第2話

 佐々木家には蔵がある。


 節句の人形。

 結婚祝いの桐のタンス。

 百科事典。

 絵巻物。

 甲冑に刀剣。


 曽祖父。佐々木英志の集めた骨董品がしまわれている。見るものが見れば、値のついた品々ばかり。だが、所詮は物体でしかない。どれだけ歴史がついていようと。どれだけ値段がついていようと。衝撃を加えれば簡単に壊れ、破れ、ガラクタに様変わりしてしまう。


 蔵は半壊だった。当然、中にしまわれた物品も粉々。見るも無惨な形に様変わりしている。半壊した蔵の前。そこに立つのは、一人の少女。倉を破壊した張本人である。


 色素の薄い金色の髪。日に焼けた白い肌。赤い瞳。ふっくらと膨らんだ唇。


 レイ・エリザベート・ヴィシャス。

 傾国の美女という言葉が、ピタリと会う少女だ。


「……さっさと立て。このぐらいで死ぬたまじゃないだろ」


 倒壊した倉をレイは睨む。瓦礫が持ち上がり、その下から男が現れた。

 銀色の甲冑を来た男。こけた頬。白い長髪。青い目。男はレイを睨み付ける。ゆらりと立ちあがり、剣を構える。


「そんなに、戦いたいのか」


「ええ。戦う理由は充分にある」


 レイは剣を出現させ、同じく構える。

 睨み合う男女。

 一触即発の空気。

 張り詰める緊張。


 その空気を切り裂いて、レイが一歩目をきる。ついで、男が地面を蹴る。二つの剣のつばぜり合い。どちらもがどちらをも押しつぶそうと力を込める。

 レイが力を抜き、男の体勢を崩す。前のめりに突っ込んできた男の腹に手を当てた。


 瞬間、男の腹部にて小さな爆発が起きた。男は再び瓦礫の中に吹き飛ばされる。木片が空中に舞い、土埃が漂う。レイは油断なく瓦礫へと足を向ける。


 まだ死んじゃいない。あれくらいでは、絶対に死ぬものか。男に対する信頼とも言える確信。その確信に応えるように、男が飛び出してきた。


 鋼の切っ先をレイに向ける。袈裟懸けに振り下ろされる剣。レイは体をそらして避ける。そして横なぎに剣を振り、男の首を狙いすます。男は頭を下げて、間一髪その攻撃を避けた。


 距離が開き、睨み合う。


「毎日毎日。せいが出るわね」


 縁側に腰掛けて、佐々木英子が湯呑みを傾ける。その横には、佐々木陽一がせんべいをかじっていた。この夫妻こそ、この佐々木家の真の住人である。


「お茶、まだあるか?」


「私の分できらしちゃったわ。持ってくるわね」


「ああ。頼むよ」


 夫妻が話している間に、また爆発が起こった。今度は車庫が爆破された。アルミのこげる匂いとともにホコリと煙が舞い上がる。


「あまり、壊さないでくれよ。頼むから」


どうせ、聴いてはいないだろう。諦めを覚えながら、陽一はせんべいをかじった。

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