第6話
動揺するレイを宥めながら、レオナルドと陽一は、彼女を連れて佐々木家へと戻っていった。
「江口さん。悪いけどその娘、見ていてくれないかな。また道路に出られたんじゃ、危ないから」
「ええ。いいですよ」
「よかった。すぐ戻るから、ここで待ってて。今、お茶とお菓子を持ってくるから」
陽一は座敷に二人を残し、その場を後にした。
「お久しぶりでございます。陛下」
誰もいないことを確かめると、レオナルドはレイに向き直り、膝をおった。
「無事に、転移はできたようだな」
「ええ。五体満足。無事にこちらにくることができました」
丁寧に手を畳につけると、レイは額を畳につけた。
「陛下に対する無礼。ここにお詫び申し上げます。しかるべき罰はお受けいたします。なんなりと、お申し付けくださいませ」
「……無礼は忘れたわ。頭を上げてちょうだい」
レイは言う。しかし、その言葉の端端には、怒りが滲んでいた。
「ありがとうございます」
恐縮しながら、レオナルドは頭をあげた。
「お前はずいぶんと、この世界に慣れたようだな」
レイは言う。レオナルドの格好といえば、佐々木のそれとあまり変わりはなかった。
黒いタンクトップ。迷彩柄の黒いズボン。日焼けした浅黒い肌。赤かった髪は黒に変わり、金色の瞳も、深い茶色の目に変わっていた。
「擬態をしておりますから、そう見えるだけでしょう。もっとも、ここに二、三年も同じ場所にいれば、嫌が応にも馴染んでしまうでしょうが」
「……二、三年。お前がここにきて、もうそんなに経つのか?」
「ええ。その間も陛下のことを探していたのですが。お迎えが遅れてしまい、申し訳ありません」
レオナルドは、もう一度頭を下げた。しかし、レイの興味はもはや彼に向いていなかった。レイとレオナルドの間にある、奇妙な時間の差。その点に彼女の注意が向けられていた。
転移は便利な術であるが、それも失敗例に目をつむればの話だ。肉体のどこかが欠けることもあれば、設定した座標からずれることもある。また今のレイたちのように、時間が微妙にずれることもしばしばあった。
「いかがされましたか?」
レオナルドが心配そうに彼女の顔を伺った。
「いや、なんでもない。それよりも、ジャンはどうした。お前と一緒ではなかったのか?」
「ああ、あいつなら……」
「はい、お待たせ」
レオナルドの言葉を遮って、陽一が戻ってきた。麦茶の入ったコップ。袋菓子とリンゴを乗せた皿を盆に乗せて運んできた。
「この話は、またあとで」
レオナルドは目配せをすると、話を切り上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます