魔王に平和は似合わない

小宮山 写勒

一章

第1話

 夏。

 青々とした田畑が広がる。田舎町。セミの泣き声が山々から響き渡り、熱気の中に染み渡る。いつもの夏。いつもの景色。のどかな田舎の風景。そこに場違いな爆音が響き渡った。


 田中圭一は顔を上げた。


 緩やかな坂道が、山の中腹にある寺院に向かって伸びている。そこから枝分かれするように、左右に折れる道。道沿いに民家から煙が上がっている。


「また、佐々木さんとこの魔王ちゃんか」


 頬を歪ませながら、圭一は言う。

 彼の視線の先には、一軒の家があった。寺へ伸びる道を、右手に折れてすぐのところ。二階建ての住居。黒い屋根瓦が生垣の上から顔を覗かせる。佐々木さんの家。そこで暴れているのは、ホームステイの外人さん。


「あれ、またかい」


 田中恵子が言った。その声には、呆れた調子が含まれていた。


「ああ。まただよ。ほんとに爆発を起こすのが好きなんだね、あの子は」


「外国の子だからね。派手なことが好きなんでしょうね」


「そうかもしれんな」


 互いの顔を見て、肩を竦め合う。そして、何事もなかったように、二人は作業に戻って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る