三章
第18話
首都から一、二ヶ月をようして、ようやく目的地へとたどり着いた。
盆地。連なった山々に囲まれたそこには、鬱蒼とした森が広がっている。
「こちらです」
魔術師の老人が、ローブから骨張った腕を伸ばした。彼が先導するままに、調査隊は森の中を進む。
耳障りな虫の声。
聞いたこともない鳥の悲鳴。
風に揺られて、木々の葉っぱが怪しげに蠢いている。
薄暗い森の中は、どこもかしこも不気味だった。
「この辺りでしょう。魔力の反応は、このあたりから感じます」
彼らが立ち止まったのは、岸壁を思わせる巨大な岩石の前だった。
表面には苔が生え、巨岩の頂点にはみっしりとツタが這っている。
鳥の巣でもあるのか。
時折小さなさえずりが、巨石の上部から聞こえてくる。
調査隊は早速、その周囲の調査を始めた。
巨岩の影。
周囲の木陰。
土を堀り、地中深くまで調べていく。
しかし、出てきたものといえば積み上げられた土の山と、落ちた葉っぱだけだった。
「本当にここであっているのか?」
汗をにじませながら、調査員の一人が尋ねる。
「ああ。間違いない。ここだ。ここから、魔王の力を感じる」
魔術師はそう言ってはばからない。
「ここら辺は魔族もいないし、魔王の痕跡もない。場所を間違えたんじゃないのか?」
「いいや、ここであってる。もう一度、探してみてくれ」
「これ以上探しても、出てくるのは土塊だけだ。何もないんだよ、ここは」
調査兵の口調は、次第に荒々しくなっていく。
結果の出ない調査。それでも続けよという魔術師に対して、苛立ちを募らせる。
「ここに転移門を作ってみてくれないか?」
険悪な空気が漂い始めた時、勇者が口を開いた。
「ここに?」
調査兵は首を傾げる。
一体どうして、そんなことをするのか。そう言いたげに見えた。
しかし、魔術師は違った。
彼がそれを言うのを待っていたように、薄笑いを浮かべた。
「座標はいかがしましょう」
「ここと同じ座標だ。ただし、次元数値を一つずつ変えていく」
「次元数値を?」
調査兵の頭はますます混乱していく。
「次元数値は11まであると聞いたことがありますが、でも、3以外はどこにもつながらないはずでしょう。数値を変えたところで、あまり意味があるとは思えませんが」
「いいえ。つながってはおりますよ。ただ、その空間には何もないだけでね」
魔術師は少し得意げに言う。
「確かに3以外の座標は虚無に繋がることが多い。しかし、もしかすれば、この座標は虚無以外の何処かへ繋がっているかもしれない。膜の、向こう側の世界にね」
「やれるか?」
「ええ。幸い転移を使える魔術師は、私以外にもおります。時間はかかるかと思いますが、やれないことはないでしょうな」
「なら、やってみてくれ」
「かしこまりました」
魔術師はのかの魔術師たちを連れて、巨岩の前に立つ。
そして、呪文を唱え始めた。
「次元数値1からだ」
勇者の合図。その直後、巨岩に空間の裂け目ができた。
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