第17話 クロウ、攻撃開始する

 ドロワの生徒達に続き、彼等が入っていくのと同じ部屋に入ろうとするクロウ達をダンケルが直前で呼びとめ、クロウ達は半ば強制的にその一つ手前にある、使い古された訓練用の木剣やボロボロの胸当てなどが置かれた部屋に押し込められた。

 それぞれがいつも訓練で使用する武器を手に取り具合を確かめる。


「おいおいこの銃、充填に時間かかりすぎだろ……」

「……くっさ! ここの奴ら、こんなモン着けて訓練してんのかよ」

「ねえカチュア、この防具……着ける?」

「んー、ボクは遠慮しとくよ。なんか後でかゆくなりそうだし」


 クロウは充填の遅さに呆れ、ジェイドはガントレットから漂う異臭に顔を顰め、エリスとカチュアはシミだらけの防具を触ろうとすらしない。

 質の悪さに文句を言いつつ、廊下側とは反対の扉をくぐり外へ出たクロウ達を待っていたのは、準備万端とばかりにきっちり胸当てに兜まで着けたダンケルのクラスの生徒達。

 

「皆自慢の生徒達でね、誰かを選ぶなんて私には出来ないよ」


 悪びれもせずそうのたまうダンケルにクロウ達は開いた口が塞がらなかった。

 整列し彼等の着けている胸当ては新品同様に輝き、クロウ達が押し込められた部屋にあった廃棄品同然の装備とは雲泥の差だ。

 おまけに圧倒的な人数差は分が悪いどころの話ではない。


 どうにか同じ人数での勝負に持ち込もうとエリスが頭をフル回転させていると、集団の中から一人の生徒が歩み出た。


「先生、これではただの弱いものイジメになってしまいます。どうでしょう、せめて彼等に先制攻撃のチャンスを与えてみては?」

「ふむ、それもそうだな。では、キミ達から攻撃したまえ。それを訓練開始の合図としよう」


 余裕綽々といった表情を見せるダンケルに向かいクロウは獰猛な笑みを浮かべると、爪先で地面を数回叩く。


「そんじゃあ、お言葉に甘えてっ!!」


 エリスが止める暇なく、一瞬にしてクロウの姿が消える。

 生徒達の顔が驚愕に染まる中、クロウの姿を見つけたカチュアがクロウが次に起こす行動を予想し、僅かに隙間を空けた自分の手で目を覆う。

 カチュアから遅れたものの、クロウを見つけたジェイドの顔が青く染まり、思わずキュッと尻に力が入る。 

 身体強化によって移動したクロウは身を屈め、両手を組んで左右の人差し指を立てると弓の弦を引くように自分の身体を引き絞り、狙い済ました一点へと向け指を突き出す。


「アッーー!」


 おそらくは彼の人生で味わった事がないであろう衝撃に、意味不明な叫びをあげたダンケルは白目をむき、口から泡を吹いて倒れた。

 

 未だに何が起こったのか理解が追い付いていない様子のドロワの生徒達の視線を集めたクロウはニヤリと笑い、立てたままの指にフッと息を吹きかける。


「さあ、次はどいつだ?」


 こうして圧倒的な人数差のまま、訓練の火蓋は切って落とされたのであった。

 

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