかのようにいたるところが赤く腫れあがり、おまけにエリスの使った刺激臭のする霧のせいかボロボロと涙を流しながら煙の中から飛び出してきたジェイド。
どうやら逃げ遅れたらしい。
「これは俺達の勝ちってことでいいのかねぇ?」
完全に晴れた煙の中から現れた無惨な姿の生徒達を見ながら呟いたクロウの言葉に返す者は誰も居なかった。
この訓練は後に『リブールの悪夢』としてドロワ学術院において語り継がれる事になるのだが、それはまた別のお話。
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