第28話 激戦
柳田軍本隊は、比較的重要拠点となる神無月基地を襲撃していた。
敵が秘密兵器を配備するなら例の子供を監禁している所だろう。
主要な基地には現れない。だが主要な基地には兵器がある。水無月の戦力も削がれたとは言え、実質対等になっただけだ。
対等なら戦闘経験でこちらが上だ、と柳田は戦闘能力で上回る一方的な戦闘を楽しんでいた。
そして先程、北端の基地に派遣していた分隊が全滅したとの報があった。
やはり秘密兵器はそっちにいたか。思ったより
そんな所に総戦力を投入する事はない。今の内に、それ以外の主要な基地を叩き潰せば最後にはこっちが勝つ。
だがすぐまた分隊全滅の報が入る。
同じ事を報告するな! と叱咤したが、どうやら別の基地の様だ。正確にはその隣。
近い所だから一緒にやられたのか。ジェット機で移動すれば不可能な距離ではない。しかし国内でそんな物を配備している基地はないはずだ。
柳田は搭乗している戦車に主砲を撃たせて建物を破壊する。
ここは街中に近い為ヘリなどの航空機は用意していない。しかし対空装備は万全だ。相手も自分の基地は攻撃できない。
また報が入る。
そこそこ装備を整えている分隊だ。それが全滅。ジェット戦闘機の大群でもいるのか? と分隊の分布図で詳細を確認する。
北端の基地に派遣した分隊が全滅。その次にやや南にある分隊。
そしてまたその南。この基地から見れば北にある。
分隊を全滅させている秘密兵器は、攻撃しながら南へ移動している。次はこの基地だ。
柳田はハッチを開けて上空を見る。
まだ何も見えない。
前方には歩兵部隊による戦闘が繰り広げられている。こちらの方が優勢だ。
柳田は、ゆっくりと前進している戦車から飛び降りた。
秘密兵器相手には車内の方が危険だ。司令官の乗る戦車など真っ先に狙われる。
柳田は全軍に注意を怠るなと命令する。
敵の歩兵が撤退を始めた。いよいよくるか、と緊張を高めた所でそれとは裏腹な、高らかな笑い声が基地に響く。
肉声ではない、拡声器を使ったような音響だが、これは子供の声だ。
水無月軍は皆一様に周囲を見回すが、声の主がどこにいるのか分からない。
その内一人の兵士がビルの屋上辺りを指さして、皆そちらの方を見る。
確かに何かがいるようだが、小さくてよく見えない。
「逃げるなら逃がしてやるよ。でも逃げねぇなら覚悟しろよ」
ズビーッ! というアニメのようなビーム音と共に、ビルから光線が伸びる。
それは戦車を直撃し、赤く熱した。
わらわらと乗員が脱出すると戦車は爆発。
ビルからは続けてビームが降り注ぎ、兵員が逃げ惑う。だが人は的が小さい為直撃する事はない。
しばしの間、逃げ惑う人々をからかうようにビームが走り続けた。
時折ビームが途切れるのは拓馬が息継ぎしているからだ。
「人間ばっかじゃ弱すぎてつまんねぇよ。さっさと帰れ」
遊びに飽きたのか攻撃が止んだ。
その隙を逃さず、兵隊達はビルに向かって発砲するが元々的もよく見えないし、距離が遠すぎる。
それでも何十人もの兵が一斉射撃しているので、何発かは届いているはずだがビルの屋上だ。少し身を隠せば全く当たらない。
「やる気だなお前ら。覚悟は出来てんだろうなー」
不吉な言葉の後、ゴゴゴという音と共に地面が揺れた。
地震か!? こんな時に? と動揺するも地面に立つだけの生き物である人間にはどうする事も出来ない。
立っている事も出来ず倒れ、ある者は誤って発砲し、より混乱を大きくした。
地面に亀裂が入り、何人かが飲み込まれ、阿鼻叫喚の地獄図となる。
だがそれも数秒の事ですぐに収まった。
「どうだ……、まだ……、やるか」
息を切らした声が基地に響く。
柳田はその隙に割れてデコボコになった地面を走り、前方にいた兵士の首根っこを掴む。
「おい! なんだアレは? あれは前の奴らじゃねぇぞ。お前の報告にあったあのガキじゃねぇのか?」
首を掴まれた兵士、桐谷は動揺しながらも「そのようです」と答える。
柳田は桐谷の胸ぐらを掴む。
「どういう事だ。報告と全然違うじゃねえか。あいつが他の分隊を全滅させただと!? 俺達はアイツを奪還しに来たんじゃねぇのか」
蒼白になる桐谷は、あうあうと口を動かすだけだったが、やがて一言「降伏しましょう」と言った。
確かに相手は逃げるなら逃がすと言っている。
「バカヤロウ! そんな真似ができるか」
柳田も秘密兵器が来る事までは予想して作戦を練っている。
「プランBだ。お前を班長に任命する。アイツを食い止めろ。その間に俺達は体勢を立て直す」
桐谷は何を言われているのか分からない、というように呆ける。
「心配するな。お前は英雄だったとお嬢様に報告してやる。それともこれ以上幻滅させるつもりか? 今ここで英雄になって二階級特進すればお嬢様は永遠にお前の事を忘れないぞ。そうだ、お前の銅像を建ててやろう」
桐谷は、はは……、引きつったように笑う。
よし、とそれを肯定と受け取ったとばかりに柳田は声を上げた。
「地獄の敷石!」
部隊から歓声が上がり、大部分が撤退を始める。
桐谷を含めた部隊の一部を残し、柳田達は速やかに撤退していく。
残存部隊は、発煙灯を焚き、撤退を補佐する。その班長である桐谷は部隊の中央でライフルを構えたまま茫然と立っていた。
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