第21話

 レイモンドがアレンの家を突き止めた、そのきっかけは偶然に起因した。


 現在彼は食材の配達を仕事としており、街の各地を原付で回っている。

 仕事がら、顔馴染みになる客もおり、そうした人間から、世間話や噂話を聞いたりもする。


 そうした話の中に、あの廃墟の話題があった。


 廃墟の存在は、レイモンドは以前から知っていた。

 配達の間際。数回ほどその廃墟の前を通っていたからだ。


 事情と老人の特徴。

 姿を消した経緯などを聞いているうちに、それはアレンだったのではと、推測した。


 レイを案内する前に、事前にこの家を訪れた結果。あの文書を見つけたのだ。


 歩きながら、詳しい事情と経緯をレイは聞いていた。それから、しばらく考えに耽っていた。


「おかえり」


 佐々木家へと戻ってくると、縁側に英子が座っていた。

 彼女の隣には、恭子が赤ん坊を抱いて座っている。すっかり落ち着いたようで、赤ん坊は指を加えながら、すやすやと寝息をたてていた。


「散歩はどうだった?」


 英子が言う。


「……ヨカッタ」


 レイはわずかに頬を歪めて、言った。


「そう、いい気分転換になったみたいね。やっぱり、知っている人と一緒の方が、気が楽なのかもね」


 英子はレイモンドを見る。レイモンドははぐらかすように、頬をゆるめた。


「さて、もう直ぐ陽一さんも帰ってくるだろうし、お昼の用意、しちゃおうかしら」


 英子は縁側から立ち上がる。


「あっ、私も手伝いますよ」


 恭子が言う。


「いいのよ。貴女は赤ちゃんの面倒を見てあげなさい。玲ちゃんには、手伝ってもらおうと思うけど」


「大丈夫ですよ。旦那に面倒を見させますから」


 恭子はチラッとレイモンドを見た。彼は苦笑を浮かべながら、「おいおい」と呟いた。


「ぐずり始めたら、どうせ貴女を呼ぶ羽目になるのよ。男の人って、結構赤ちゃん相手だと頼りないんだから」


「それって、英子さんの経験ですか?」


「そうかもしれないし、そうじゃないかもね」


 英子は肩を竦める。


「まあ、こっちのことはいいから、夫婦水入らずに待ってなさいな。……玲ちゃんには、手伝ってもらおうかしらね。この前教えた料理、やってみて頂戴な」


 ちらと、英子はレイを見る。

 レイはうなずいた。


「そうですか? じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかしら」


「ええ。存分に甘えて頂戴。……玲ちゃん、行きましょうか」


 英子の後を追って、レイも玄関を潜る。

 靴を脱ぎ中に入り、キッチンを目指す。


 三十分をかけて料理を用意し、食器を並べていく。


 さあ、そろそろレイモンドたちを呼んでこようか。そう思った矢先、玄関の方から慌ただしく誰かが入ってきた。


「陛下……!」


 レイモンドだった。額に汗をかき、顔には焦燥が浮かんでいる。

 何かがあったらしい。それはレイにもわかった。


「勇者たちが、やってきました……!」


 レイは、手に持った茶碗を取り落とした。

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