第13話 来訪者
一日の授業が終わり、校門を目指し歩くクロウ。
その表情は酷く沈んだものだった。
カチュアとしてしまった一週間昼食を奢るという約束の所為だ。
カチュアはとにかくよく食う。
あの小さな身体の一体何処に入るのだというほどに。
クロウはズボンのポケットから財布を抜き出し、仕送り直後で今は膨らんでいるこの財布も一週間後には薄い物へと変わるのかと思うと、盛大な溜息を吐き出した。
「おーい、そこの少年」
校門を出てすぐかけられた声に、クロウは陰鬱な顔を向けた。
そこに居たのは金色の髪に褐色の肌をした美女。
やたらと主張の激しい女性の一部に思わず釘付けになっているクロウの視線に気付いた女性はイタズラッぽい笑みを浮かべると、さらにそこを強調するように腕を組み持ち上げて見せた。
「ここの学長に用があるんだ。だからさ……」
女性は一度言葉を切り、クロウに近づくとその耳元にそっと唇を寄せた。
「中にイれてくれない?」
囁かれた言葉と女性の吐息に前屈みになってしまいそうになるクロウ。
男の子だからしかたない。
「ほらほら、キリキリ歩く!」
「ちょ、ちょっと!?」
反応に満足したのか女性はクロウから離れるとその腕を掴み、返事も聞かないままクロウを引き摺ずるように歩き出した。
美女に腕を掴まれたままの自分へと向けられる男子生徒達の視線にクロウは辟易しながら暫し歩き、学長室の前に着くと女性はクロウの手を離し、ノックもする事無くその扉を開け放った。
「邪魔するよー」
ズカズカと足を踏み入れてきた女性に学長は少し困った顔で頭を掻き、彼の机の前で直立していたアーヴィングは呆気に取られた表情を見せた後、あからさまにその表情を歪める。
そんなアーヴィングの事などお構い無しに女性は歩を進めると学長室の中央に誂えられた応接用のソファーにドッカリと腰を降ろした。
「久しぶりだねぇ、アーヴィング」
片手を挙げながら挨拶してきた女性にアーヴィングは一言文句でも言ってやろうかと口を開きかけたものの、ギロリとその視線を扉の先で立ったままのクロウに向けると、ツカツカと足早にそちらへと近づいていき乱暴に扉を閉めた。
「おやおや、労いの一言くらいかけてあげればいいのに」
「うるさい、黙れ」
不機嫌さを隠そうともしないまま女性の対面に腰を降ろしたアーヴィングに学長はただただ頭を抱えるのであった。
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