第15話 問題児達、帝都へ行く

 ビルポケットを出発した一行の旅路は一人の少年を除けば穏やかなものだった。

 腰にロープを括り付けられたクロウが、斥候として馬を駆り先行するアーヴィングに無理矢理走らされている以外は。

 

「ちょちょちょ! もう無理! マジで無理だって!!」

「あーん? 無理って思うから無理なんだよ。ほれ、イッチニー、イッチニー」

 

 この訓練は魔力の効率的な運用をクロウに身体で覚えさせる為のもので、決して先日の騒動の腹いせに行っているわけではない。

 周囲の者達からすればただのイジメにしか見えない訓練ではあったが、ビルポケットを出発したその日よりも確実に、身体強化の持続時間は延びてはいる。

 延びてはいるのだが、この扱いに納得できるかと問われればクロウは即座に否と返すだろう。


 アーヴィングが駆る馬の速度を徐々に落としていき、小高い丘の上でその脚を完全に止めると、汗まみれの身体でぜーぜーと荒い息を繰り返しながら、アーヴィングの隣に立ったクロウは眼下に広がる景色に目を輝かせた。


「……すっげー」


 広大な湖の中に作られた、ビルポケットの数倍はありそうなその都市は皇帝の居城を中心に円を描く四つの城壁に囲まれ、中央に近ければ近いほどそこに住む者は権力を持つとアーヴィングは語る。


 その後、後続の面子と合流したアーヴィングとクロウ。

 帝都を目にしたジェイド、エリス、カチュアの三人の反応がクロウと同じだったことは言うまでもない。


 帝都『ロンバルディア』へと入ったクロウ達を乗せた馬車は護衛の兵士、調査隊の隊員と別れ中央に程近い貴族達が住むエリアへと向かう。

 今日はこのままシャルローネの実家で一泊し、明日アーヴィングとシャルローネは城へと赴き、クロウ達四人はロンバルディア内にある学術院『ドロワ』へと向かう予定だ。

 リブール学術院学長マルコの出したクロウ達同行の条件の一つが、帝都滞在中はこのドロワへと通う事。

 マルコはこれを機に疎遠になりつつあるドロワとの交流を再開できればと考えていたのだが、アーヴィングとしては問題児達を送り出す事に嫌な予感しかしない。

 騒ぎを起こしてくれるなよと願うアーヴィングは与えられた一室で溜息を吐きつつ、意識を手放すのであった。

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