五章

第38話

 夏が過ぎ、秋がくる。


 四季の移り変わりはあっという間だ。深緑だった木々に赤と黄色が現れだす。

 しかし、暑さはいまだにしぶとく残り続けていた。


 ひりつく日光が空に輝いている。暑い日差しを受けながら、陽一はトラクターに乗っていた。


 黄金色になった田んぼ。収穫期を迎えた田んぼは、思い実をつけた稲穂が頭を垂れている。


 整然と並んでいる稲穂を、陽一の操るトラクターが刈り取り、タンクの中へ飲み込んでいく。


 レイと勇者は英子と一緒に、田んぼの四隅の稲を刈り取っていく。


 レイは腰を伸ばす。固まった筋肉が弛緩して骨がなる。

 昨年に引き続きの作業。レイはため息をつきながら、勇者と英子を見た。


 勇者は右側に、英子はレイの正面で作業している。刈り取った稲は畔に並べていく。あとでトラクターに飲み込ませるのだ。レイもまた畔に幾つかの稲をまとめている。


 タンクが一杯になると、陽一はトラクターを操作し軽トラの元へと向かう。

 軽トラの荷台にはもみを入れるコンテナが積まれている。


 トラクターを軽トラの近くに止めて、送出パイプをコンテナに伸ばす。

 スイッチを入れるとパイプが振動し、籾がコンテナに流し込まれる。


「これが終わったら、一度休憩しよう!」


 陽一が声を張り上げる。

 レイはうなずくと英子と勇者にも合図を送った。


 英子が軽トラを操り、車庫の内部へと向かう。


 レイは先に家に戻り、冷蔵庫から麦茶の入ったビッチャーを取り出す。

 食器棚からコップと茶菓子を用意して縁側に持っていく。


「ありがとうな、玲ちゃん」


 陽一はにこりと微笑みながら縁側に座る。

 麦茶をコップに注いで口をつける。勇者は陽一の隣に腰を下ろして、同じように麦茶をすする。それから英子もやってきて、陽一の隣に座った。


「西側をやって今日は終わりにしよう。あともう少しだから、二人とも頑張ってな」


 陽一は勇者の肩を叩き、レイを見る。

 二人は愛想笑いをしたが、疲れた表情を隠すことはできなかった。


「無理はしないこと。できると思った範囲だけやってくれればいいからね」


 英子は煎餅を頬張りながら、レイと勇者を見た。

 英子は慣れているとあって、あまり疲れているようには見えない。力の抜きどころ、頑張りどころを心得ているからだろう。


「英子、あとで車回しておいてくれ。先に行っているから」


 煎餅を麦茶で流し込み、陽一は再び田んぼへと向かった。


「貴方たちはもう少しゆっくりしてていいからね。あそこが終わらないと次に入れないから、まだ時間はあるわ」


「アリガトウ、エーコ」


「いいのよ。気にしないで」


 英子の手がレイの頬に触れる。

 暖かい手。レイは笑い、彼女の手に自分の手を重ねた。


「さて、じゃあ行くわね。勇者君も休んでくれていいからね」


「ありがとうございます」


 英子は勇者の肩を叩いて、陽一の後をおった。


 しかし、すぐに彼女は引き返してきた。

 その表情は青ざめ、不安をありありと表している。


「ゆ、勇者君……ちょっと……」


 嫌な予感がした。

 勇者はジャージ姿のまま英子のもとへ歩み寄る。

 レイも勇者の隣に立って、同じ方へ視線を向けた。


 英子は坂の方を指差している。

 空間が裂けている。転移門だ。あちらから誰かがやってくる。


 注意深く様子を見ていると、転移門から兵士が現れた。

 足を引きずりながら、背中に弓矢を射したまま。

 傷を負った兵士が歩いていていた。

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