第13話

 人間と魔族の因縁は今に始まったことではない。魔族が誕生して以降、人間との争いは絶えずあった。


 争いの目的は様々にあった。

 魔族繁栄のため。

 私利私欲のため。

 人間の女のため。

 領土拡大のため。


 魔王が代替わりするごとに、争いの目的は変わっていった。内容は、人間のそれと変わりない。ただ、攻めいる側が変わってしまっただけのことだ。


 レイにもまた、目的があった。上記にあげた例よりも、もう少し個人的な目的が。


 レイの父は魔王だった。武力にも秀でていて、頭も回る。部下たちの信頼も厚い、立派な魔王だった。


 父は争いを好まなかった。先祖たちが繰り返してきた、人間との闘争を、父はキッパリとやめにした。そして、農耕と商売。人間との交易によって、魔族を反映させようとした。


 侵略以外での人間との交流は、魔族の有史以来、初めてのことだった。

 魔族たちからの反感は当然あった。弱腰の王、軟弱者、魔族の恥さらし……。そんな陰口を叩かれることも、しばしばだった。


 今にして思えば、父によって魔族は繁栄を得ることができたのだ。

 どれだけ批判を買おうと、どれだけ侮辱されようと。父は理想を叶えるために注力した。そんな父を、レイは好きだった。


 それは、父が久しぶりに自宅へと帰ってきた時だった。父の部下が家に押し入ってきた。額には汗を浮かばせて、息は乱れていた。


 父は私と母を奥の部屋へと移動させた。ヒソヒソと声を忍ばせて、二人は会話をしている。母は、会話の内容を聞かせないよう、私の耳を両手で塞いでいた。


 父がやってくる。その顔は緊張と不安が浮かんでいた。

 

 レイを守ってくれ。


 父はそう言って、家を出て行った。


 次の日。

 父が殺されたという知らせが届いた。


 人間によって、殺された。父の友人が教えてくれた。かつての魔王に家族を殺され、恨みのままに殺したのだと。


 母は悲しんだ。

 もちろん、私も。


 だけど、母のように泣き崩れる事はしなかった。ただ、父を殺した人間を、殺してやることだけを、考えていた。


 人間を許さない。父を殺したやつを許さない。

 この手で、必ず殺してやる。


 幼心に浮かんだ殺意。それは今でも、レイの心に燻り続けている。





 平穏な夜更に、ふとレイは考える。そして思う。おそらく魔族の人間の戦いは、永遠に続くのだと。恨みを忘れ、手を取り合わない限り、戦いは終わる事はないのだと。


 だが、だからと言ってこの見知らぬ土地で、新たに戦を起こそうとは思わない。


 ここがどこで、またどういう世界なのかはわからない。けれど、憎しみの連鎖のない世界で争いを起こすほど、レイは戦には飢えていない。


 明日もあるのだ。もう眠ろう。そう思いながら、彼女は目をつむる。

 私は、これからどうすればいいのだろう。目に見えない不安は、彼女の心を鷲つかむ。

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