第9話
ガラニア公国 首都ノース・ウィンストン。人口283万人。その大部分がロマノー人によって構成されている。コンクリートで舗装された道。レンガで構築された建物。通りに面して並ぶ商店、屋台。道を行き交う人々。賑わいが都市を彩り、活気が包む。
大通りを抜けていくと、この国の行政、政策、軍事を担う建物が見えてくる。
国家議事堂。レンガで作られた、三階建の建物である。建物は横に長く、多くの部屋を内包している。その一室に軍事関係者、並びに政治家貴族の要人たちが集まっていた。
彼らは部屋の中央にある円卓に顔を並べ、広げられた地図に目を落としている。
ドアが開け放たれ、兵士がやってきた。軍服。黒い生地に金色のボタン。肩には赤い布が当てられている。
「魔王の行方は、把握できたか」
ガトー・ジョンストン大将が視線を兵士に向けた。
白髪の坊主頭。金色の細い目。色白の肌と細面の顔。どこか爬虫類を想起させる男である。
「はっ。ご報告申し上げます」
「聞かせろ」
兵士はガトーの傍にいくと、報告書を見せた。
「魔術師たちに調査を行わせたところ、魔王の魔力反応を、ヴェスカニア地方アマラスにて発見したとのことです」
「未開の地か。隠れるにはうってつけか」
「現在調査団を編成しております。閣下の指示があれば、すぐにでも出発いたします」
「よかろう。すぐに向かわせろ」
「では、そのように。……それと、魔術師が妙なことをのたまっておりまして」
「妙なこと?」
ガトーは報告書から目を離し、兵士を見る。
「ええ。確かに魔王の魔力は、アマラスから感じてはいます。しかし、何か薄い壁のような物腰に、それを感じるのだとか」
「壁……?」
「魔王はそこにいるが、そこにはいない。魔術師が言うには、そういうことらしいのです。私自身、魔術にはてんで疎いので、彼らの言うことがよくわからないのですが……」
「確かに、妙な話だな」
報告書を円卓に投げる。
「魔術師たちも同行させて、その違和感を調査させろ。現地に着いたら、奴らの調査をお前たちも手伝え」
「わかりました」
踵を揃え、兵士は手に胸を当てる。それから、踵を返して部屋を後にした。
「……お前も行きたければ、着いていくといい」
ガトーは壁にもたれる男に目を向けた。勇者である。
「魔王を仕留め損なったのだ。この機会をチャンスと思えばいい」
皮肉げにガトーは頬を歪める。勇者はちらりと目を向けたが、表情を変えることはなかった。
「……言われなくても行くさ」
壁から離れると、ガトーに背中を向けた。
「今度こそ、魔王の首を持ってくるんだぞ。奴がいる限り、人類に平和が訪れることはないのだから」
「わかっている。今度こそ、殺してやる」
勇者はそう言い残して、部屋を後にした。
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