第27話
座敷に集まった勇者と魔王の両陣営。
魔王側。ジャンとレイの総勢二名。しかし全く物怖じをせず、勇者側を睨み付けている。
勇者側、勇者と兵士、並びに魔術師。複数の人間が魔王側を睨み付けるが、威圧感を感じさせるのは、勇者ただ一人。他は虚勢と虚栄心によって、眼光を鋭くさせているだけである。
佐々木夫妻はレイ達の背後に控えて、会議の成り行きを見守っている。
「休戦にしろ、だと?」
勇者が眉間にシワを寄せる。
「そうです。我々と貴方達との戦いを、一旦棚にあげて欲しいのです」
ジャンは表情を変える事なく、言い放つ。
「お前の言葉を、信じられると思うのか?」
「信じるも何も、私どもは転移魔法を使うことができません。そちらの世界に戻ることは、自力ではどうにもできないのですよ」
ジャンはそう言いながら、佐々木夫妻にわかるように、日本語で補足する。
「元の世界へ戻ることができない。つまり、そちらに危害を加えようと思っても、できないのが、我々の現状です。私たちの意思では、戦争をやりたくてもできないのです」
「だから、休戦だと。そう言いたいのか」
「ええ。そうです」
「……それは、魔王も望むところなのか?」
勇者の目が、レイを見る。
「……私の目的は、私の父を殺した人間を殺すこと。それが、貴方達の王様だったけれど、その人を殺した時点で、本来は目的を達成していたの。まあ、それで戦争の火蓋がきられたことは、私も理解しているわ」
「そんな事を聞きたいわけではない。お前は、本当に休戦を望んでいるのか」
「ジャンがさっきも言った通り、私たちは次元を超える方法はない。戦いたくても戦えない状態にある。その点は認めているところよ。だから、休戦にすることは、私も賛成している」
「ここで戦いたくなければ、我々が転移をさせて、元の世界で戦えるぞ」
「待ち伏せをしているかもしれないのに? わざわざ自分の首を差し出すほど、私が死にたがっているように見えるかしら?」
「俺は、すぐにでもお前を殺したいがな」
「私もよ。アレンの仇も討たなければならないし、この腕の借りも、まだ返してないからね」
つなげたばかりの腕をさすり、レイは勇者を睨みつける。
勇者と魔王の睨み合い。それまで比較的温和だった場が、サッと緊張する。
「くれぐれも、ここでの戦闘はお控えください」
そこへすかさず、ジャンが苦言を呈する。レイは鼻を鳴らして、視線をそらし、勇者は睨みを聞かせたあと、ジャンに視線を向けた。
「我々も戦火を広げたいとは思わない。だが、俺の一存だけでは判断が付かん」
「もちろん、この議題を持って帰っていただいても結構です。そう簡単に、話がまとまるとは考えておりませんので」
「では、返答は後日とさせてもらう。それでいいな」
「構いません」
ジャンの返事を受けると、勇者は再びレイを見た。
「だが、俺とお前の因縁は終わったわけじゃない。お前達がこちらに危害を加えないことと、俺の殺意が治るか否かは、別の話だ。お前だって、俺を殺したくてたまらないはずだ」
「ええ、もちろん。あの二人の前でなかったら、今すぐにでもお前の首をとってやりたいわ」
話はまとまりつつあったが、ここに来て再びの緊張が走る。
「血気盛んなのは構いませんが、ここでは平和を重んじてくださいませ。せっかく言葉を交わす機会に恵まれたのですから、喧嘩別れは避けてください」
「わかっている」
「ええ。わかっているわよ」
言葉と裏腹に、勇者とレイの睨み合いは続いた。
ジャンはため息をつく。
本当にわかっているのだろうか。
話し合いの場が血みどろの戦場にならない事を、ジャンはただ祈るばかりだった。
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